確執と決断
それから時は流れ、エーリックは20歳になっていた
この時すでにエーリックは国から医者として認められ、父親と二人で宮廷医の仕事を始めていた
ニィファの病は治っていないものの、表面上は元気そうにしている
しかし、宮廷医の間では、ニィファはもう長く生きられないのではないかという意見のほうが主流になっていた
エーリックは父親の作った車椅子を使って、ニィファを城の外に連れて行くことが多くなった
車椅子はニィファの成長に合わせて改良が繰り返されている
街中では国民がニィファの事をよく気遣ってくれていた
食べ物や飲み物をもらえることもあった
ニィファもそういった人達に感謝していた
ニィファの治療法が見いだせないまま時だけが過ぎていってしまう
エーリックは父親と同じ苦悩を抱くようになった
治療法はやはり見つからないのかもしれない
もし見つかったとしても、その時にはもう手遅れになっているのかもしれない
そして・・・・
もしかしたら、こういう日々を送ってもらうことがニィファにとって最善なのかもしれない
そんな思いが心のどこかに芽生え始めている自分に嫌気が差した
しかし、エーリックがそう思った理由の一つが、宮廷医がまさに父親が言っていた通りの人達ばかりだとわかったからだ
ニィファのことよりも自分のことばかりを考えている
それが許せなかった
ニィファをなるべく宮廷医達から遠ざけたい
それがニィファを外に連れ出すことが多くなってきた理由なのかもしれない
そしてこの時期、エーリックにとって大きな転機になる出来事が起こった
それは決してエーリックにとって喜ばしいことではない
むしろいろんな意味で最悪の事態と言っても良かった
父親のマルティアスが突然倒れたのだ
そしてそのまま帰らぬ人となった
44歳の若さだった
国王はその死を悼み、生前の功績に報いるべく多額の金銭を家族に渡した
しばらくして、長らくニィファの主治医を務めていたマルティアスがいなくなったことから、次の主治医について話し合いが設けられた
他の宮廷医達にはマルティアスは嫌われていた
表面上はその死を悼むといった態度だったが、自分達の野心を妨害され続けてきたことから、数多くの恨みがあった
そして、次の主治医の地位を求めて宮廷医達から国王とニィファに請願が殺到した
しかし、ニィファはそういった宮廷医達の希望を打ち砕くかのような宣言をした
次の主治医となるのはエーリックであると
その言葉を聞いて、宮廷医の全員から反対の意見が申し出された
エーリックはまだ20歳の若輩だ
それでも当の患者であるニィファの意見が優先されてしまう
ニィファのその言葉を聞いてエーリックは
「承知しました。父に代わって必ずやニィファ様の病を治療いたします」
そう宣言した
そして、この事がその後に大きな火種となっていく
主治医となったエーリックは他の宮廷医の治療内容を確認した
その中には看過できないものがいくつも含まれていた
「ランダの種だって?」
エーリックはその宮廷医に問い詰めた
「ランダの種には毒が含まれていることくらいわかっているだろう!」
「もちろん承知しております。しかし薬というのは元来毒と表裏一体です。それが姫の生命力を呼び起こすんです」
「だったら、まずお前がそれを飲んでみろ!」
エーリックは怒りが抑えられなくなっていた
父はこんな状況でも、ニィファにとっての最善を考えて、ここまで守りぬいていたっていうのか
しかし、自分にはそんな器用なことはできそうにない
宮廷医達の治療法を全て見直し、自分が認める方法しか許可しない体制を作り上げようとした
そんな日々が続いたある日、エーリックは国王に呼び出された
「宮廷医達からお前に主治医を辞めさせるよう懇願が来ている」
「それは・・・・」
エーリックはまたもや怒りが抑えられないでいた
「宮廷医達の治療は無茶苦茶なものばかりです。彼らにニィファを任せればニィファは宮廷医の手柄のための実験台にされてしまう!」
いや、すでにそういう状況になっている
しかし国王の反応は冷徹だった
「マルティアスには感謝もしている。しかしマルティアスはニィファの治療法を見出すことができなかった。お前もその方針を貫くというのであれば、ニィファの治療は難しいということにならないか?」
「父はニィファの事を最優先に考えて行動していたのは間違いありません。ニィファは父かいたからこそ満足が行く生活が送れてきたんです。彼女が俺を主治医に選んだことがその証拠です!」
「私が期待しているのはニィファの治療だ。それにまだ若いお前の意見を優先して、他の医者達の意見を蔑ろにするというのでは、組織の運営が成り立たなくなる。それはわかるな?」
つまり、国王も組織を優先するということか
しかし、自分が国王の立場だったらどう考えるだろうか
ニィファの意見を尊重するだけでは宮廷医達が全て離れてしまうかもしれない
そんな状況が看過できないのも理解できる
つまり、ニィファにとっての最善ではなく、国としての最善が優先されてしまうのだ
それに国王を説得できるだけの決定的な材料があるわけではない
ニィファにとって何が最善なのかという意見は人によって違う
たった一人の意見では、多数の反対意見を覆せない
「・・・・わかりました」
エーリックは国王の決定を覆すことができないことを悟った
父の偉大さがようやくわかった
ニィファにはやはり父が必要だったんだ
エーリックは国王に背を向けてその場を去った
そのままエーリックはニィファの元を訪ねた
そして事の経緯を話した
ニィファはその話を聞いてうつむく
「すまない。あの時の宣言は守れそうにない」
エーリックのその言葉を聞いたあと、しばらく経ってニィファは尋ねた
「これから・・・、どうするの?」
エーリックは少し考えたあと答えた
「もうこの土地にいる意味はない。だから、どこか遠い場所に行こうと思っている。ニィファは・・・」
次の言葉が出てこなかった
その後に続けるべき言葉がわからなかった
そんな様子を見てかニィファが申し出た
「だったら、一緒に国を出ましょう」
「・・・え?」
一瞬、エーリックは固まってしまった
何も言えないエーリックにニィファが続ける
「私にとっての幸せな人生って、おそらくそういうことだと思う」
「でも・・・・」
「私が自分で選んだことだから後悔なんてしないから」
「・・・・・・」
エーリックはしばらく考えた後、思い切って尋ねてみた
「どこか行きたいところとかあるのか?」
それを聞いてニィファも逆に尋ねる
「エーリックにはどこか行く宛てはあるの?」
「特には無い。宛てもなく旅をしようかと思ってた」
「だったら、昔読んだおとぎ話に書かれていた土地を巡ってみない?あれ、実際の土地が出てくることがあるんだって」
そう、それは幼少の頃によく二人で読んだおとぎ話
そんな場所を巡りながら旅をしていく
そういう旅も面白いかもしれない
「そうだな。じゃあ、まずはどこへ行こうか?」
「光り輝く洞窟がいいな。だってそれなら本当にあるかもしれないし」
その言葉を聞いた後、一呼吸置いて、エーリックは決意した
「わかった。一緒に旅に出よう。お金ならそれなりにあるから」
「うん!」
ニィファの返事を聞くと、エーリックはニィファを抱きかかえ、そのまま車椅子に乗せて城を出た
そして二人だけの旅が始まった




