四十
「出て行きたまえ! 君を公務執行妨害で警察に引き渡すこともできるんだぞ」
頭頂部の薄くなった参事が居丈高に声を上げた。紗江子は不安げに俺と参事のやりとりを見守っている。
「わたしは中尾紗江子の保護者です。会議中なら失礼をお詫びします。しかし、そちらにおられる方々の顔ぶれから察しますに、業務に関する会議でもないようにお見受けするのですが、違いますか? 中尾紗江子のプライベートに関することでしたら保護者たるわたしにも同席する権利があると思うのですが」
「なっ――」
「中尾紗江子とその従兄殿、そしてその大叔父であられる議員さん、ですよね? この集まりが公務なのですか」
参事に口を挟む隙を与えないで、事情を理解している旨を告げる。色々あって俺は権力に立ち向かうのが嬉しくて仕方がないのだ。
この状況を楽しんでる様子の俺に紗江子は安心したのだろう。ドアを開けた時、蒼白だった彼女の顔に赤みが射してきていた。
「誰なんだ?」「よく見る顔ですが……」参議と参事はひそひそと話し合っていたが、ややあって参議が口を開いた。
「君は保護者などと言っておるが、血縁者ではないだろう。こちらの母親の承諾はとっておるのかね。我々はその許可を得てここにいる。中尾さんが祐二君の話を聞いてあげないから、やむを得ず中島君に頼んでこうしているのだよ」
紗江子を顎で指して言った。はなもちならない傲慢さが滲み出ている。
参事は中島というのか――。お仕着せの教育でお決まりのコースを歩み、大した実績もなくその地位に就いたのだろう。ストレスは頭頂部に押し寄せたようだな、俺は参議の顔と参事の頭を交互に見やる。
「お、か、ね」
声を発することなく紗江子の唇が動いた。また金か――、とことん腐った母親だな。そしてそんな手段で彼女を拘束しようとするサンサンサ(参議・参事・魚)の面々にもうんざりしていた。
「保護者がダメなら権利の代弁者としての同席を求めます。彼女が認めれば成立しますよね? とにかく大の男が三人がかりで女性ひとりを責める行為がフェアとはとても思えません。まずはわたしと彼女に話し合う時間を下さい」
「君はなにか感違いしてるようだな。我々は中尾さんを責めてなどおらんよ。わたしも中島君もあくまでもオブザーバーの立場で祐二君と中尾さんの話し合いを見守っているだけだ。君こそ彼女を連れだして口裏を合わせようとしてるのではないかね」
偉そうな口ぶりは変わらないが、日常会話に頻出しない単語を並べたてる俺をそこいらの若造ではないと判断したようで、参議の言葉には警戒の色があった。
「おかしなことをおっしゃいますね、ここは法廷ではないはずですが――。例えそうだとしても弁護人と被告の打ち合わせは認められるはずです。被告でもない彼女が権利の代弁者と相談することになんの問題がありましゅ?」
俺は少し噛んだ。