お昼編 全てはここから始まった!
前に短編で投稿してましたがお友達いわく
これって短編じゃなくて連載だよね?
・・・いわれて見れば連載なので連載に変更しました
以下あらすじ
ある少女がおきてから寝るまでのお話
ちゅんちゅん
「んぅ・・・?」
もぞもぞと手を動かすと何かふにふにとした物に当たり体が上手く動かせません。
ふと目を覚ますと目の前には女の人の寝顔、状況を確認するとどうやら抱き枕にされている様です。
このままだと何もせずに今日という日が過ぎてしまうのでじたばたと、しかし起こさないように最善の注意を計らいながら全力でベットから抜け出します。
「さぶ・・・」
日の出直後の寒さに体がぬくもりを求めますが、何とかこらえると壁に掛けてある赤色のコートを身にまとい、厚いカーテンの掛かった暗闇の中、大きな音を立てないようゆっくりとドアから部屋の外へと出ます。
「おー、晴れてますね」
しゃりしゃりと窓から落ちたガラス片を鳴らせながら館の外に出ると、ほんのり暖かく、しかし優しくはない陽光がボクを包み込みます。絶好のお洗濯日和と言えるでしょう。
お洗濯の前にまずは朝ごはんの準備をしようと思い、ストックしてある薪を組み上げます。そして、首に掛けてあるペンダントを一振りして杖にするとまっすぐ一字に構えて意識を集中……集中……
ポンという軽い音がすると、薪にピンポン玉くらいの大きさの火が付きました。他の人ならもっと簡単に出来そうですが、ボクに取ってはこれでも上々。
火が大きくなるまでの間に水を汲んでくると、お洗濯の時間。ごしごしと丁寧に痛まないように着物や浴衣、ワンピースを洗うと、足場を使いながらがんばって背伸びして洗い終わった服を干します。…もう少し高い足場が欲しいものです。
干し終わると火も大きくなってきたので、館の裏にある氷精式冷蔵庫へと向かいます。氷精式冷蔵庫、利点は氷だけあれば氷精が遊びに来て勝手に冷やしてくれること、欠点は…
冷蔵庫の扉を開けると中に見えるのは、氷、魚、魚、氷、氷、氷…
パタン
扉を一度閉めると深呼吸してもう一度あけます
…現実は残酷の用です。
仕方なしにかちんこちんに凍っている串に突かれた魚を出すと焚き火の元へと向かいます。
氷精式冷蔵庫の欠点は外に置かないといけないことと、冷却具合が日によってまちまちであることですね。外において傷ませるよりはマシですが。
それにしてもたまにはお魚以外が食べたい…人里に買いに行くにはお金が無いですし…罠はダメ、もう全力で狩りするしかないでしょうか。
そんなことを考えながら地面に串を刺して凍った魚を焼いていると山道の方から誰か来たようです。むぅ…時間が掛かりそう。
「おはようございます、いい天気ですね」
焼けるのにも時間が掛かりそうなので時間つぶしもかねて挨拶をしてみると、登ってきた騎士風の男の人は目を少し見開きながらこちらを見ると気配を尖らせます。そんなにボクが挨拶するのが嫌だったんでしょうか。
すでに杖は短刀へ変更と済み。無駄に手の内を明かすつもりはありません。
「…貴様が吸血鬼か?」
ふむぅ…挨拶への返事は無しですか。ですが聞かれたからには答えてあげましょう。焼けるまでまだ時間はありますし。
「ん~、まだ吸血鬼にはなってないみたいですね」
日の光に焼かれたという記憶もやけどの跡もないみたいですし。
「…吸血鬼は何処にいる?」
男の人の次の質問、そんなに警戒しなくてもいいと思うんですが…まだ何もする気はないですし…それにしても吸血鬼は何処、ですか、確か前読んだ本だと西洋の方に居たと書いてあったような…
「さぁ、西洋の方に行けば居るんじゃないでしょうか」
別に無視してもいいのですが焼けるまではまだ掛かりそうなので答えてあげます。なまなまは嫌ですしね。
「…つまり教える気はないということだな?」
そう言うと男の人は腰に刺してある剣を構えました。
ふむぅ?ちゃんと教えてあげたと思うんですが、耳が遠いんでしょうか。それとも都合の悪いことは聞こえない振りなんでしょうか。遠いですもんね、西洋。
それはともかくとして…
「抜きましたね?」
□ □ □ □
動かなくなった男の人をいつものところに置くと軽く祈りを捧げます。なんでも動かなくなったものには祈ってあげると、また次の場所へといけるらしいです。
「あー!」
祈りを捧げてから戻ってみるとお魚が真っ黒になってました…嘆いていてもしょうがないので朝ごはんは焦げ魚にします。
焦げてるのは外だけで中は意外と大丈夫ですね、よかったよかった。
さて、お金の面は何とかなったので人里まで食料の買出しといきましょう。そう決まればかばんを持つと善は急げ、一日は短いのです。
その前に火の始末はちゃんとしておきます、こういう小さなものから山火事は起きるので後始末はちゃんとしないといけないらしいです。
食料品や本のお買い物を済ますとそろそろお昼時、人里に来たときのお昼はいつも決まってます。
「こんにちわー」
山からの入り口に比較的近いところの酒屋さんに入ると声を掛けます。
「お、お嬢ちゃん久しぶりだねぇ、今日は買出しかい?」
声を掛けると酒屋さんのおじさんが愛想良く出迎えてくれます。
「はい、食べ物とお昼ごはんを貰いに来ました♪」
「はっはっは、お嬢ちゃんは素直だねぇ!そろそろできるから入りなっ!」
お許しも出たので居住スペースへとお邪魔すると3歳程度になるであろう子供が飛びついて来ました。
「らいむだー!」
「はいはい、らいむさんですよー」
「あらあらー、来夢ちゃん来てたのね、今お昼ご飯できるから食べてらっしゃい」
「はい、頂きます」
しばらくぼ~っと座りながらお子さんの相手をしていると美味しそうな匂いが漂ってきて、ご飯になりました。
「そうだお嬢ちゃん、いい酒が入ったんだが、安くしておくよ?」
ご飯も食べ終わり、お子さんに分身お手玉を披露していると、本題とばかりにおじさんが売り込んできました。
お酒ですか…いつものは買うつもりでしたが…どんなお酒が判らない以上お客さんとして引いておくべきでしょう。
「安くしてくださいね?」
思わず本音が漏れました、ボク、交渉、嫌い。
「はっはっは、相変わらずお嬢ちゃんは面白いねぇ!安くしてあげるから他のも買ってくれよ」
ボクに買わせるとは…さすがおじさん、商売上手です。
ふと外を見るとそろそろ出ないと帰り際に日が暮れそうです。…逢魔が時に道に居るのは避けたいですね。
「それじゃボクはこの辺で失礼しますね」
「えー、らいむー、もっとあそぼうよー」
「こら、わがまま言わないの!…またいつでも来てくださいね、歓迎しますから」
別れの挨拶もほどほどにすると、いつものお酒に新しいおまけもかばんに入れると少し早足で人里を後にします。
何とか日が暮れる前にはならずに館に着きました。
暗闇の中、赤色のコートを壁に掛けると、読みかけの本を片手に眠り姫さんの眠るベットへと潜り込みます。ぬくぬくしてます。
ここから先は己との戦い、魔法で作った小さな灯りを頼りに活字を追います。眠り姫さんが起きるか、私の意識が落ちるかの小さな小さな戦い。
「いつか会いたいですね」
日の光の届かない部屋の中で呟きがぽつりと漏れた。
それでは、最後までお付き合いいただければ幸いです