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三十八

 途中で何度も暖房の温度を調整せねばならないほどの激しさだった。

「――死んじゃうかと思ったわ」

紗江子が大きな息を吐いた。

「俺のせいか? 何度も求めてきたのは君だぜ」

「だって、なんだか始めての感覚で……」

口篭り、頬を赤らめる紗江子だった。男はこういった状況に、自分が牡であるという自信を深める。俺達は前日の分までたっぷりと愛し合った。そして翌朝、俺が目覚めるより早く紗江子は中ノ原市へ発っていた。『解決したら知らせます』と走り書きを残して。

 大山の店に顔を出すと、既にカジさんは調査に向かったと告げられる。浮気調査ばかりで辟易していたらしい彼は、過去の事件とはいえ、大がかりな贈賄の真相に迫ることのできそうなこの調査に張り切って出掛けて行ったと大山はいった。しかし、あの無表情男の張り切る様子がどうにも想像がつかない。

 夜の八時を過ぎても紗江子からなんの連絡もなかった。悶々としながらも、簡単に決着するような問題でもないのだろう、魚男が居ないなら数年ぶりに再開を果たした叔母と昔話に盛り上がっているのかもしれない。なあに、明日にはまたすました顔でオフィスに座っているさ。そう自分に言い聞かせ、パソコンのメールチェックにかかった。

『ビンゴです。小野木さんの推測通り、例の市議は詰め腹を切らされたようです。当時の市長、自殺した市議の伯父にあたる参議、その周辺にもかなりの金が流れていたと思われます。逮捕者と免職者は僅かばかりの金を握らされてトカゲの尻尾切りにあったのでしょう。出納課長だった永田は簡単にみつかりました。僅かな謝礼で積年の恨みを晴らすかの如くペラペラと喋ってくれました。報告書は明日までにまとめます』

 厳重なセキュアのかけられた受信トレイにカジさんからのメールが届いていた。素早いな、予想通りの調査報告に俺はにんまりとした。美貌の女性議員が辣腕を奮い、国民の話題をさらった事業仕分けでさえ出来レースだったのだ。保守派が幅を利かし、監査機関らしきものさえない地方の議会が、談合と慣れ合いに首までどっぷり浸かっていることなど俺にも容易に想像がつく。所謂、因習というヤツだ。報酬の上乗せがある議長や役職は持ち回り、議案は密室で根回しされ、摺り合わされて成立する。そこに本来討論集団であるべき議会の姿などはない。彼等の行動原理はいつの時代も『利権』のふた文字に帰結していた。


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