二十五
「母がとった行動は――、想像つくわよね? 叔母の家に押しかけたの。『市会議員ともあろう人間が、それも義理の姪をレイプするとはなにごとだ、訴える』って。叔母の家の広間で、あたしと母、叔母とあのひとが向かい合って座っていた。母から話を聞かされた叔母は最初茫然としていたけど、正気を取り戻すとあたしに何度も謝ってくれた。ごめんね、ごめんね、って。母は『訴えられたくなければ慰謝料を払え。何度頭を下げたって娘は元には戻らない』って言ったわ。あたしは不思議に思っていた。訴えるって話はどこに消えたんだろう? 確かに謝ってもらっても、訴えても、あたしの身体が元に戻る訳じゃない。でも、なんでお金の話になってしまうんだろうって。居たたまれない雰囲気に、ひょっとしたら悪いことをしたのはあたしなのかなって、何故だか思ったりもした。母と叔母が話してる間、あのひとはただ座ってるだけ。一言も話さず、雪見障子越しに庭を眺めていた。叔母の『弁護士を行かせるから』って言葉に母はやっと納得して帰って行った。あたしをそこに残したままで」
この時の俺は正に唖然としていた。実の母親の振る舞いが信じられなかったのだ。
「それから二日後よ、あのひとは広間の鴨居で首を吊って死んでいたの」
俺が抱いた殺意はこの時点で宙ぶらりんとなった。
「叔母から幾らかお金をせしめてたんでしょうね。あのひとも死んじゃったし母は訴えなかった。あんたの将来のためだって言ってた。でも口の軽い母は酔った拍子にスナックのお客さんに喋ってしまったの。小さな街よ、市会議員の自殺の原因が女子高生との関係にあったなんて醜聞は、あっという前に街中に広がる。学校に、叔母の家に、母の店にとマスコミが押し寄せたわ。担任や友人達の態度も変わった。あたしを腫れものに触るかのように扱うようになった。もうこの街には居られない、あたしはそう思った。あのひとが叔母にどう話したのかはわからない。でも叔母は『悪いけどもうここにはおいてあげられない』って言った。保険医さんは、あのひとが自殺してすぐに学校を辞め、街を出ていた。母の許には絶対に戻りたくなかった。あの母が進学なんかさせてくれるはずない。それを諦めたくないから、あんな目にあっても我慢したのよ。散々迷った挙句、あたしは保険医さんから渡されていた或る電話番号にかけたの」




