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異世界むなしばなし

ちゃんと伝えた太郎

掲載日:2026/10/15

むかしむかし、あるところに、太郎という若者がおりました。


太郎は、とても気の弱い若者でした。


人と話すのが苦手で、友達もほとんどいません。


特に、自分のことを人に説明するのが大嫌いでした。


そんなある日のことです。


太郎が森を歩いていると、目の前に女神さまがあらわれました。


「太郎よ。あなたに、ひとつだけチートの力をさずけましょう」


『チート?』


「ふつうの人にはない、とってもすごい力のことです」


女神さまが杖をふると、太郎の体が金色に光りました。


「あなたには、仲間の力を十倍にする能力をさずけました」


『十倍!?』


「そうです。ただし、あなた自身は強くなりません。仲間の力を強くする能力です」


太郎は大よろこびしました。


『すごいや! これなら勇者パーティーに入れるぞ!』


こうして太郎は、勇者さまの仲間になりました。



◇ ◇ ◇



勇者さまは、剣が得意でした。


魔法使いは、魔法が得意でした。


僧侶は、けがを治すのが得意でした。


そして太郎は、仲間の力を十倍にするのが得意でした。


ただし、太郎はそのことを仲間に詳しく説明していませんでした。


ある日、勇者さまがたずねました。


「太郎。きみは、どんな魔法が使えるんだい?」


『仲間を強くする魔法だよ』


「どのくらい強くなるんだい?」


『すごく強くなるんだ』


「すごくって、どのくらい?」


『とにかく、すごいんだよ』


勇者さまは困ってしまいました。


「何回くらい使えるんだい?」


『何回でも使えるよ』


「どのくらい長く続くの?」


『しばらく続くよ』


「しばらくって?」


『しばらくだよ!』


太郎は、だんだん腹が立ってきました。


『どうして、そんなに細かいことを聞くんだ! 

ぼくが役に立つって言ってるんだから、それでいいだろう!』


勇者さまは、それ以上たずねませんでした。


太郎は満足しました。


『ちゃんと伝えたぞ』


けれども勇者さまは、太郎の能力について、ほとんど何もわかりませんでした。



◇ ◇ ◇



勇者さまたちは、毎日たくさんの魔物と戦いました。


太郎の能力は、本当にすごいものでした。


勇者さまの剣は、いつもの十倍の威力になりました。


魔法使いの炎も、十倍の威力になりました。


僧侶の治す力も、十倍になりました。


おかげで、勇者さまたちは次々に魔物を倒していきました。


ところが、困ったことがありました。


太郎は、自分がいつ魔法を使うのか、仲間に教えてくれないのです。


「太郎! 今から強化魔法を使ってくれ!」


『もう使ってるよ!』


「えっ、いつから?」


『さっきから!』


「じゃあ、あと何分くらい続くんだい?」


『そんなの自分で考えてよ!』


別の日には、こんなこともありました。


「太郎。次の魔物は強いから、みんなで作戦を考えよう」


『ぼくがいれば勝てるよ』


「それはありがたいけど、具体的にどう戦えばいいかな?」


『普通に戦えばいいじゃないか』


「強化魔法は、いつ使ってくれるんだい?」


『必要なときだよ』


「だから、その必要なときを相談したいんだけど……」


『もう! いちいち面倒くさいなぁ!』


太郎は怒って、どこかへ行ってしまいました。


勇者さまたちは、顔を見合わせました。


「太郎は、いったい何を考えているんだろう?」


「悪い人ではないと思うんだけど……」


「でも、一緒に戦うのは難しいね」


太郎は、そんなことを知りませんでした。


『ぼくのおかげで勝っているんだから、みんな感謝しているはずだ』


そう思っていたのです。



◇ ◇ ◇



ある日のことです。


勇者さまたちは、大きな魔物と戦うことになりました。


戦いの前に、みんなで作戦会議を開きました。


「太郎。きみの強化魔法について、もう一度教えてくれないか?」


『前に説明しただろう!』


「いや、まだよくわからないんだ」


『仲間を強くする魔法だよ!』


「だから、どのくらい強くなるのか教えてほしいんだ」


『すごく強くなるって言ってるじゃないか!』


「それでは作戦が立てられないよ」


『ぼくのことを信用していないのか!』


太郎は怒って、会議から出ていってしまいました。


勇者さまたちは困りました。


「能力があるのはわかるんだけど……」


「質問すると怒るし、会議にも参加してくれない」


「これでは、安心して背中を預けられないよ」


そして、みんなで相談した結果、太郎にはパーティーを抜けてもらうことになりました。


勇者さまが言いました。


「太郎。申し訳ないけれど、きみとはもう一緒に冒険できない」


太郎は驚きました。


『なんだって!?』


「きみの能力が役に立っていることはわかっている。

でも、必要な情報を教えてくれないし、話し合いもできない。

これでは仲間としてやっていけないんだ」


『ぼくはちゃんと伝えたはずだ!』


「何を?」


『ぼくの能力だよ!』


「どのくらい強くなるのか、まだ聞いていないよ」


『すごく強くなるって言ったじゃないか!』


「それだけでは、わからないんだ」


『もういい! ぼくの能力を理解できない馬鹿どもめ!』


こうして太郎は、勇者パーティーを追放されてしまいました。



◇ ◇ ◇



太郎は、たいそう腹を立てました。


『ぼくのおかげで勝てていたのに!』


『あいつらは、ぼくの能力を正しく評価しなかった!』


『ぼくがいなくなったら、きっと困るぞ!』


実際、勇者さまたちは困っていました。


太郎がいなくなると、魔物との戦いがずいぶん大変になったのです。


「やっぱり太郎の能力はすごかったんだね」


「でも、何ができるのか教えてくれなかったからね」


「もう一度、話をしてみようか」


勇者さまは太郎を訪ねました。


「太郎。きみの力が必要なんだ。もう一度、仲間になってくれないか?」


太郎は大喜びしました。


けれども、うれしい顔を見せるのは悔しかったので、わざと偉そうに言いました。


『今さらぼくの能力に気づいたのか!』


「うん。きみの力は本当にすごかったと思う」


『そうだろう!』


「だから、今度こそ能力について詳しく教えてほしいんだ。何倍くらい強くなるの?」


『またその話か!』


「一緒に戦うためには必要なんだよ」


『ぼくを信用できないのか!』


「信用するためにも、話し合いたいんだ」


『もう遅い!』


太郎は大声で叫びました。


『今さら謝っても、もう遅いんだ! ぼくを追放したことを、一生後悔するがいい!』


勇者さまは、しばらく黙っていました。


そして言いました。


「そうか。それなら仕方がないね」


勇者さまは帰っていきました。


太郎は得意になりました。


『ふふん。これであいつらも、ぼくのありがたさがわかっただろう』



◇ ◇ ◇



勇者さまたちは、新しい仲間を探しました。


やがて、仲間を強くする魔法使いが見つかりました。


その男は、最初の日から作戦会議に参加しました。


「はじめまして。私の魔法は、仲間の力を三倍にすることができます」


「三倍! それはすごい!」


「ありがとうございます。

ただし、一度に強化できるのは三人までです。効果は十分間続きます」


「なるほど!」


「魔法を使う前には、必ずみなさんに声をかけます。

残り時間もお知らせします」


勇者さまたちは大喜びしました。


「それなら、作戦が立てやすいね!」


「強い魔物と戦うときは、全員で相談して使おう!」


「よろしくお願いします!」


新しい魔法使いは、毎日の会議にも積極的に参加しました。


自分にできることを説明しました。


できないことも説明しました。


失敗したときには、すぐに報告しました。


困ったときには、仲間に相談しました。


仲間が困っていれば、自分から声をかけました。


すると、どうでしょう。


勇者さまたちは、前よりも上手に戦えるようになりました。


十倍の力はありません。


けれども、三倍の力をいつ、どこで、どのように使うのか、みんなが知っていました。


そのため、無駄な戦いを避けたり、危険な魔物に備えたりできるようになったのです。


新しい魔法使いは、すぐに仲間から信頼されました。


やがて副隊長に任命され、王さまからも褒められるようになりました。


そして勇者さまたちは、とうとう魔王を倒してしまいました。



◇ ◇ ◇



それを聞いた太郎は驚きました。


『そんな馬鹿な!』


『ぼくの魔法は十倍なんだぞ!』


『新しい奴は三倍しか強くできないのに!』


太郎は悔しくてたまりません。


『あいつらは、ぼくの本当の価値を理解できなかったんだ!』


そこで太郎は、別の冒険者パーティーに入りました。


新しい仲間がたずねました。


「太郎さんは、どんな魔法が使えるんですか?」


『仲間を強くする魔法だよ』


「どのくらい強くなるんですか?」


『ものすごくだよ』


「具体的には?」


『とにかく、ものすごいんだ!』


新しい仲間たちは困ってしまいました。


太郎は会議にも参加しません。


質問されると怒ります。


自分の能力についても、詳しく説明しません。


やがて太郎は、また追放されました。


『ぼくの能力を理解できない馬鹿どもめ!』


太郎は、さらに別のパーティーに入りました。


けれども、そこでも同じことを繰り返しました。


『ちゃんと伝えたはずだ!』


『ぼくを信用しろ!』


『ぼくがいれば勝てるんだ!』


そして、また追放されました。


一度目。


二度目。


三度目。


四度目。


太郎は、どこのパーティーでも長続きしませんでした。


やがて、太郎の評判は町中に広まりました。


「あの人は、何を聞いても説明してくれないんだ」


「話し合いもできないらしいよ」


「能力はあるみたいだけど、一緒に働くのは嫌だなぁ」


とうとう、太郎を仲間にしてくれる人はいなくなりました。



◇ ◇ ◇



太郎は、だんだん貧しくなりました。


お金がなくなりました。


家賃も払えなくなりました。


食べ物を買うことも難しくなりました。


それでも太郎は、自分が悪いとは思いませんでした。


『ぼくには能力がある!』


『ぼくは、仲間の力を十倍にできるんだ!』


『世間が馬鹿だから、ぼくの能力を理解できないだけだ!』


太郎は町の広場で、毎日のように叫びました。


けれども、だれも耳を傾けませんでした。


太郎の能力が本物であることを、知っている人もいました。


それでも、だれも太郎と一緒に働きたいとは思いませんでした。


太郎は、ますます腹を立てました。


『どうしてだ!』


『ぼくの方が、あいつらよりずっと優秀なのに!』


『ぼくには十倍の力があるんだぞ!』


けれども、返事をする人はいませんでした。


やがて太郎は年を取りました。


勇者さまたちは、仲間と力を合わせて平和に暮らしました。


三倍の魔法使いは、みんなから慕われ、立派な隊長になりました。


太郎だけは、いつまでも一人ぼっちでした。


そして、ある寒い冬の日。


太郎は、町はずれの小さな小屋で、静かに息を引き取りました。


最後まで、太郎は不思議に思っていました。


『おかしいなぁ。


ぼくには、こんなにすごい能力があるのに。


ちゃんと伝えたはずなのになぁ』


こうして太郎は、だれにも看取られることなく、ひとり寂しく死んでいきました。


太郎の能力は、本当にすばらしいものでした。


けれども、そのすばらしさを人に伝えることも、人と力を合わせることも、太郎にはできませんでした。


どれほど優れた能力を持っていても、それを人に伝えられなければ、正しく評価してもらうことはできません。



チートは確かに有用な能力です。

ですが、伝達こそが、社会において最も重要視される能力だったのです。



おしまい。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



本作を見つけて下さってありがとうございます。

小西にこ(蒼き流星ボトムズ)と申します。


色々なジャンルに手を出すのが好きで、今回は童話に挑戦してみました。

多くの作品が連載途中にも関わらず申し訳御座いません。


この場を借りて作品進捗を報告します。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



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※文庫1巻のみ。

 KADOKAWAが「異世界濫発するな」とファンドに詰められてたので、続刊は絶望的。

 本作の内容自体も反資本主義的な側面が強いので絶望的。




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― 新着の感想 ―
異世界むかしばなし4作目、女神様はとうとう本人が望む力を与える事をやめたらしい(ロクな結果になってなかったからね)コミュ障には他者のアシストをする能力は辛かろう ちゃんと伝え太郎の死因は老衰と推測す…
ちゃんと伝え太郎は単純に嫌われてたんでしょうね。あとチートをもらう時に詳細を言えない呪いにかかっていたんでしょう。
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