第10話
リンはそんな二人に苦笑をもらした。
「たとえ私が望む生活が貴族以下であっても、私は決して不幸だとは感じないわ。皆がこの国の為に収めている税金で暮らさせてもらい、毎日安心して寝むれる場所もある、そして毎日ご飯もいただける。そんな生活がこの世界においてどんなに幸せなことか私は知っています。他国から陛下が何か言われることがない程度に暮らせればそれでいいの・・・。」
ラーシャであるリンが何回も同じドレスを着て社交の場に出れば、アルキシンが王としての責任を果たしていないと思われる可能性がある。それをリンは危惧しているのだ。
「・・・分かりました。なるべく出費を抑えます。ドレスは同じのを着てもその場にいる人が違えば気づかれることもないでしょう。ですが、陛下はお気づきになられると思います。宝石も買わない、ドレスも数着しか買わないとなれば逆に陛下に対し失礼にあたるかもしれません。」
リンはそんなマリアの指摘に、
「そうね・・・。それは考えてなかったわ。ごめんなさい。」と述べると悩む素振りを見せた。
マリアとダノはそんなリンの様子を、リンが考えを変えてくれればと祈りながら見つめるのであった。
————どうしたらいいかしら・・・。宝石に関しては嫌いだと公言すれば問題はないとして・・ドレスも数着しか買わないとなれば、陛下のことだから何か思うかもしれない・・。
暫くの間、無言で考えていたリンであったが、諦めたかのように小さくため息をつくと、心配そうに自分を見つめているマリアとダノに軽く微笑んだ。
「宝石類は好きではないと公言しますからそれは問題ないでしょう。でも、ドレスに関しては・・マリアとダノに任せます。必要な場合は用意して下さい。」
「はい!お任せ下さい。」
ほっとしたような表情で笑みを浮かべる侍女二人にリンは「お願いします。」とだけ返すのであった。
その夜、リンはルシアと夢の中で出会った。
リンは自分が寝ているのを感じながらも、意識が覚醒するのを感じた。
「・・・ここは?」
リンは辺りを見渡すが、そこは真っ暗な闇に包まれており、どこを見ても何もない空間だった。そんな空間の中で浮いているような浮遊感を味わいながら、しばらくするとリンは目を凝らしじっと一点を見つめた。
「ルシアね?」
リンがじっと見つめていた箇所に優しく静かな光が現れた瞬間、そこには静かな光に包まれたルシアがいた。
「やっぱりルシアだったのね。」
嬉しそうな笑みを見せるリンにルシアは美しい金髪をなびかせながらリンのもとへと近づいた。
その表情は相変わらず無表情で感情が読み取りにくいものであったが、どこかリンを案じているような雰囲気を帯びていた。
「悔いはないか」
ルシアの口から一言目に発せられた言葉にリンは思わず笑みをこぼす。
「ありがとう。心配してくれて・・。でも、本当に悔いはないの。むしろ考えていたよりもずっと幸せなの。私ね・・やっぱりキースが大好きなの。どう思われていてもいい。キースの為に私には出来ることがある・・それだけで私は満たされるの。」
心から幸せそうに微笑むリンにルシアはなおも問いつめた。
「幸せだけではないだろう?悲しみも覚えたはずだ。」
「・・・そうね。愛する人に憎まれ、死を望まれるのはどんなに我慢しても苦しいわ。でも・・・キースは私を憎むことでご両親の死を乗り越えた・・・。憎むことが時には人を生かす力になることもあると思うの・・。決して良いことではないけれど、キースには他に選択肢がなかったし、ラーシャが原因で起こった悲劇なのだからラーシャを憎むのは当然のこと。だからね、私は憎まれたままでいたい。」
微妙なところで区切ります;;;




