第4話
「さっそくですが、私の侍女になってくださったお二人にはお話しておきたい事があります。」
リンはそう前置きをするとソファーに座り、二人にも向かい側へ座る事を促す。
マリアとダノはそんなリンの言葉に緊張を覚えつつ、ソファーに座ったリンの向かい側へと歩み寄ったが、立ったまま座る気配を見せない二人にリンは首を傾げ二人を見やる。
「申し訳ございません。使用人である私共がラーシャ様のお部屋にて腰をおろすことはできません。」
リンの視線の意図をすぐに理解しダノが断りを入れる。そんなダノの言葉にリンは困ったように笑った。
「そうだったわね・・。でもきっと話すと長くなってしまうし、陛下の為、いえ、この国の為にも大切なお話なの。礼儀に反する事をお願いして申し訳ないのだけれど、今回だけは私の我が侭を許して座ってくれると嬉しい。」
そこまで言われてしまえば、逆に座らない方が礼儀に反する気がしてきたマリアとダノは二人で目を見合わし、苦笑しながらゆっくりとソファーに腰を下ろした。
そんな二人にリンは嬉しそうに笑う。
「ありがとう。・・・話す前に一つ確かめたいことがあるの。これから私がどういった態度を取ろうとも陛下のため、そして国の為にする事だと信じ、私に忠義を尽くしてくれる?」
いきなりそんな事をいうリンに二人は不安な表情を見せた。
「まだ会って間もないのに自分に忠義を尽くせなんて言うのは倫理に反しているわよね・・・。まだラーシャとして何も実績がない私に忠義を尽くせと強いるなんて傲慢だと思われても仕方はないと思う。でも、アルキシン陛下が貴方達を私の侍女としてくれたという事は、きっと貴方達はアルキシン陛下からの信頼も厚い・・アルキシン陛下が信頼をしている方なら私は何の疑いもなく信頼できる。そんな二人だからこそお願いしたいの。陛下から憎まれている私に何があっても忠義を尽くしてほしいと。」
まるで懇願するかのように二人を真剣な顔で見つめるリン。
マリアとダノは暫く無言でリンの言葉の意味を考えていたが、まずダノがリンと同様に真剣な顔でリンに言葉を投げかけた。
「・・ラーシャ様は何故陛下に憎まれていると?」
悲しげに瞳を細め視線を下げたリンは、震えるように答えを口にした。
「・・・それは知っているからです。陛下の身に起きた悲劇の真相を。」
マリアとダノは、びくりと肩をゆらし信じられないものでも見るかのようにリンを見た。
「まさか・・なぜそれをっ?!」
思わず漏れたマリアの疑問。前王と王妃の死に関する悲劇はこの王城で勤務する者の中で知らない人間はもちろんのこと、国民であれば誰もが知っている事だった。だが、真の理由を知るものは宰相や大臣らなど、この国の重役だけであり、何故そのような悲劇が起こったのかという事はこの国の重要な秘密なのである。
「それをお話するには、まずお二人から忠義を誓っていただかないとお話できません。お二人ともご存知の通り、真相を知る者がそれを語る事は禁じられています。それを私は破り貴方達に真相を語ろうとしている。私の使命と・・貴方達にしか告げる事のない私の想いを分かってもらうために・・。ですから私に忠義を尽くして下さるという信頼の元にお話したいのです」
マリアとダノは顔を見合わせ、お互いの意思を確認するかのように頷き合った。
「ラーシャ様の侍女としてこの部屋に参った時から私達はラーシャ様に忠義を尽くす覚悟でした。それはお会いしてからも変わりません。そして、私達はラーシャ様からの信頼を裏切る事は致しません。」
「・・・ありがとうございます。」
安堵の表情を浮かべながらマリアとダノに微笑みかけるリン。
一度瞳を閉じゆっくりと息をはいたリンは決意したかのように顔をあげマリアとダノを見た。
「これからお話する事は全て何があろうとも口外しないでください。神官、護衛官、貴方達の家族・・そして陛下にさえも。」
そう前置きし、マリアとダノが頷くのを確認してからリンはゆっくりと語り始めた。いつ自分とルシアが出会い、どのようにこの世界のことを学んだのか、どのようにアルキシンに起きた悲劇の真相を知ったのか、そして・・その悲劇が起きた理由は何であるのか。
「私はその時まだ自分がラーシャであると知りませんでした。なぜラーシャが現れなかったのか、なぜアルキシン陛下がこんな苦しみをおわなかればならなかったのか、何も知らなかった私は陛下と同じようにラーシャという存在を憎みました。その時ルシアから教わりました。自分がラーシャであると・・・。」
そこで一旦言葉を区切ったリンは、その時のことを思い出しつらそうに顔をゆがめた。だがそれは一瞬のことで、すぐにまた無表情になると淡々と説明を続ける。
「・・・だから理解できるのです。陛下が私を憎む事。私がこのようにこの世界に現れた事で陛下がどれほど苦しんでいるか・・・。だって私は陛下の幸せをこわし、愛するご両親を奪った敵ですもの。」
そう言葉を続けたリンにマリアとダノも、表情をゆがめ悲しそうにリンを見た。まるで何かを隠すかのように無表情を貫いているリンを見てマリアは、ふと思いあたる事があった。
「間違っていたら申し訳ございません・・・。ラーシャ様はもしやアルキシン陛下をお慕いしていらっしゃるのですか?」
リンは目を見張り驚きを露にマリアを見る。ダノも同じように、マリアの言葉に驚いたようだった。




