第6話
翌朝、リンは窓から差し込む日差しを感じ目を覚ました。
昨日の夜、リンはマリアとダノに大まかな事を話終えてすぐ眠りについたのである。
————私の新しい人生の2日目が始まるのね・・・。
まぶしいぐらいの日差しにリンは目を細めながら暫くの間感傷に浸っていたが、ノックの音が聞こえ我に返る。
「おはようございます。マリアでございます。」
リンは慌ててベッドから起き上がると、寝る前に渡されたこの国独特の薄い布で作られているロングスカートのようなパジャマの裾を直し、髪の毛も手櫛で整えた。
「ラーシャ様?」
マリアは返事をしないリンにもう一度ドアの向こうから声をかけた。
「ごめんなさい、入って。」
慌てたようなリンの声で、マリアはリンが起きたばかりであると推測し苦笑する。静かに開けられたドアから現れたマリアが苦笑を浮かべているのに気づくと、リンは照れくさそうに下を向いた。
「寝坊しちゃったわ。」
そんなリンの言葉に笑い声をこぼしたマリア。
「寝坊ではございませんわ。まだ朝の7時ですから。ちょうどいい時間でございます。」
それから顔を洗い服を着替えると、リンは自室にてマリアに用意してもらった朝食を一人静かに食すのであった。その間、マリアはずっと部屋の隅に立ちリンが食べ終わるのを待っている。
————今日の予定はもう決まっているのかな。
一人もくもくと用意された朝食を食べながら、リンは今日の予定を考えた。もし予定が決まっていないのであればアルキシンのもとへ行こうと考えていたのだ。
「ねぇ、マリア?今日は何か予定があるの?」
段々と言葉遣いがフランクになってきたリンにマリアは内心嬉しく思いながらリンの問いに応えた。
「いいえ、何も予定はありません。」
「なら陛下にお会いできる?お時間とっていただけるか聞いてみてくれる?」
マリアは微かに表情を曇らせたが、すぐに了承の意を示した。
「・・・わかりました。ですが良い返事が頂けるかどうかはわかりません。」
リンはその理由について予測が出来ていたので
「えぇ。わかっているから大丈夫よ。」とだけ答えるのであった。
朝食を終えたリンは、自分の部屋でダノとおしゃべりをしながら過ごしていた。
まだ部屋の外を自由に歩き回ってよいという許可が出ていないとダノに告げられたため、それ以外の選択肢はなかったのだがリンはそれに対して不満はなかった。むしろ、自分が心から信頼できる相手と楽しく話す一時をリンはとても楽しんでいた。
「そう!じゃあダノの旦那さんはこの国の騎士なのね。どうやって出会ったの?」
声をはずませながらダノを質問攻めにするリンにダノは漸くリンの年相応な姿を見る事ができて嬉しく思った。
「私はゴルノア様の侍女をしていたのですが、その際に・・・」
そんなほのぼのとした時間を過ごしていた時、マリアが微笑みを浮かべながらリンの部屋にあらわれた。
「ラーシャ様。陛下から許可を得る事が出来ました。これからすぐにお会いして下さるそうです。」
そんなマリアの言葉にリンは自分の心臓が大きく高鳴るのを感じた。無意識に頬がゆるみ、嬉しそうな笑みを静かに見せたリンにダノとマリアは少し不安を覚えた。なぜならこんなにわかりやすい態度でアルキシンと接すれば、誰もがみなリンの想いに気づいてしまうだろうと考えたからだ。だが二人は、リンに会った直後、ラーシャに仕えろと命令をくだしたアルキシンの態度を思い出し、アルキシンの前ではリンは違う態度を取るのかもしれないと考え、ひとまず様子を見る事にした。
「・・・ありがとう、マリア。ではすぐに参ります。あっ、服はこのままで大丈夫?」
この国では貴族や王族など、身分が上の女性が普段着として着ている長い丈のシンプルなドレスのようなロングスカートをリンも着ている。薄い桃色のふわりとしたデザインでとてもリンに似合っていたが、リンは礼服のようなものを着なければいけないのか不安になったのだ。
「いいえ、そのままの格好で大丈夫ですわ。」
ダノの言葉に安堵するとリンはマリアとダノ、そして外に控えている護衛官に導かれアルキシンの待つ執務室へと向かうのであった。
ようやくアルキシンとまともに会話できるっぽいフラグたちました




