表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/100

七十

「バレッタを忘れてきたみたい。明日でいいから持ってきてもらえない」

 バックを覗き込んで紗江子が言った。

「バレッタ? なんだい、それは」

「髪留めよ、こんな形の。姿見の前にあると思うわ。シュシュもお願い」

 紗江子は指で扇形を形作る。ああ、あれか。俺は彼女が髪をまとめるのに使っていた装飾具を思い出した。

「それならさっき見かけたぞ」

シュシュは知っていた。俺は無遠慮に紗江子のバッグを探る。

「ほら、これだろ?」

 手に取った俺から、凄い勢いで紗江子が奪い取って行く。

「バカっ!」

 どうやらそれはショーツだったらしい。くるくる丸まった状態では判別は困難だ。よく女性は間違えないものだなと感心する。

「検査にはいったらジュンはおうちに帰って休んでね。昨日もあんなところで寝かせちゃったし……。あなたまで体を壊したりしたら、お母様や祥子ちゃん達に申し訳なくって」

「うん、そうさせてもらう。夕方また来るから必要なものを思い出したらメールで知らせてもらおうかな。具合はどうだい?」

「さっき飲んだお薬が効いてるみたい。痛みは治まったわ」

 そうは言うのだが顔色が冴えない。少女の頃から苦労してきた彼女の強さが弱音を吐くことを望まないのだろう。

「検査の結果がわかるのは明後日だって言ってたよな。俺ひとりで聞いていいのか? お母さんも呼んだほうがいいんじゃないのか」

「大丈夫だってば」

 頑なに母親への連絡を拒む紗江子だったが、後でトラブルになっても困る。俺は祐二に連絡させておこうと考えていた。

 検査を終え、病室に戻ってきた紗江子が憔悴し切った表情でこぼし始める。

「最悪だわ、もう帰りたい。ジュンは胃カメラを飲んだことある? もどしたいのに我慢しろって言われるし、不味い造影剤っていうのを、お腹がガボガボになるまで飲まなきゃいけないのよ。エコーでぐりぐりされるのも痛くてもう嫌、 明日は超音波胃カメラも飲まされるみたいだし、肺や大腸の検査までするって言うの。痛いのは胃だけなのに」

「入院したことのない俺にそんな経験はないよ。でも早く医者にかかっておかないからこうなるんだぞ。痛みは随分前からあったんだろう?」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ