デスゲームと言ったって
デスゲームが始まってすぐ、俺は震えて泣いていた。
次の日にはレベル上げを始めたが、もとよりゲームが人並み以上に上手いわけではない。安全マージンを確保し、何度かミスをしても死なないモンスターを相手取る。
終わりのない、繰り返しの日々が始まった。
一か月して政府からの情報が届いた。ゲームから出られない俺たちの不安を煽るためだけに外部接触を許されたそれの内容は、わかってはいたがなんとも無常だった。
現状では何も手を打つことができず、ゲームクリアを目指して頑張ってほしいい、と。
その間も、俺はレベリングを続けた。
半年が経って第一階層がクリアされた時もレベリングを続けていた。
そこから一年が経ち、第二階層のボス戦が始まった。
前の階層でボス戦に参加したプレイヤーのレベルが5つ下がる前提条件が、俺がボス戦に参加した理由だった。
プレイヤーの何倍も大きい牛頭の人型モンスターの圧は、やはり目の前に立たなければわからない。
俺の遥か頭上から振り下ろされる斧はまるでギロチンの刃だ。盾で受けねば一発で死ぬ。
レベルを上げ、ステータスを盛り、バフをかけてもらっても恐怖が消えることはない。攻撃の全てをスキルで受けることはできない。そのいくつかは自前のスキルで受け止めなければならなかった。
いくらゲーム的なアシスタントがあろうと、醬油皿で包丁の一振りを完全に受け止められるわけがないと思ってしまう心の弱さを、この場に集まった誰も笑うことはしなかった。
重たい衝撃が身体を襲う。俺の横をアタッカーが何人か走って行って攻撃を与える。クールタイムの上がったスキルを打って、自身にターゲットを集める。
その繰り返しで、ついにボスは倒れた。
三階層の攻略の合間で、外部からの助っ人がやって来た。
プロゲーマーが十人。その全員が配信ができる権限を付与されていて、第三階層攻略時に三人が死んで、消えてった。
彼らはたしかにゲームが上手かった。けれど、これはデスゲームだ。目の前で人が死んだとか、人の目のないところで何度も泣き叫んだりとか。そういった経験もなく、高レベルプレイヤーにレベルを上げてもらった人間では、意識に差があったのだろう。
第三階層の攻略が終わったのは、第二階層攻略から十か月後だった。
第四階層はそこから二年。
第五階層は一年半かかった。
俺はその間ひたすらにレベルを上げ続けた。多少の自信もついた。
第六階層のボス攻略には参加した。
前線組からしたら三線級だろうと、連続したボス攻略ペナルティを避けるためには有用だった。
そんなこんなで最終階層、第十階層の攻略が始まるころには、インフルエンサーや歌手が知名度を集めるためにやってきていて、何もかもがごちゃごちゃしていた。
命を張って戦っているのはほんの一握り。最初から戦っている人間か、戦うために送られた人間か。第三階層でやって来たプロゲーマーたちの数は三人にまで減っていたが、今もなお戦う姿には感激すらする。
明日には俺が死んでもおかしくはない。だから、最期の階層のボス攻略には参加したくなかった。
それでも、部外者にまみれた騒がしい街で皆の帰りを待つのも馬鹿らしくて、ボス攻略に参加させてもらった。
デスゲームが始まってから十年は経っている。今さら社会に戻れるとは思わなかった。
そうして、最期にボスとして俺たちの目の前に立ちはだかったのは、デスゲームの主催者。ゲームマスターである人物だった。
彼は戦おうとせず、ゲームは終了だと告げた。
「レベルが70以上ある者だけを生きて帰し、それ以下の者は殺して返す」
なんともシンプルだった。レベル70と言えば第六階層のレベルキャップだ。
もちろん、今現在、街で騒いでいる人間は死ぬが、誰もそのことに文句を言う人はこの場にいなかった。




