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氷の溶ける時  作者: 千斗
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お久しぶりですみません!

 個の佐倉。

 集の白城。

 意味は言うまでもないが、個々の力を最重要に置いている佐倉家と、集団としての力を最重要に置いている白城家、という意味だ。

 いつの先代が作ったのかは知らないが。



◇◇◇



「すみませーん、佐倉ですー」

「はぁーい、今行きますねぇ」

 白城家がお隣さんだというのは既知の事実だ。しかし一世代前まではずっと仲が悪かったという。その証拠に、私の祖父母と剣の祖父母はとても仲が悪い。もし朝一番に玄関先で出会おうものなら一日機嫌が治ることはないほどだ。

 そんな関係だった両家も、今では夕飯のおかずが余ったからとお裾分けするほどまでになっている。

 しかしあくまでそれは両親と私達に限っての話。祖父母は今でも、お裾分けしてもらったものには手も付けない。剣曰く、白城の祖父母達も大差は無いらしい。

 そんな祖父母たちの元で生活しているにも関わらず、私達親子世代が仲がいい理由。それは――。

「おぉ!!これは凉美さんに希歩ちゃんじゃないかぁ!久々だねぇ!元気にしてる!?頑張ってるかい!?凉美さんは相変わらずお美しい!!」

 この人を見て、誰が剣道名門家の次期当主だと思うだろうか。丸坊主に筋骨隆々の、熱血漢の代名詞みたいなこの人を。

「ちょっとお父さん、突然出ていったら、凉美さんと希歩ちゃんが驚くでしょう」

「いやぁ、これはすまないすまない!将来有望な剣士と美人さんが来たと知っては居ても立ってもいられなくなってな!!ははははっ!!」

「もう、この人は剣士と美人に目が無いんだから……。ごめんなさいねぇ、こんなのが白城(こっち)の次期当主で」

 実の奥さんにまで言われてしまっている。

 何を隠そうこの方、白城家次期当主白城謙吾(けんご)さんである。父と共に全国で名を馳せた猛者だ。

 冷え込んだ佐倉と白城の関係をここまでのものにした張本人でもある。何をどうしたのかは知らないが、きっと凄いことをしたのだ。

 ……美人に目がないなんてオマケ評価も付いてはいるけれど。

「いやぁ、それにしても凉美さんは相変わらずの美し……」

「あ、そうだ凉美さん、南瓜の煮付けが上手くできたの。また貰って頂けるかしら?」

「あら、それは嬉しいわ、ちょうど夕飯のおかずに困ってたの。それじゃあ遠慮無く頂こうかしら」

「そうそう、そういえば大根も……」

 母同士、奥様トークに花が咲く傍らで、私はすっかり相手にされなくなってしまった謙吾さんの話し相手になっていた。

「……今日も稽古大変だったろう、まだ小さいのに本当に希歩ちゃんは偉いねぇ」

「そんなことありません。まだまだ強くならないといけないから」

 実際にはもっと遊んだりしたいけれど。その言葉を無意識に飲み込む。

「剣なんて遊んでばっかりで……希歩ちゃんの爪の垢を煎じて飲ませたいよ」

 剣の名前が出て、ふと今日の出来事を思い出した。

「あの、剣は……」

「ああ、剣なら鳴神公園に行ってるよ。クラスの友達とドッジボールするとかで。本当に希歩ちゃんの爪の垢を煎じて飲ませたいよ」

「そうですか……。ちなみに、爪の垢は汚いのでダメです」

 爪の垢を煎じて飲ませるという言葉の意味が皆目検討がつかない。どれだけ私の爪の垢を煎じて飲ませたいのだ。

 それはともかくとして、剣に雪が溶けないうちに遊ぶと約束したのだ、時間ができたならなるべく早めに遊びたい。しかし残念な事に今は剣はいないようなので、雪が溶けないことを祈って今日のところは諦めよう。

「それじゃあ、今度はこちらから何かお裾分けするわ」

「いいのよー、そんな気にしないで」

「それじゃあまた」

 向こうで奥様トークが終わりを迎え

「あ、そうよ涼美さん、この前PTAの会合でね」

 なかった。まあ、奥様トークが一度の区切りだけで終わることがあるはずもないとは子供ながらに知っている。

「まったく、本当に女ってのは話が長いよなぁ。希歩ちゃんはもっとさっぱりした女性になってくれよ。じゃないと男は大変なんだ、例えばな――」

 美人大好き謙吾さんだが、もし美人で話の長い人がいたらどうするのだろう……。そんなことを思いながら、奥様トークが五回目の区切りを以て終わりを告げるまで、謙吾さんの愚痴を聞き続けていたのだった。


次回にて、希歩の過去は閉幕……です(たぶん)。

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