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『ごめんなさい。女子会の約束を忘れていました。明日は必ず』

 普段着に着替え、紗江子のマンションへ向かおうとする俺の携帯が震え、メールの着信を知らせる。紗江子からだった。

「なんだよ、こんな間際になって」

 短い文面に目を走らせ、逢えない旨を理解して俺は不満を口にする。勿論、彼女には届かない。耳の遠くなったおふくろが台所から見当違いな返事をしてくることが苛立ちを助長する。

「女子会っていっても交際相手や旦那さん、それか職場での不満や愚痴のこぼし合いね。新しく買った洋服やアクセサリーのお披露目の場であったりもするみたい。井戸端会議みたいなものよ、すべて女性目線の意見なんて実生活には役立たないことばかり。だからあたしは行かないの」

 若い紗江子の口から飛び出た『井戸端会議』なる単語に失笑した記憶がある。彼女はこう言って職場の付き合いを避けてきたはずだ。年頭の一回ぐらい付き合うつもりになったのか、だったら今夜の約束をする前に思いだしておいて欲しいものだ。

 今朝の出来事が思いだされる。斎藤のせいで予定通りに行かなくなった一切合財に軌道修正が必要だった。意中の女性を無印だった俺に奪われた斎藤が、別れた妻の友人にあることないこと告げ回っていたらどうする? 逢えないとなると余計に逢いたくなるのがミスター駄々っ子の俺だ、さして急を要する必要のないことまでが喫緊に思え始め、女子会前の数分でも紗江子に逢っておきたい、という思いが募る。携帯電話の画面を切り替え、彼女の番号を呼び出した。

 物分かりのよい大人だったり、頑是無い子どもだったりが交互に顔をのぞかせる。若い女性が不惑にもなる俺にタメ口なのは、そのせいなのかもしれない。

 ――お留守番サービスに接続します。合図の――

 無機質な電子音声が電話の繋がらないことを伝えてくる。なんだよ、電源まで切っちゃうことないだろう。ことごとく当てが外れた俺はどうしても一言文句をいわないと気が済まなくなり、この時間ならまだ部屋にいるだろうと勝手に決めつけて紗江子のマンションへと車を走らせた。

 おとなげないな、俺も。でも、ひょっとしたら女子会は口実で他の男と逢ってるのかも知れないぞ。恋人の過去にはこだわらないが、現在にはこだわってもいいはず。こじつけとしか思えないような理由だが、少年の思考となっていたその時の俺には充分な説得力があった。こと恋愛に関する限り、俺の聞き分けのなさは人後に落ちない。


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