ちゃんと伝えた太郎
むかしむかし、あるところに、太郎という若者がおりました。
太郎は、とても気の弱い若者でした。
人と話すのが苦手で、友達もほとんどいません。
特に、自分のことを人に説明するのが大嫌いでした。
そんなある日のことです。
太郎が森を歩いていると、目の前に女神さまがあらわれました。
「太郎よ。あなたに、ひとつだけチートの力をさずけましょう」
『チート?』
「ふつうの人にはない、とってもすごい力のことです」
女神さまが杖をふると、太郎の体が金色に光りました。
「あなたには、仲間の力を十倍にする能力をさずけました」
『十倍!?』
「そうです。ただし、あなた自身は強くなりません。仲間の力を強くする能力です」
太郎は大よろこびしました。
『すごいや! これなら勇者パーティーに入れるぞ!』
こうして太郎は、勇者さまの仲間になりました。
◇ ◇ ◇
勇者さまは、剣が得意でした。
魔法使いは、魔法が得意でした。
僧侶は、けがを治すのが得意でした。
そして太郎は、仲間の力を十倍にするのが得意でした。
ただし、太郎はそのことを仲間に詳しく説明していませんでした。
ある日、勇者さまがたずねました。
「太郎。きみは、どんな魔法が使えるんだい?」
『仲間を強くする魔法だよ』
「どのくらい強くなるんだい?」
『すごく強くなるんだ』
「すごくって、どのくらい?」
『とにかく、すごいんだよ』
勇者さまは困ってしまいました。
「何回くらい使えるんだい?」
『何回でも使えるよ』
「どのくらい長く続くの?」
『しばらく続くよ』
「しばらくって?」
『しばらくだよ!』
太郎は、だんだん腹が立ってきました。
『どうして、そんなに細かいことを聞くんだ!
ぼくが役に立つって言ってるんだから、それでいいだろう!』
勇者さまは、それ以上たずねませんでした。
太郎は満足しました。
『ちゃんと伝えたぞ』
けれども勇者さまは、太郎の能力について、ほとんど何もわかりませんでした。
◇ ◇ ◇
勇者さまたちは、毎日たくさんの魔物と戦いました。
太郎の能力は、本当にすごいものでした。
勇者さまの剣は、いつもの十倍の威力になりました。
魔法使いの炎も、十倍の威力になりました。
僧侶の治す力も、十倍になりました。
おかげで、勇者さまたちは次々に魔物を倒していきました。
ところが、困ったことがありました。
太郎は、自分がいつ魔法を使うのか、仲間に教えてくれないのです。
「太郎! 今から強化魔法を使ってくれ!」
『もう使ってるよ!』
「えっ、いつから?」
『さっきから!』
「じゃあ、あと何分くらい続くんだい?」
『そんなの自分で考えてよ!』
別の日には、こんなこともありました。
「太郎。次の魔物は強いから、みんなで作戦を考えよう」
『ぼくがいれば勝てるよ』
「それはありがたいけど、具体的にどう戦えばいいかな?」
『普通に戦えばいいじゃないか』
「強化魔法は、いつ使ってくれるんだい?」
『必要なときだよ』
「だから、その必要なときを相談したいんだけど……」
『もう! いちいち面倒くさいなぁ!』
太郎は怒って、どこかへ行ってしまいました。
勇者さまたちは、顔を見合わせました。
「太郎は、いったい何を考えているんだろう?」
「悪い人ではないと思うんだけど……」
「でも、一緒に戦うのは難しいね」
太郎は、そんなことを知りませんでした。
『ぼくのおかげで勝っているんだから、みんな感謝しているはずだ』
そう思っていたのです。
◇ ◇ ◇
ある日のことです。
勇者さまたちは、大きな魔物と戦うことになりました。
戦いの前に、みんなで作戦会議を開きました。
「太郎。きみの強化魔法について、もう一度教えてくれないか?」
『前に説明しただろう!』
「いや、まだよくわからないんだ」
『仲間を強くする魔法だよ!』
「だから、どのくらい強くなるのか教えてほしいんだ」
『すごく強くなるって言ってるじゃないか!』
「それでは作戦が立てられないよ」
『ぼくのことを信用していないのか!』
太郎は怒って、会議から出ていってしまいました。
勇者さまたちは困りました。
「能力があるのはわかるんだけど……」
「質問すると怒るし、会議にも参加してくれない」
「これでは、安心して背中を預けられないよ」
そして、みんなで相談した結果、太郎にはパーティーを抜けてもらうことになりました。
勇者さまが言いました。
「太郎。申し訳ないけれど、きみとはもう一緒に冒険できない」
太郎は驚きました。
『なんだって!?』
「きみの能力が役に立っていることはわかっている。
でも、必要な情報を教えてくれないし、話し合いもできない。
これでは仲間としてやっていけないんだ」
『ぼくはちゃんと伝えたはずだ!』
「何を?」
『ぼくの能力だよ!』
「どのくらい強くなるのか、まだ聞いていないよ」
『すごく強くなるって言ったじゃないか!』
「それだけでは、わからないんだ」
『もういい! ぼくの能力を理解できない馬鹿どもめ!』
こうして太郎は、勇者パーティーを追放されてしまいました。
◇ ◇ ◇
太郎は、たいそう腹を立てました。
『ぼくのおかげで勝てていたのに!』
『あいつらは、ぼくの能力を正しく評価しなかった!』
『ぼくがいなくなったら、きっと困るぞ!』
実際、勇者さまたちは困っていました。
太郎がいなくなると、魔物との戦いがずいぶん大変になったのです。
「やっぱり太郎の能力はすごかったんだね」
「でも、何ができるのか教えてくれなかったからね」
「もう一度、話をしてみようか」
勇者さまは太郎を訪ねました。
「太郎。きみの力が必要なんだ。もう一度、仲間になってくれないか?」
太郎は大喜びしました。
けれども、うれしい顔を見せるのは悔しかったので、わざと偉そうに言いました。
『今さらぼくの能力に気づいたのか!』
「うん。きみの力は本当にすごかったと思う」
『そうだろう!』
「だから、今度こそ能力について詳しく教えてほしいんだ。何倍くらい強くなるの?」
『またその話か!』
「一緒に戦うためには必要なんだよ」
『ぼくを信用できないのか!』
「信用するためにも、話し合いたいんだ」
『もう遅い!』
太郎は大声で叫びました。
『今さら謝っても、もう遅いんだ! ぼくを追放したことを、一生後悔するがいい!』
勇者さまは、しばらく黙っていました。
そして言いました。
「そうか。それなら仕方がないね」
勇者さまは帰っていきました。
太郎は得意になりました。
『ふふん。これであいつらも、ぼくのありがたさがわかっただろう』
◇ ◇ ◇
勇者さまたちは、新しい仲間を探しました。
やがて、仲間を強くする魔法使いが見つかりました。
その男は、最初の日から作戦会議に参加しました。
「はじめまして。私の魔法は、仲間の力を三倍にすることができます」
「三倍! それはすごい!」
「ありがとうございます。
ただし、一度に強化できるのは三人までです。効果は十分間続きます」
「なるほど!」
「魔法を使う前には、必ずみなさんに声をかけます。
残り時間もお知らせします」
勇者さまたちは大喜びしました。
「それなら、作戦が立てやすいね!」
「強い魔物と戦うときは、全員で相談して使おう!」
「よろしくお願いします!」
新しい魔法使いは、毎日の会議にも積極的に参加しました。
自分にできることを説明しました。
できないことも説明しました。
失敗したときには、すぐに報告しました。
困ったときには、仲間に相談しました。
仲間が困っていれば、自分から声をかけました。
すると、どうでしょう。
勇者さまたちは、前よりも上手に戦えるようになりました。
十倍の力はありません。
けれども、三倍の力をいつ、どこで、どのように使うのか、みんなが知っていました。
そのため、無駄な戦いを避けたり、危険な魔物に備えたりできるようになったのです。
新しい魔法使いは、すぐに仲間から信頼されました。
やがて副隊長に任命され、王さまからも褒められるようになりました。
そして勇者さまたちは、とうとう魔王を倒してしまいました。
◇ ◇ ◇
それを聞いた太郎は驚きました。
『そんな馬鹿な!』
『ぼくの魔法は十倍なんだぞ!』
『新しい奴は三倍しか強くできないのに!』
太郎は悔しくてたまりません。
『あいつらは、ぼくの本当の価値を理解できなかったんだ!』
そこで太郎は、別の冒険者パーティーに入りました。
新しい仲間がたずねました。
「太郎さんは、どんな魔法が使えるんですか?」
『仲間を強くする魔法だよ』
「どのくらい強くなるんですか?」
『ものすごくだよ』
「具体的には?」
『とにかく、ものすごいんだ!』
新しい仲間たちは困ってしまいました。
太郎は会議にも参加しません。
質問されると怒ります。
自分の能力についても、詳しく説明しません。
やがて太郎は、また追放されました。
『ぼくの能力を理解できない馬鹿どもめ!』
太郎は、さらに別のパーティーに入りました。
けれども、そこでも同じことを繰り返しました。
『ちゃんと伝えたはずだ!』
『ぼくを信用しろ!』
『ぼくがいれば勝てるんだ!』
そして、また追放されました。
一度目。
二度目。
三度目。
四度目。
太郎は、どこのパーティーでも長続きしませんでした。
やがて、太郎の評判は町中に広まりました。
「あの人は、何を聞いても説明してくれないんだ」
「話し合いもできないらしいよ」
「能力はあるみたいだけど、一緒に働くのは嫌だなぁ」
とうとう、太郎を仲間にしてくれる人はいなくなりました。
◇ ◇ ◇
太郎は、だんだん貧しくなりました。
お金がなくなりました。
家賃も払えなくなりました。
食べ物を買うことも難しくなりました。
それでも太郎は、自分が悪いとは思いませんでした。
『ぼくには能力がある!』
『ぼくは、仲間の力を十倍にできるんだ!』
『世間が馬鹿だから、ぼくの能力を理解できないだけだ!』
太郎は町の広場で、毎日のように叫びました。
けれども、だれも耳を傾けませんでした。
太郎の能力が本物であることを、知っている人もいました。
それでも、だれも太郎と一緒に働きたいとは思いませんでした。
太郎は、ますます腹を立てました。
『どうしてだ!』
『ぼくの方が、あいつらよりずっと優秀なのに!』
『ぼくには十倍の力があるんだぞ!』
けれども、返事をする人はいませんでした。
やがて太郎は年を取りました。
勇者さまたちは、仲間と力を合わせて平和に暮らしました。
三倍の魔法使いは、みんなから慕われ、立派な隊長になりました。
太郎だけは、いつまでも一人ぼっちでした。
そして、ある寒い冬の日。
太郎は、町はずれの小さな小屋で、静かに息を引き取りました。
最後まで、太郎は不思議に思っていました。
『おかしいなぁ。
ぼくには、こんなにすごい能力があるのに。
ちゃんと伝えたはずなのになぁ』
こうして太郎は、だれにも看取られることなく、ひとり寂しく死んでいきました。
太郎の能力は、本当にすばらしいものでした。
けれども、そのすばらしさを人に伝えることも、人と力を合わせることも、太郎にはできませんでした。
どれほど優れた能力を持っていても、それを人に伝えられなければ、正しく評価してもらうことはできません。
チートは確かに有用な能力です。
ですが、伝達こそが、社会において最も重要視される能力だったのです。
おしまい。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
本作を見つけて下さってありがとうございます。
小西にこ(蒼き流星ボトムズ)と申します。
色々なジャンルに手を出すのが好きで、今回は童話に挑戦してみました。
多くの作品が連載途中にも関わらず申し訳御座いません。
この場を借りて作品進捗を報告します。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
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