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闇夜の月  作者: a-m
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第1話

日本語では月華(げっか)ですが、ホスタ国ではラーシャです。

「陛下・・・ただ今神殿より急ぎの使者が参りました。」

 24歳という若さにしてホスタ国の王であるアルキシン・ホスタを幼い頃から知っている宰相のゴルノアは複雑な表情で執務中の王、アルキシンに声を掛けた。

「何だ」

 書類から視線をそらすことなく、ゴルノアに返事を返すアルキシンであったが、ゴルノアから醸し出される雰囲気に異変を感じ、青い瞳を書類からゴルノアに向けた。

 ゴルノアは苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべ白い立派な口ひげを手でなでていたが、アルキシンの視線を受け、意を決したかのように口を開く。

「陛下・・・神殿にお向かい下さい。ラーシャ(月華)様が突如神殿に降臨なさったとの事です。」

 “常に冷静、常に無表情”と、ある意味評判のアルキシンであったがゴルノアから放たれた”ラーシャ(月華)”という言葉にその青く澄んだ瞳を瞬時に曇らせた。

 手に握られていた書類を荒々しく床に投げ捨てると、憎しみに満ちた瞳をゴルノアからはずし、無言で執務室をあとにした。

 一人執務室に残されたゴルノアはアルキシンの怒気に満ちた背を見つめ悲しげに表情を曇らせるのであった。




「陛下っ!お喜び下さい!我らがホスタ国にラーシャ様が降臨なさいました!!」

 アルキシンが荒々しく華美な装飾がなされている神殿の重いドアを開くと、既に数人の神官が喜びを全身で現しながら、その場に膝をつき頭を垂れていた。

 戸が開かれた音によりアルキシンが来た事に気づいた一人の神官が、満面の笑みと共にアルキシンに言葉を掛けたが、アルキシンのその鋭い視線は、神殿の中央で無表情にアルキシンを見つめているリンに向けられていた。

 神官達はアルキシンの態度に驚き、微かに怯えながらも忠実にアルキシンに道を開ける。

 アルキシンはそんな神官達に目を向ける事もなく、睨むかのようにリンを見つめていた。



 ———ようやく貴方に会えた・・・。例え憎しみを宿した瞳であっても貴方の瞳に私が写っている・・・。



 鈴は暫くの間無言でアルキシンを見つめていたが、すぐに我にかえるとアルキシンの心を少しでも軽くする為に口を開いた。


「貴方の事は存じ上げております。アルキシン陛下。私は貴方達が拝める存在である月の神ルシアの命で、この国を守る為に異世界から参りました。ラーシャ(月華)という存在は貴方にそんな憎々しげに見られる存在ではないとルシアから聞いています。もう少しご自分の立場をご理解されてはいかがでしょう。」


 丁寧な言葉使いではあるが吐き捨てるかのように、そして見下すかのような表情で淡々と言葉を放つリン(鈴)にアルキシンは歪んだ笑みを見せた。


「ほう。貴方は俺に敬ってほしいと?」

 リンまであと一歩のところで立ち止まり、リンを憎んでいるという感情を隠す事なくアルキシンは神殿に入って初めて口を開いた。

 そんなアルキシンの言葉にリンは微笑む。

「そんな事は期待しておりません。私が望むのはこの国の平和です。その望みを実現する為には貴方や貴方が信頼されている方々と協力する事が必要です。表面上だけでも大人な対応を取っていただきたいのです」

 アルキシンはリンの発言を馬鹿にするかのように嘲笑った。

「俺はラーシャなどの助けは必要ない。即刻自国へ戻られよ」

 リンは一瞬言葉に詰まったが、それを振り払うかのように力強くアルキシンを見上げた。

「それは出来ません。最初に申し上げましたが私がこの世界、いえ・・この国に参りましたのはルシアの命ゆえ・・。私には使命があります。その使命を果たすまでは私はどこにも行きません。貴方はどうやらラーシャ(月華)という存在がお気に召さないようですが、私はこの城に滞在させていただきます。」


 気丈にアルキシンを見つめるリンにアルキシンは暫くの間無機質な視線を向け続けたが、静かにリンから視線をそらすとそのまま神殿を出て行った。


 残されたリンは先ほどのゴルノアと同じように一瞬悲しげな表情を見せたが、微かにため息をついたあと、二人の様子を緊張の面持ちでうかがっていた神官達に声をかけた。

「すみませんが、どなたか私を”月華”・・いえ、こちらの言葉では”ラーシャ“ですね・・。ラーシャの為の部屋を教えていただけますか?ラーシャが現れた時に使用する為の部屋はどこの国にも用意されていると聞きました。」

 神官達はアルキシンに見せていた顔とは違い優しげで謙虚な女性に変貌したリンに驚いたが、それを隠すかのようにすぐに了解の意を示し護衛官を呼ぶとリンを囲うようにルシー・ラーシャと呼ばれる”月の花びら”という名の部屋へとリンを導いたのであった。



 ————我が侭を許して下さい・・キース。

 そっと視線を下げたリンは心の中でアルキシンに語りかける。



 アルキシンが憎む存在のラーシャ

 憎しみしか生まない存在のラーシャであるリンだからこそ生まれた一つの欲




 それはアルキシンの憎しみは自分だけのモノにするという歪んだ願いであった


もう日本じゃないので(りん)ではなくカタカナ表記でリンにします。

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