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十八

「お先に、いいお湯だったわ」

 風呂上がりの紗江子はスエット姿だった。居間で寛ぐ俺の隣に座る。化粧を落とした彼女の素顔はとても二十六歳とは思えないほど幼く見えた。長い髪はまだ乾ききってない。しきりとタオルで挟んでは、ぱたぱたと叩くようにしている。

「ビールでも飲むかい?」

「あたし、お酒は一滴も飲めないの。父親がそうだったみたい。遺伝なのかな? 母は浴びるって表現が相応しいほどの酒豪なんだけど……。何事も程々がいいのよね」

 彼女の重い口を開かせるため、酒の力でも借りようかとの企みは早くも頓挫することとなった。まあいい、そのうち話してくれるだろう。あんな事があった後だ、今夜は早く休ませてあげよう。役目を果たした俺の中の少年は既に床に就かれておいでのようで、好々爺のように物分かりの良い俺だけが残っていた。

「部屋も暖まった頃だろう。ゆっくりお休み」

「……うん」そう答えはしたものの腰を上げる気配がない。俺に眼を向けたかと思うと、次の瞬間、焦点の合わない視線を壁に投げかける。次に俺と眼が合った時、紗江子は不意に言葉を発した。

「従兄なの」

「え?」

「魚男、加藤祐二さん。母の妹、叔母の息子なの。あたしの三つ上だから今は二十九歳になっているはずだわ」

「へえ、なのに逢ってあげなかったのかい?」

 紗江子はなにかを考え込むように膝においた自分の手に視線を落としたままでいた。やがて顔を上げ、俺を真っ直ぐ見据えて言った。

「今夜の事を説明するには、あたしの子供時代の話から始めないといけない。長くなるわ、大丈夫?」

 翌日は土曜で二人とも仕事は休みだ。時間の心配はなかったが、彼女の真剣な眼差しに俺は少したじろいでいた。


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