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「九年間付き合った女性を裏切ったのも本当なんだぜ、君は信じてないみたいだけど」

「あんなに悲しそうな顔してたんだもの、わかってるってば。あたしもそんなふうに愛されてみたいな。今は……いいえ、ずっと二番目でも構わない。地球最後の日になったら二番目に助けに来てね」

『地球最後の日には必ず助けに行く』映画2012の主人公よろしく元カノに誓った言葉はテーマパーク行きを断った時、紗江子に伝えてあった。しかし、なんで二十六歳の小娘がこうも物分かりがよいのだ。母親が年老いた時には育ててもらった恩返しに自分が最期まで面倒をみる。だから結婚してくれともいわないし、するつもりもないと彼女は続けた。

「でも、ジュンに似た男の子なら欲しいかも」

 そういうと紗江子はペロリと舌を出した。〝都合のいい女〟どころではない。父、義父、元カノ、息子(多分)、妻とたくさんの人が去って行った昨年のハードラックが一気に帳消しにされるようだ。ドッキリか? 誰かが俺を騙そうとしているのではないのか? あるはずのないカメラを探すかのように俺は信号待ちの車内を見回した。

「小さいけど、ちゃんとお風呂もあるのよ。いまマンションに残っているひとは三階の角部屋のおばさんだけ。上がっていく?」

 マンションの駐車場で紗江子が車を降りずに言った。なにか思いつめたような表情にも見える。

 今時、風呂のないマンションもないだろう。心の中で呟きながら助手席に回ってドアを開ける。精一杯の勇気を出して言ってくれたみたいだ。細い肩が小刻みに震えていた。

「着替えも持ってきてないし、別れた女房の実家に年始の挨拶に行った娘達を迎えに行かないといけない。今夜はこれで失礼するよ」

 玄関先で肩を抱き寄せ、軽く唇に触れる程度のキスをした。性的欲求がない訳ではなかった。元カノへの義理だてでもなかったはずだ。なぜだかその気になれなかったのだ。今夜は戻らないはずの娘たちを出汁にして紗江子に背を向けた。

「おやすみなさい」

「おやすみ」

 背中にかけられる声に振り向いて俺は軽く手を振った。

どんなに深く愛し合った者同士にも、いつか必ず別れは訪れる。笑うがいい、この小心なバツイチ髭面四十男はそれがもたらすだろうダメージに怯えていたのだった。


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