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五十八

 上映を待つ間の雑談が思わぬ方向に向かう。

「そう言えば、あたしの星は見つけてくれたの?」

 ――忘れていた。一時、インターネットで調べてはみたのだが上手くみっつ並んだ星がなく、紗江子が去らないならいいや、とほったらかしにしていたのだ。

「いなくならないんだろ? 君を直接、拝むよ」

 隣で肩を並べる紗江子に、俺はなにを拝むつもりなのだろう。

「そうじゃないの。ナオコさんの星があって、あたしのがないなんて悔しいじゃない」

 変なところで対抗意識を燃やす娘だ。上映中に彼女の希望を聞いて、適当なのを選ぶとしよう。

 席はほぼ埋まっていた。小学生のツアーが入っていたらしく暗闇のあちこちで黄色い声が上がっていた。

「えっ! 冬しか見えない星座があるのか?」

「当たり前じゃない、知らなかったの? 地球は回ってるのよ」

 地球が回ってるのは知っているが、季節によって見える星座が異なるなどどいう話はついぞ聞いたことがない。若しくは、聞いていても右から左の耳へと通り抜ける程度の興味しか持てなかったのだろう。美術館で上げたはずの俺の株は大暴落を起こしていた。

 俺は急に忙しくなった。紗江子の星は勿論のこと、元カノ用の春と夏の星を見つけねばならない。作り物の星が瞬く天井に目を凝らす。

「うまく、みっつ並んでるのがないな。あ、むっつでどうだ、ナ・カ・オ・サ・エ・コ」

「なんか適当に選ばれてるみたいで、ムカつくんですけど」

 不機嫌そうな物言いだったが、その通りかどうかは暗くてよくわからない。

「……そんなことないって、君の誕生日は?」

「七月七日、七夕よ」

 ちょうど夏の星座が映し出されていた。

「いいのが見つかった、織姫さんのベガだ。七夕生まれの紗江子にぴったりじゃないか。夏の大三角にもはいってるし、あれなら忘れないぞ」

「忘れる? 忘れるってなによ」 

 狼狽している時の俺は、あまり喋らないほうがいいことを悟った


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