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エーリック

ここはヴィストランドと呼ばれる世界

その世界にある国、メランデル

人口は200万人程度


その国に住む一人の人物により、この世界の歴史が大きく動いていく

これはそんな物語


彼の名はエーリック

まだ12歳の少年だった


エーリックの父親、マルティアスは医者だった

宮廷医として働いている

マルティアスは王城に息子のエーリックをよく連れて行っていた

というのも、その国の王女であり、マルティアスの患者でもあるニィファはエーリックと同い歳だったのだ


なかなか同世代の人との交流もないニィファにとっては、友人となれる存在はそれほど多くなかった


王女のニィファは幼い頃より体が弱くまともに歩くこともできなかった

ニィファの治療にはマルティアスの他、宮廷医の何人かがあたっていた

しかし思わしい結果は出なかった

エーリックもベッドにいるニィファの姿しか見たことがなかった


そんなニィファには密かに楽しみにしていることがあった

それはエーリックが買ってきてくれた本を一緒に読むことだった

外の世界をほとんど知らないニィファには、その本に書かれている内容が新鮮だった

特にニィファが興味を持ったのは、いわゆる「おとぎ話」だ

内容は非現実的なものばかりだったが、そこに書かれている内容はニィファの胸をときめかせるものばかりだった


伝説の魔法を操り、魔王を倒した大魔導士の物語

永遠に生きる魔女ヴェ=リェの物語

異世界に行っていろんな不思議な食べ物を食べる物語

僻地にある一面が光り輝く洞窟の物語


エーリックもまたニィファと過ごすそんな時間が好きだった


「魔法って本当にあるのかな?」


ニィファの素朴な疑問だ


「うーん・・・・・まあ、無いんじゃないかな。そんなものがあればニィファの病気だって簡単に治せるだろうに・・・・」


言ったあと、ハッとなり少しエーリックは後悔した


「そうだね・・・・」


ニィファは少し悲しそうな顔をする


「ごめん、余計なことを言った。でもニィファは必ず元気になるよ」


エーリックのその言葉は単なる気休めだけでなく、いつか自分がその力になりたいという意味も込めていた

エーリックには父の跡を継ぐという目標があったのだ

そのために医学の勉強をしていこうと決めていた


しかし、エーリックは何度も父親の治療を見ていたが、特に積極的な治療をしているようには思えなかった

それに比べて、他の宮廷医はいろんな薬を用意して経過を見守っていた


ある時、エーリックは父親に聞いた


「なぜ、父上はニィファの治療に積極的ではないのですか?」


少し不信感があった

マルティアスはニィファのいわゆる「主治医」的な地位にある


マルティアスは家では治療法を勉強するよりも工具を使って何かを作っている事が多かった

エーリックの質問にマルティアスは作業する手を止めることなく答えた


「ニィファの治療法はまだわかっていない」


「でも、他の宮廷医の人達はニィファを治療しようと頑張っているように見えます」


「・・・そうか。お前にはそう見えるのか」


父親のその言葉の意味をエーリックがわかるまで、少しの時を必要とした



ニィファの性格は非常に明るかった

いつもニコニコしている

それは素直にマルティアスとエーリックが来ることを楽しみにしているようにも思えた


ニィファの普段の生活に関しては、治療以外の事は侍女が主に担当しているが、マルティアスはやはりニィファに対して健康状態を確認する以上のことはやっていないように思えた

そしてエーリックにしても遊び相手になるくらいのことしかできなかった

しかし、マルティアスはまるでそれも治療の一環として見ているような、そのくらいにエーリックがニィファに接する時間を大切にしているようだった


それというのも、ベッドからロクに動けないニィファにとっては、本から得られる知的好奇心こそがほとんど唯一の楽しみだった

エーリックは街で新しい本を探してはニィファの元へ持っていった

それが日常だった



そういった日々が続いていたある日の事、マルティアスは大きな荷物を抱えてニィファの元を訪れた


「それは?」


見慣れないものを見てニィファが尋ねる

マルティアスはその荷物を眺めながら


「これは車椅子です」


そう言い、続けて


「ニィファ様は外に出歩くこともままならない。ですが、これがあれば自由に移動が出来るようになります。どうです、一度試してみませんか?」


そう言って、マルティアスはニィファに手を差し出した

初めて見たそれにニィファは興味津々だった


それからマルティアスはニィファを連れて庭に出た

途中で何度も乗り心地などを聞いていた

エーリックはニィファが楽しそうにしている様子がよくわかった


その後、部屋に戻ったニィファは、エーリックが買ってきたおとぎ話を読み聞かせてもらっていた

そんな中、宮廷医の一人が薬を持って訪ねてきた

エーリックは席を立ったが、ニィファの表情が急に曇ったのを感じた

ニィファはもしかして、父親以外の宮廷医の治療が苦手なのだろうか

そんな風に感じた


家に帰ると、マルティアスは再び工作を開始した

どうやら車椅子を改良するようだ

エーリックは再び父親に尋ねた


「それはニィファのためのものだったんですね」


「ああ、そうだ。ニィファの治療法はもしかしたら今後も見つからないかもしれない。しかし、もし仮にそうだったとしても、人生を豊かにすることは出来るはずだ」


一呼吸置いて


「少なくとも、あんな狭い部屋で意味があるのかどうかもわからない治療を受け続ける人生よりはな」


その言葉を聞いてエーリックは長年の疑問を聞いてみた


「他の宮廷医の治療は意味がないのですか?」


「ニィファを見ていればわかるんじゃないのか?」


「・・・・」


「彼らが欲しているのは医者としての名誉だ。もちろんそれはニィファを治療するという動機にはなっている。しかし、誰かに先にその名誉を取られまいと年々治療は過激になってきている」


確かに、ニィファがいつもより辛そうにしている日をたびたび見かけることもあった


この時、エーリックは父親の考えが理解できたような気がした

ただ治療するだけの人生よりも、豊かな人生を歩むことのほうが大事なんだと


しかしエーリックにはどこかまだ納得できない部分があった

本当にニィファを治療することはできないのだろうか


そんな思いを胸に、これからエーリックは独自に医学に関する文献を探して勉強をしていく

わからない部分は父親に質問もした

そうして、自分なりの答えを探そうとした

エーリックはそのような思いを胸に、医者としての道を歩んでいった

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