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最終話:雨が止むまで、そして雨上がり

土砂降りの雨が嘘のように上がり、札幌の街に眩しい初夏の太陽が降り注いだ週末。

 路地裏のカフェバー『Rain』のドアベルが、カランコロンと軽快な音を立てた。

「はるとくぅん、やっほー! 今日はいっちばん乗りだよねぇ!」

 愛莉あいりが、いつものように舌っ足らずで無防備な笑顔を弾けさせて店に入ってくる。その後ろには、彼女の小さな手をしっかりと握り、少し照れくさそうに微笑むれんの姿があった。

「いらっしゃい。……おや、今日は二人で手なんか繋いじゃって」

 カウンターの中でグラスを拭いていた陽斗はるとが、わざとらしく目を丸くして見せる。

「えへへぇ。あのね、わたし、れんくんとお付き合いすることになったの!」

 愛莉が顔を真っ赤にして報告すると、蓮は「……愛莉、声でかい」と耳まで赤くして目を伏せた。

「おっ、ついに蓮も腹括ったか! おめでとうな!」

 そこへ、後から入ってきたしょうが、蓮の背中をバンッと豪快に叩いた。

 翔の隣には、彼に肩を抱き寄せられ、ツンとしながらもどこか幸せそうに頬を緩めているあおいがいる。

「ちょっと翔、蓮くん痛がってるじゃない。……愛莉、あんた蓮くんに甘えすぎて困らせちゃダメよ。本当におめでとう」

 葵が少しお姉さんぶって微笑むと、愛莉は「あおちゃんも、しょうと手繋いでるくせにぃ!」と口を尖らせた。

 葵は「なっ……! こ、これは翔が勝手に……っ!」とパニックになり、翔は「おう、俺が勝手に繋ぎたいから繋いでんだよ」と悪びれずに笑い飛ばした。

「いやー、みんなお熱いねぇ! 俺たちも負けてらんないっしょ、美咲ちゃん!」

 最後に店に入ってきたのは、相変わらずお調子者の大樹だいきと、彼に寄り添う美咲みさきだった。美咲の表情には、以前のような「一人の寂しさ」や自信のなさは微塵もなく、愛する人の隣にいる確かな安心感に満ちていた。

 いつもの円卓に、いつもの6人が座る。

 けれど、その関係性は数日前とは劇的に変わっていた。

 愛莉と蓮。翔と葵。大樹と美咲。それぞれが、自分の心に張っていた強がりや臆病さという「傘」を捨て、本当の気持ちを確かめ合ったのだ。

「……よかったな、愛莉」

 翔が、向かいの席に座る愛莉を見て、ふっと優しく目を細めた。

「うんっ! しょうも、あおちゃんのこと絶対泣かしちゃダメだからね! ゴリラなんだから、優しくするんだよ!」

「誰がゴリラだ。お前こそ、蓮に迷惑かけんなよ。なんかあったら、俺がいつでも話聞いてやるからな」

「もーっ、しょうのバカぁ! わたしにはれんくんがいるもん!」

 愛莉と翔のやり取りを見て、みんながドッと笑い声を上げる。

 二人の間にある「絶対に恋愛には発展しない、最高で最強の親友」という絆は、それぞれに恋人ができた今でも、まったく色褪せることはなかった。恋愛感情がないからこそ、永遠に壊れない絶対的な信頼。それは、蓮も葵も深く理解し、尊重している、このグループの大切な「土台」だった。

 好きだよ、と伝えればいいのに。

 願う先が怖くて言えなかった、あの日々。

 今の楽しい「時間」が一秒でも長くなるなら、ずっとこのままでいいと誤魔化していた雨空は、もうどこにもない。

 勇気を出して一歩踏み出した彼らの上には、どこまでも青く澄み渡る、美しい空が広がっていた。

 その時。

 再びカランコロンとベルが鳴り、ひまわりの花束を抱えた若い女性が店に入ってきた。近所の花屋の店員だ。

「陽斗さん、こんにちは。ご注文の夏のお花、お届けに上がりました!」

「あ……ありがとう。いつも綺麗なお花を」

 陽斗は、カウンター越しに花を受け取りながら、少しだけ緊張したように息を吸い込んだ。

 円卓の6人が、ニヤニヤしながら一斉に陽斗を見つめている。

 みんなが勇気を出したのだ。マスターである自分が、いつまでも雨宿りしているわけにはいかない。

「あのさ」

 陽斗は、エプロンを外し、カウンターから彼女の前に歩み出た。

「今度の休み……もしよかったら、一緒にこのひまわりみたいな、綺麗な景色を見に行かないかな。ドライブ、付き合ってほしいんだ」

 花屋の女性は一瞬パチクリと瞬きをし、それから、ひまわりよりも明るく、嬉しそうな笑顔を咲かせた。

「はいっ! 私でよければ、喜んで」

「ヒューッ!! マスターやるぅ!」

「はるとくん、おめでとーっ!」

 大樹の冷やかしと、愛莉の無邪気な拍手が店内に響き渡る。

 陽斗は照れくさそうに頭を掻きながら、仲間たちに向かってとびきりの笑顔を向けた。

 冷たい雨のせいで、恋音は時に泣き、時にすれ違った。

 けれど、それぞれが相手を想い、一握りの幸せを強く抱きしめる勇気を持てた時。物語は、こんなにも温かく、優しいハッピーエンドへと辿り着くのだ。

 グラスの中で氷がカランと鳴る。

 雨上がりの『Rain』には、今日も彼らの愛おしい笑い声が、いつまでも心地よく響き続けていた。

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