第13話
アルキシンは会食の場へとおもむき、大きな長い机に一人座りゆっくりと食事をとっているゴルノアの真正面へと腰をおろした。アルキシンが執務室を退室した際に、アルキシンの侍女らがすぐに料理場へ指令を出したことで、アルキシンの席にはすでに食事が用意されていた。アルキシンはゴルノアに視線をやることもなく食事に手をつけたが、ゴルノアの愉快そうな視線を感じ仕方なくゴルノアに声をかけた。
「何が言いたい」
素っ気ないアルキシンにもゴルノアは気にすることなく愉快そうに笑った。
「いやいや、陛下が書類が山ほどある日に食事に来られるとは一体何があったのかと。」
ゴルノアの疑問はアルキシンにも予想できたことであった。なぜなら、アルキシンは日頃仕事が多い日は誰が何と言おうと食事をすることも、休憩をすることもなく仕事を続けるからである。
今日もその仕事の多い日にあたるのだが食事をとりにきたアルキシンに、ゴルノアはリンと何か関係があるかもしれないと思いつつ愉快気にアルキシンに質問を投げかけるのであった。
「試す機会を与えただけだ。」
多くを語らず口を閉ざしたアルキシンにゴルノアは
「ほう。そうでしたか。それは楽しみですなぁ」とだけ返し、熱い茶をすするのであった。
「まだ30分ぐらい時間あるわよね・・。あと陛下がお読みでない書類はどれかしら」
執務室には数名の文官とリンだけがいた。文官はその身分ゆえにリンに挨拶をすることが許されていないため、直接リンの顔を見ることが叶わない。色々な噂が飛び交うリンに、「いきなり現れたこの女性は一体どういった方なのだろう」と思いながらも、自分達の仕事に精を出していたのだが、リンの言葉に文官達はお互いに目を合わせ、リンの問いに答えるべきかどうか迷っていた。声をかけられていなければ、文官達から王であるアルキシンと同じ階級であるとお達しがあったリンと、言葉を交わすことは認められていないからである。今のリンの言葉は独り言のようにもとれるため、文官達は誰も口を開かなかった。
リンはというと、特に文官に声をかけたわけでもなく、疑問を独り言のように口にしただけであったのだが、アルキシンの机を見やり、二つの山にわけられた書類を見てどちらがまだ読んでいない書類の山なのか判断がつかずにいた。
アルキシンの机の前で悩んでいるリンの様子を後ろからそっと見ていた文官達はひそひそと声を掛け合い始めた。
「なぁ。お声をおかけした方が良いか?」
「いや、お達しがあっただろう?あの方の階級は陛下と同様だと思うようにと。声なんて掛けたら不敬罪だ」
「でも、まだ悩んでおられるぞ?」
「しかし・・」
3人の文官達はリンから声をかけてくれれば、と思いながら声を交わしていたところ、小さくため息をついたリンがいきなり振り向く素振りを見せたため、3人は慌てて視線を下げリンの顔を見ないようにした。
「あの・・ごめんなさい。どうしてもわからないことがあって・・」
そんなリンの申し訳なさそうな声に文官の一人が即座に返事を述べた。
「陛下と同様の階級であるとお聞きしております。私共にそのような気遣いをしていただく必要はございません。何でもお申し付け下さい。」
返事をしながらも視線は決して上にむけず敬意を現している文官。リンは自分の階級についてすでにアルキシンが通達していることを考えていなかったため、少し驚いていた。
————そうよね・・ラーシャだとは言わなくても、身分については言わなければ私が執務室にいることで何か問題が起こるかもしれないものね・・。何で気づかなかったのかしら。皆さん私の顔を見ないのに・・・。
リンは文官達の身分からして、宰相であるゴルノアとは違い自分達から挨拶をすることが出来ないという規則があることを思いだし、自分から挨拶をした。




