出会い編 あなたは明るいのがお好み?
やっと出会いです
ということで以下登場人物表♪ヾ(>ω<)ノシ
エウナ
吸血鬼 家主
来夢
一応人 ちびっ子 魔法使い 家事とか色々
メリーさん
ゆーれい 料理とか屋敷のこと色々 私メリーさん、今あなたの後ろに… 命名来夢
~来夢ちゃん~
早く起きて!ここから逃げるわよ!
「んぅ…?」
誰かに呼ばれた気がして目を覚ますと、窓から入ってくる月明かりが優しく辺りを照らしています。何か…夢を見ていた気がするんですが。どんな夢だったのでしょう。
今日は無風なのか開け放されたカーテンは沈黙しており、部屋の中で動くのは僕だけのようです。
ぼーとした頭であたりを見渡すと隣には自分しか居ないベット、どうやら夜の間は活動するみたいですね。ずっと寝っぱなしだったらどうしようかと思いましたが、それは杞憂に終わったようです。よかったよかった。
ベットから降りて赤いコートを羽織ると、一度窓の外の景色を見てみます。この部屋だと屋敷の庭と夜に寝静まる街が見渡せるんですね。
ペンダントを杖に変えてからドアの外へと出ます。むぅ…思ったよりも暗いですね。
一瞬明かりをつけようか悩みましたが…無闇に自分の位置を知らせる必要もないでしょう。お屋敷の中に居るのが1人とは限りませんし。
お昼とは違い自身の役割を果たしている窓へと近づくと、杖の持ってないほうの手で叩いてみます。弾力がありますね、強引に外に出るのには骨が折れそうです。
こつこつと廊下を歩いていると、その様子がお昼とは違うことに気づきます。長くなってます…?となると…
そこまで考えたところで思いっきり全身を屈ませると、杖に込めておいた魔力を発動させます。屈んだ頭の後ろでは誰かの息を呑む音と何かが通り過ぎていく風の感覚、そしてボクの持っている杖から発する爆音と閃光。
目くらましの閃光が振り注ぐ中、左手で札を取り出し肉体強化の術を発動させると全力で前へと走り出します。呪文は要りません、唱える余裕もないでしょうし、そこまで長い時間の発動は必要ないでしょう。
さっきまで居た場所ではしばらく呆然としている気配がしましたが、すぐに我に返るとすごい速さで追いかけてきました。
むぅ、目くらまし込めるの大変だったのに…札の発動までの時間が取れましたし良しとしますか。
そんなことを考えながら走り、ところどころで杖を振って屋敷に仕掛けた罠を次々発動させます。
撃退は考えてません。少しでも時間稼ぎになれば上々でしょう、このままの速度でもいずれは追いつかれそうですが。
それにしても侵入者用に仕掛けた罠が逃げる時に役に立つとは、備えあれば患い無しですね。後ろからは発動させるたびに罠が破壊される音がしてきます。…あんまし役に立ってないですね。少し傷付きます。
終わらない夜が無いように仕掛けて置いた罠も無尽蔵じゃありません。すぐに何も仕掛けてない場所まで来てしまいました。ホントに長くなってるようですね、廊下。このままじゃすぐに追いつかれるでしょう、困ったものです。ところで彼女は今どの辺に居るんでしょう?まだ捕まるわけには行かないんですが…
全ては、一瞬の邂逅のために。
~エウナさん~
「エウナさん!あの子が起きたみたいです!」
「っ外に出さないで!」
浴衣の少女に指示を出してから、あの子の寝ている部屋まで急いで行くと、あの子は窓のほうを触りながら何かを考えていた。どうやら来るときが来たようね。
このままあの子が寝るまで逃げるか…ダメね、私の帰る場所はここにしかない、外へと逃げても日の出でアウト。それなら…
こつこつと無防備に歩いてる背中にこっそり近づいて右手を振り上げる。殺さないように、けれども気絶しないということもないように。
「っ!?」
無防備に歩いているあの子の頭を狙って右手を振ると、彼女は突然屈むことで回避した。避けると同時に彼女の持っている杖から発せられる爆音と閃光。避けられた!?気づかれていた様子は無かったのに!?
白く染まる視界から我に返ると、あの子は人とは思えない速さで遠ざかっていた。…逃がさない。
速いとはいっても所詮は人、吸血鬼である私の方が速度では勝っている。だが、あの子が仕掛けたのであろう罠を1つずつ丁寧に潰しているので中々追いつくことが出来ない。
あの子は気づいているのかしらね…仕掛けた罠は侵入者用、つまり私が避けると逃げている自身へと向かう可能性があるというのを。
…たぶん気づいてないんでしょうね。何を仕掛けたのかすらも把握してなさそうだし。ちょっと!ずいぶん多いわね!どんな化け物が進入するのを想定して仕掛けたのよ!?
飛んで来る丸太やら矢やら槍やら鉄球やら石の壁やら金ダライやらを粉砕しながら追いかけると突然罠が飛んでこなくなった。途中からどう考えても廊下からは飛んでこないようなものとか罠なのか疑問に思うものも飛んできたけれど、どうも品切れみたいね。
この機会を逃さないように、けれども気づかれないように近づくと、体を狙って左手を振り下ろす、手加減無しで殺す気の、人には避けれないはずの一撃。けれどもあの子なら避けるでしょう。でも、それがこちらの狙い。
何か硬い壁を砕いたような感覚と共に床までぶち抜く左手。あの子は…狙い通りに、右へと避けたみたいね。
飛び退くように避けたあの子の体を追うように右手の裏拳を放つ。可哀相だけれど骨の1本や2本は覚悟して気絶してもらいましょう。それでも死ぬよりはマシでしょう?
全ては、永久に続く関係のために。
~来夢ちゃん~
急に危険を感じて結界を張りながら右へと飛びのくと、横の床に穴が開きました。たぶん腕でも振り下ろしたんでしょう。それよりも不味いのは今の姿勢、無理な体勢で避けたせいで追撃が避けれそうにありません。追撃がないということは…なさそうですね、今は目くらましも何もないので。さらにタイミングの悪いことに肉体強化の術もそろそろ解けたそうです。しょうがないですね…
"我が名の下に命ずる"
避けたボクを追う用に飛んできた裏拳の前の前へと左手を出しながら、心の中で呪文を唱えます。口に出すほどの効果は無いですが唱えないよりはマシです。
「え…?」
ゴキッ
どうやら被害は左の1本で済んだみたいです、あばらくらいは覚悟してたのですが結果は上々。どうやら魔法の発動も間に合ったみたいなので、また走り出しました。
左手が骨の砕けたみたいな音と共に動かなくなりましたが…魔法の副作用で熱がすごい勢いで失われていく関係で確認よくわかりません。
無事外へと出れたら確認することにしましょう。もう無事といえるのかは怪しいですが気にしないことにしましょう。まだ追いかけてきているみたいですし。それにしても2度も裏切ってしまいました…嫌われましたかね?
しばらく走っているとホールへと着いたみたいです。後は玄関の扉を開けて外へと出るだけ。
ですが扉はびしりと閉まっており、内からも外からも通す気は無いという覚悟を見せてきます。いいでしょう、そちらがそのような覚悟ならボクも相応の覚悟を決めます。
そのままの速度を生かす様に前へと回転しながら飛んで回し蹴りでその覚悟ごと扉を蹴破ります。もしも蹴破れなかったら骨が折れるじゃすまなさそうですが、そのときはボクの覚悟がこの屋敷の覚悟を上回れなかったのでしょう。生憎と手は使えないので足で代用するしかないのです。
回る視界の中で彼女と視線が合ったような気がしますが、暗くてよくわかりません。やっぱり外の月明かりじゃないと見るのは無理のようですね。
~エウナさん~
避けた彼女を裏拳で追撃する、ここまではよかった。後は気絶した彼女の治療をして部屋に戻すだけ…なのに!
「え…?」
ゴキッ
思わず声が漏れる。私の右手はあの子の骨を叩き折った事と引き換えに、その威力を失ったみたいである。えっ…?一瞬の、けれども致命的な、自我の忘失。
その間にあの子は体勢を立て直すと獣の様に走りだした。
その気配で自我を取り戻すと、焦りが原因かさっきよりも冷たく感じる空気の中、急いで彼女を追いかける。…速い!
信じられないことに彼女はさっきよりも速い速度で走っていた。吸血鬼である私でも追いつけないほどに。…どうやらこの追いかけっこは私の負けで終わるみたいね。
長くなっていた廊下も、もう終点のようね。どれだけ伸ばしたとしてもいずれ限界は来る。永遠に続くと思っていた私とあの子の関係のように。
ホールへと駆け込んだあの子はそのままの勢いを殺さずに綺麗に回転しながら跳んだ。どうやら扉を蹴り開けるつもりみたいね。
それがわかったとしても今の私にはあの子を止めることは出来ない、ただ悪あがきとして追いかけるだけ。
振り向いたあの子と視線が合ったような気がするのだけれど、ついに確かめることは出来なかった。外に出たらあの子は逃げるのでしょうね、2度も攻撃を加えたのだからそれは当然の判断でしょう。
私とあの子は捕食する側とされる側の関係、出会ってしまった以上無事では済まない。そして…捕食される側が捕食する側の傍に居る事も…また無い。逃げたあの子をもう私は見つけることは出来ないでしょう。
ああこんな結末なら、素直に会って話をするべきだったかしらね。危害を加えてない状態なら私の望んだ結末もあったでしょう。
でも、それも後の祭りね。後悔先に立たず、とは何処の言葉だったか…。もう私に出来ることは、何もない…。
ズサー
綺麗な回しけりを放ったあの子がこれまた綺麗にずっこけると何度か転がって行った。無理も無い、蹴りが当たる直前に扉が開いたのだから。
そして転んだあの子へと追いつくのは造作も無いこと。
「ごめんなさいー、外に出しちゃいました♪でも、これであの子も逃げれないでしょう?」
扉から出る瞬間そんな声が聞こえた気がした。まったく、気が利くのか利かないのか、よくわからない幽霊ね。なんにしてもこれで話は出来るのだから感謝するべきなのかしら?
「あ、後エウナさんがぶち抜いた床、ちゃんと直してくださいね」
思い出した様に後ろから来た言葉の方は聞こえなかったことにしましょう。
転んだまま動かないあの子が逃げないように距離に気をつけながら、様子を見る。改めて月明かりから見ると酷い格好ね。
赤いコートは所々霜が降りているし、青みのかかった白のワンピースは転んだおかげで泥で汚れているし、左手からはとめどなく血が溢れている。あら、コートに汚れがないわね…いつの間にか杖も持ってないみたい。
そして私の黒を基調としたドレスもあの子の仕掛けた罠やら自身で床をぶち抜いたときにが飛び散った木屑やらでところどころ穴が空いている。
しばらく観察をしていると、あの子はゆっくりとした動作で体を起こし、きょろきょろと周りを見渡すと、私の方を見た。目が合ったわね、どうするべきか…
「こんばんは、ご機嫌いかが?」
とりあえず挨拶してみる、声は冷静なはず。でも腕があんなだから機嫌も何も無いでしょう…他に言うことはないのか私は…。しかも不本意とはいえやったのは私だし…
「ほぇ…わわっ」
軽く自己嫌悪に浸っているとやっと状況を把握したのか、あの子は飛び上がるように立ちあがった。に、逃げるのかしら…?
「えっと、こんばんわ?」
どうやらそのまま逃げるということはせずに会話はしてくれるらしい、でもまた何時逃げられるかわからないのであまり刺激しないでおきましょう。さて、何を話すべきかしら。
あの子はというと自身の折れてるほうの手を見ると、軽く驚きの様子を表していた。ところで痛くないのかしら?
「初めましてで…いいんでしょうか?」
何を喋るべきか悩んでいるとあの子のほうから話しかけてきた。
「初めましてでいいんじゃない?」
寝てる以外で会うのは初めてなのでこれでいいはずよね。それにしても綺麗な黒目してるのね、この子。
あの子はうん、よし、やるんです、がんばりますとかぶつぶつ呟いていると思ったら。綺麗にお辞儀をしながら
「えーと…初めまして来夢でしゅ」
噛んだ、それも見事に噛んだ。
「…初めまして、ライムです。来る夢と書いて来夢です」
噛んだのは無かったことにするらしい。
「これはこれは初めまして、エウナよ」
特に話すことも思いつかないので私の名前も言っておく。来る夢で来夢ね…つけたのは東方の人かしら?
ああ、そういえば聞いておくことがあったわね。
「あなた、私が吸血鬼だってこと知ってるのかしら?」
「ほぇ?んー…聞く感じだとそうらしいですね」
そう聞いてみるとあの子…来夢は嬉しそうに答えた。そう、知ってるのね。なら
「逃げないのかしら?」
「何でですか?」
何で?それは私が捕食する側で来夢は捕食される側だから逃げるのが当然の反応じゃないのかしら?そうは思っていても言葉は出なかった。それを言ってしまうとこの子が本当に逃げてしまう気がして。
「やっと会えたんですもの、逃げるわけ無いじゃないですか」
そう言って、来夢は笑った。やっと会えた…?
「え…?だって、あなた逃げてたじゃない」
「だってあんな暗いところだと顔が見えないじゃないですか、気絶させられても会えませんし…やっぱり初めて会うんですから明かりは十分じゃないとダメですね!」
「で、でも私はあなたに危害を加えたのよ!?」
「この手のことですか?でも手加減してくれたんですからこの程度で済んでるんですよね?」
「…私のこと、怖いとは思わないの?」
「怖いも何も…ボクのことを殺そうと思ったならいくらでも機会はありますよね?」
今でも殺そうと思えば出来ますよねー。そういって来夢はどこか寂しげに笑った。ということは…
「本当に…逃げないのね」
近づいて頬を触ってみると少しビクッとしただけで逃げることはなかった。全ては私が空回りしてたってことね…
体の力が抜けて疲れた感覚がする。吸血鬼でも疲れる、ほとんど精神的なものだけれど。
そのまま屋敷の方へと体を向けると歩き出す。ん?付いて来ないわね。
「ほら、そんなとこに居ないで入りなさい」
「ほぇ?ここに居てもいいんですか?」
「何言ってるのよ、入らないと手の治療が出来ないでしょう」
そこまで言ってもまだ動かない彼女の手を引くと屋敷へと歩き出す。自分でつけた傷なのだから、治療くらいは私がするわ。
来夢はしばらく手の引かれるままぼーぜんと歩いていたが、やがて照れたように笑うと私の隣に並んで歩きだした。
「えへへー…もうお別れなのかと思いましたよ」
ええ、私もよ。けれども言う言葉はそれではない。
「何言ってるのよ、これから始まるんでしょう」
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連れ添って歩く2人を屋根の上から浴衣姿の少女が見ていた。
永久に続く関係なんて存在はしない。けれども、その終わりが次の始まりでないとは、誰にもいえない。
「願わくば彼女たちに幸せが訪れることを…なんてね♪」
この屋敷の元主であった少女はそう呟くと透けるように消えた。
名前の無い自分のことを呼ぶ、屋敷の主の声に答えるために。
少しでも楽しんでいただけたら幸いです