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『二度あることは三度ある』

 末尾に小さなハートマークが二つ並んだ携帯メールの文面に俺は目を疑った。紗江子か、どういう意味なんだ?

 九年間交際を続けた女性との別れにケジメをつけるため、未練を吹っ切るためにとデートはしたものの結局交際までは発展せず、そんな俺の優柔不断さに「三度目はないと思ってね……、このバカヤロー」と、泣いてイタリアンレストランの席を立った女性からの、およそひと月ぶりのメールだった。あるのか三度目が? 困惑は期待感に塗り替えられつつあった。

 機械設計の会社に勤務する俺が、ほぼ毎日出入りする或るオフィスがある。中尾紗江子はそこに勤める二十六歳の女性だった。色白でほっそりした彼女は、いつも長く艷やかな髪をきれいな装飾具でまとめていた。

多くの女性職員は年齢層が高めで、二十代の女性は五名居るか居ないか。Aという若手女優に似た雰囲気の彼女に注目する輩も少なくなかった。実際、上司らしい優男が紗江子にしつこく言い寄っているのを目にしたこともある。そいつは間違いなく俺より若く、今でいうイケメン君だったのだが、何故だか俺に白羽の矢が立つこととなる。中肉中背、際立った外見でもないことを自覚する俺自身意外ではあったが、自己アピールに終始する若者には興味が湧かず、父親の雰囲気を持った中年男が彼女の好みであった事を後に知る。あまり考えたくはないが、もしかすると紗江子は男の趣味が悪いのかもしれない。  受付を済ませ名前を呼ばれるまでの間、別れた女性の面影を追い求め、携帯電話に残したメールを読み返す。そんな女々しい俺だったのだが、その時の悲しげな表情と強面な外見との落差に声をかける勇気が生まれたのだと紗江子は言った。これだから男と女の出逢いはわからない。 最初のデートで紗江子はこう言った。

「いつだったか、掃除のおばさんにぶつかって転ばせちゃった人を怒鳴りながら、散らばったゴミを一緒に拾い集めてあげていたことがあったでしょう? あんな怖い顔をしてて意外に優しいんだな、って思ったわ。その時から惹かれていたのかも知れない」

 そんなこともあったかな? 俺に確たる記憶はなかった。

 そして二度目のデートの時だ、やはり別れた彼女が忘れられないからと、あるテーマパークへ行く約束を反故にする俺に、冒頭の「バカヤロー」が浴びせられることとなる。

 元カノとの別れ、妻との離婚のための話し合いにおいて「死んでくれればいいのに」「この最低男」 など、女性からいただく罵詈雑言に慣れていた時期の俺ではあったが「バカヤロー」はそれなりに新鮮だった。


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