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ハシラビト和合同盟

たをやめ☆ようこちゃん

作者: 回天 要人

※ハシラビト和合同盟、崩壊。act.8の席替え直後のお話。

 いかん、いかん。今は授業の準備中、料理本なんて開いてる場合じゃない。今日は源氏物語だっけ?伊勢物語だっけ?ああ、そうそう、今日は若紫だったな。光る君が紫上に出会って、俗に言う光源氏計画を開始したり、義理の母・藤壺と契ったりするんだよな……。


「ようこちゃーん?何百面相してんの?険しい顔したりため息吐いてみたり、何かひらめいたと思ったら今度は顔赤らめてるし」


 職員室へ日誌を取りに来た加藤が、私の顔を覗き込んでいた。私の机の上には教科書やら料理本やらプリントやらが散乱している。それらを片付ける振りをして、料理本にツッコミが入らないうちに教科書の下へ隠した。隠し終わってから私は「日誌だったな」と呟きながら、机の壁面に引っ掛けてある日誌を加藤へ手渡した。


「そろっとSHRだよ。荷物あったらあたしも持ってあげるよ」

「えっ、もうそんな時間か!?」


 私が腕時計を確認している隙に、加藤は私の机の上のプリントと教科書の山を一まとめにして腕に抱えた。まさかと思って加藤の腕に目をやると、教科書の下に料理本がしっかり挟まっている。丁度教科書と出席簿で料理本はサンドイッチ状態だ。けれどおかげで加藤は料理本の存在に気付いていない。

 「待て」と声をかけるべきか、一瞬迷ったのが運の尽きだった。加藤は踵を返すと先立って職員室を出て行った。入り口の扉を開け放って、廊下から私に「早くおいでよー」と声をかけている。


「あ、ああ今行く……」


 このまま出席簿で隠し通せば気付かれずに済むだろう。私は一度頷いてから、加藤の後を追った。

 けれど教室についてすぐ、やっぱり恥を忍んで加藤に声をかけるべきだったと後悔した…。


「きりーつ」


 教室へ着くと日直の誰かが号令をかけた。よく知った声だと思ったら号令をかけているのは藍生じゃないか。

 そうだった。席替えしたばかりだけど、日直のローテーションが不公平になると悪いからって、日直だけは前の席の隣同士がすることになってたんだ。前の席で加藤の隣だった藍生が号令かけてるのは当たり前だ。


「よっす、ギリギリ少年!」


 加藤が藍生に声をかけつつ、私の荷物を教卓に置き、自分の席へ小走りに駆けていった。

 ああ、加藤、そんなに遠くへ行かないでくれ…!料理本の存在に気付かれたら私は一体どうしたらいいんだ…!


「れーい、ちゃくせーき」


 ドギマギしている私をよそに、藍生は私の方を見やしない。適当に号令をかけ、着席すると眠そうな顔をして頬杖をついた。視線の先は窓の方を向いている。

 藍生、なんとなく気まずいのはわかる、わかるけど毎日それはちょっと嫌だな…!ってそうじゃない、料理本がバレないならそれに越したことはないじゃないか。ラッキーだ、ようこ!!


「出席、取るぞ」


 用心深く、料理本を出席簿の下に隠しながら名前を読み上げる。出席番号一番は、えーと…。


「……藍生」

「…はぁーい」


 ………何だそのやる気のない返事はっ!!!だから早く寝ろっていつもいつも言ってるのに…!お前が朝ぼんやりしがちなのは低血圧気味だからじゃないのかぁー!!朝食はどうなってるー!!!??

 まて!!落ち着け、ようこ!今はSHRだ!!心の中で小言を言ってる場合じゃない!!


「…井口ぃっ!!」

「は、はいっ!!」

「江藤!」

「………」

「江藤笠馬!休みか!?」

「あ、俺?」


 内職中の江藤はのっそりと頭を上げた。教室のほぼ中央の席だ。そんな場所でいそいそと小細工したらバレバレだぞ!!昨日出した宿題、また忘れたんだな!!減点対象だ!


「加藤!」

「はーい☆」

「☆はいらない!」


 勢い任せに一番後ろの席の加藤へ叫んだあと、いつからなのか、私を見上げていた藍生と目が合った。

 な、なんだよ、文句でもあるのか…!

 思わず、読み上げを止めてしまい、そのタイミングで藍生がボソっと呟いた。


「カルシウム、足りねんじゃねーの」


 ……

 ………


「………っ!!!」


 お前に言われたくなぁーーーーーいっ!!!自分の低血圧を棚に上げて、私が怒りっぽいとでも言いたいのかぁ!!!


「風間!」

「はい…!」


 私は怒りを押さえてなんとか出席を取り終えた。これから一時限目が始まるかと思うと気が重い。朝から疲れた………。



 *



 放課後。掃除の監督が終わって、職員室で一息入れていると、日誌を届けに藍生がやってきた。


「…加藤は?」


 私の机に近づくなり、無言で日誌を差し出した藍生にそう尋ねると、


「委員会とか言って、体よく逃げられた」


 と答えが返ってきた。ということは、今日の加藤は日誌を取りに来ただけか?号令も黒板消しも藍生がやってたよな……。

 私が無言で考えていると、藍生は焦れたように言った。


「じゃあ、渡したからな」


 その様子から、早く帰りたいんだろうってことはわかった。すでに鞄も持ってきていることだし、このまま帰るつもりなんだろう。


「…ああ、ごくろうさん」


 私の返事に頷くと藍生はスタスタと職員室を出て行った。潔い藍生の背中を見送りながら、私は手にした日誌を無意識に開いていた。今日の欄に判子を押さなくてはいけないので、それは別にいいんだけど…。



3月某日 天候晴れ 日直氏名 加藤・藍生

一限(小笠原) 古典

二限(結城/桜井) 数学Ⅱ/数学Ⅰ

三限(小林/南) 日本史B/世界史B

四限(畠山) OC

五限(山川/石丸) 選択(英語・国語)

六限(夏目) 体育

欠席 なし 公欠 なし 早退 なし



 なんと言うか、味も素っ気もない日誌だな…。綺麗とは言わないが下手とも思えない藍生の文字は「読みやすい」の部類には入るのだろう。

 面倒くさそうな態度こそあれ、丁寧に下の方にあるコメント欄にも何か書いてある。



料理本、なんで隠すのか理解不能。




 バンッ


 私が勢いよく閉じた日誌の音が、職員室内に響いた。事務のおじさんがびっくりした顔をしていたけれど、そんなものかまっていられない…!


「……!!!」


 なんでそういうところだけ目聡いんだよぉーーーーっ!!そのくらいの鋭さを普段から発揮しろぉぉーーーーーっ!!!

 叫び出したいのを堪えて、私は椅子に座りなおした。


「私だって、努力なしに出来るわけじゃないんだぞ…!」


 思わず呟いてしまって、慌ててまわりを見渡した。幸い、私の呟きを耳にした先生はいなかったようで、皆別々の仕事をしている。

 いつもはガサツでも、家事とか女らしいこと、さらっとこなせたらかっこいいじゃないか…!なんでそういう乙女心は理解できないんだよ…!そういうときは見て見ぬ振りしとけばいいんだ…!日誌になんて書くな!!


 ちなみに、後で藍生のコメントは消しておいた…。本当はしちゃいけないんだけどな…。

アイオくんは目は利くということですかね…。(ホラ、写真の才はあるわけだし、観察眼は鋭いっていうね…?)

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