1話 【最初の自己紹介って無難にするか個性出すか迷って結局ちょっとだけ個性出して、地味に終わるよね。】
とりあえず1話投げました。書きだめできましたら 改めて放出しますので、
続きが気になって頂けたら、ブックマークお願いします。
春。満開の桜が舞い散る学園で、僕は心の中で形式ばった手紙を綴っていた。
(拝啓、お父様、お母様。おかげさまで、
桜が満開の学園で、無事に入学式を終えることができました)
「チッ、おい見ろよ、あれが例の」 「アレが入学できた意味がわかんねぇよ」
(きっとこれから新しい友人もでき――)
「え〜、サイテー」 「絶対関わっちゃだめよ」
(遊びにも誘われ――)
「テメェ、後で演習場に来やがれ!その根性、叩き直してやる!」
(とても有意義な学園生活を――)
「うわあ……」 「なんであんな奴が……」
(全然過ごせそうにありません!!!)
初手から敵意がハンパじゃない、まるで身体中に針を突き立てられているような、凄まじい視線の暴力。
僕の名前は 天川 リンネ 。
片目を覆い隠す灰色の髪の隙間から、くすんだ黒色の瞳が覗いている。見た目こそ陰気だが、内面は至って普通の少年――のつもりだ。体格は残念ながら小柄だが、成長期に期待したい。
入学式当日だというのに、僕はその「例の」という言葉が示す通り、多くの新入生から激しい敵意を向けられていた。これから一体どうしたものか、と途方に暮れていると――
「ちょっと、さっきから何一人で変な顔してるわけ?突っ立ってないで、さっさと教室に行くわよ!」
背後から急かす声が飛んできた。
燃える炎のように鮮やかな赤髪をワンサイドアップにまとめ、ルビーのような瞳を鋭く光らせた少女。きつく吊り上がった目元は、その強気で気位の高い雰囲気を象徴している。今にも「フンッ!」と鼻を鳴らしそうな、威勢の良さだ。
この美少女の名前は、天宮アカネ。僕の幼なじみである。
「ほんと……ありがとなぁ、アカネぇ」
入学初日から、こうして唯一普通に接してくれるのは、アカネだけだ。
「え〜、、キモっ。なんで半泣きなわけ?」
「そりゃあ、泣くだろ普通」
僕は改めて周囲に視線を移した。すると、さっきまで全身に感じていた刺すような視線が嘘のように、誰も僕と目を合わせようとはしない。
「入学初日からこれだぞ?!」
「はぁ、バカねぇ。別に他人にどう思われたって、今更でしょ?リンネは何も悪いことしてないじゃない」
「アカネ……」
「もっと堂々となさい!
それに、アンタにはこのアタシがいるんだから、
それだけでリンネの安全は保証されてるわ!」
そう言い切るアカネの強気な言葉と笑顔は、
太陽のように輝いていて、眩しいものだった。
僕はそんなアカネに、
ぐしゃぐしゃになっている一枚の紙を差し出す。
「うん?何よこれ?」
「その紙はな、知らない奴から急に押し付けられたんだ」
アカネはシワだらけの紙を手に取り、
そっと広げて、そっと閉じた。
「閉じるなバカもの」
もう一度アカネに紙を広げさせた。そこには、
乱雑な筆致で、血を思わせる赤黒い文字が書き殴られていた。
《今すぐ天宮アカネさんから離れろクソ野郎!さもなくばぶっ殺す!コロス!コロス!!コロスゥ!!!》
殺意という怒りの感情が、そのまま手紙に叩き込まれている。
どう見ても人に見せてはいけない殺害予告だ。
「どう思うよ?」 「…………」
一瞬の静寂の後、アカネは「フンッ!!」と鼻を鳴らし、歩き出した。
僕の指を逆方向にグッと握って
「痛い痛い!折れる、折れちゃう!!」
そんなことを言いながらも、僕たちは1-Aと書かれた教室の前に到着した。
(このまま扉を開けずに逃げ帰りたい……)
痛みを感じる指を擦りながら、情けない思考が頭をよぎるが、アカネはそれを許さないだろうし、何より男として情けないと僕自身が思う。
意を決して扉を開く。すると、その室内には、拍子抜けするほどの「普通」があった。
これまでの異常な敵意に感覚が麻痺していたせいだろう。教室では、それぞれが自由に時間を過ごしていた。
自己紹介をし合う者、早速グループを組み始める者、読書に浸る者など、そこには入学式初日のごく一般的な学園生活の雰囲気が広がっていた。
「ちょっと、早く入りなさいよ」 「おう、わりぃ」
外で向けられた敵意はどこへ行ったのか。気が抜けて安心した僕は、自分の席を探し始める。しかし、自分の席が見当たらない。
「なぁ、アカネ、席見つかったなら――」
僕がアカネに話しかけようとしたところで気がついた。
アカネの周囲には、いつの間にか立派な人垣が完成しており、彼女の姿は群衆に埋もれて見えない。
「天宮さんだよね?隣の席なんだけどよろしく!」「やっぱり天宮さんってオーラが違う!」「入学式の挨拶、最高だったよ!」「ねぇ、髪の色、すごく綺麗だね!」
彼女の周囲は、まるで強力な磁石でもあるかのように、途切れることなく生徒たちの笑顔と談笑を吸い寄せている。アカネも時折はにかんだり、快活な笑みを返したりしていた。
アカネの機嫌が良さそうなのを確認し、僕は改めて自分で席を探すことにした。
しかし、どれだけ探しても自分の席は見つからない。というよりも、本来僕の席があるはずの場所に、そもそも席が設置されていないのだ。
「えっと〜、なんで?」
周りを見渡すも、誰もこちらを見ていない。皆アカネに夢中だったり、他のことに夢中だ。これが当然であるかのように。
そうこうしているうちに、始業を告げるチャイムが鳴り響いた。
そのタイミングで、教室の扉を開けて教師らしき男が入ってくる。
その男は、いかにも気だるそうな雰囲気を全身に纏っていた。ボサボサの黒髪、濃いクマのある目元、無精髭。片手にはなぜか週刊漫画雑誌を持っている。全く覇気が感じられないが、しかし、直感的に「強者」であると理解させる、異様な存在感を放っていた。
「おーい、お前ら。静かに席に着けぇ」
生徒たちもそれを感じ取ったのか、先程までの喧騒は嘘のように消え去り、みな静かに大人しく自分の席に着く。
もちろん、僕一人以外。
「おい、天川。お前も早く席に着け」
突然の名指しに驚く。
(うわ、びっくりした。まだ会ったこともない生徒の情報を、もう把握してるのか?というか、それよりも……)
席に着きたいが、そもそもその席が無い。周りを見回してもアカネ以外は誰も僕を見向きもしない。
教室外の露骨な敵意の針のむしろからは逃れられた僕だったが、教室内では存在しない者として扱われる。僕は再び、針のむしろに座り直したのだった。
(席には座れてないけどね!!)
心の中では盛大にツッコムも声に出せるはずもなく
「あの〜、すみません。席がありません」
「……はぁ~~~~、お前らなぁ、あんまりガキみたいなことしてるんじゃねぇよ」
心底気だるそうにそう言いながら、教師は教卓のパイプ椅子を持って僕に近づいてくる。
「とりあえずこれ座っとけ」 「あ、はい、ありがとうございます」
僕にパイプ椅子を渡すと、教師は頭をかきながら、独り言のように、だがクラス全員によく聞こえる声で呟き始めた。
「あーあ、なっさけねぇなぁ。こんな低レベルのクソガキしかいねぇクラスの担任になっちまった俺、本当情けねぇよ……」
生徒たちの雰囲気が一瞬強張ったが、教師はお構いなしに、心底困ったという顔でそう言いながら黒板の前に戻り、気だるそうに話し始める。
「あー、いきなりだが、お前ら全員よく聞け。ハッキリ言う、この学園は完全実力主義だ。だが、そんな学園の、しかもAクラスに、とんだ恥さらしがいる」
教師の脈略のない言葉に、最初は誰も反応できなかった。しかし、だんだんとその言葉の意味を各々が解釈すると、教室に小さなざわめきが起こった。
「恥さらしって、まさか……」「なあ、それってさあ……」「アイツのことじゃね?」
だんだんと皆の視線がリンネに集中しだす。
「ふふっ、先生、それは流石に言い過ぎですよ」
と、水色の髪の男が言うと、それにつられたように、長身のひょろっとした男は堪えきれない様子で、「ぶはっ」と吹き出した。
「はははっ、落ちこぼれの恥さらしがAクラス!最高に惨めじゃねぇか!」
その男の言葉は、それまで教師の存在を気にして静かだった生徒たちの理性のタガを緩めさせた。
「プッ……マジかよ!」「魔力無しでAクラスって、ギャグだろ!」「教師からも言われるとか、終わりだろ」
「……ふ、ふふ、君も、少しくらいは反論したらどうだい?」
水色の髪をした男は、優雅なセリフとは裏腹に、その目には侮蔑と嘲笑が満ちていた。
そして、女子生徒の中でも、翡翠色の髪の女がすでに我慢の限界だったようで、腹を抱えて大声で笑い出した。
「アハハハハハハッ!もう無理〜!魔力無しの落ちこぼれがAクラスとか!本当に面白すぎ〜!アハハハハ!」
そこからは皆、堰を切ったように笑い出す。
リンネは動かない。ただ、パイプ椅子に座ったまま、その光景を静かに眺めていた。
一方、アカネは笑わない。きつく吊り上がった目元の奥、ルビーの瞳は、嘲笑する級友たちと、この状況を生み出した教師を、鋭く睨みつけていた。
「ああ、とんだ恥さらしだ」
教師が再び話を切り出す。
「入学初日から、たかが同級生相手にダセェ嫌がらせ。正面からじゃ勝てねぇのか?くだらねえ事しやがって、実力主義なこの学園に相応しくねぇ」
教師の言葉は、教室の全員を黙らせた。
「どこの弱者かは知らんが、早めの自主退学をおすすめする」
そう言って教師は、先程リンネを指差して笑った、長身のひょろっとした男を一瞥する。
「は?テメェ、ふざけんなよ!誰がいつ勝てないなんてほざいた!!」
見つめられた男は、リンネを指差したまま、教師にこう吐き捨てた。
「この!魔力無しの落ちこぼれに!俺が負けるわけがねぇだろうが!!つーか決めつけてんじゃねぇ!誰だ?!そんなこと言いやがった奴は!」
男は周囲を睨みつけながら見回すが、誰も心当たりはない。それも当然だ。この教師が教室に来るまで、誰も担任の教師が誰なのか知らなかったのだから。
「別に誰からも聞いてねぇよ。そして、机を破壊したのはお前だ、太田」
教師は名指しでその男に告げる。
「だから決めつけんなよ!どこに証拠があって言ってんだよ!」
「はぁ〜〜、いいこと教えてやる。人はな?疑われた時の反応は二種類ある。一つ目は即否定するやつ。『やってない』とか『違う』とかな。二つ目は、『なんでそう思った?』とか『誰が言ってた?』とか、証拠を探ろうとする反応だ。これ言うやつは、ほぼ犯人だ。覚えとくといいぞ」
何故か少し自慢げに話す教師だが、そんな心理学的(?)な理由で犯人にされる側は、全然納得がいくわけがない。
「ふざけんなよ!そんなもんが証拠になるかよ!」
ごもっともである。
「チッ、可愛げもねぇのかよ。こっちがせっかく気持ち良くなってるてのに、納得しとけよガキが。」
(なんつー言い草だよ、ほんとにコイツ教師か?)
リンネだけで無く、他のクラスメイト達の頭にもそんな言葉が浮かぶ
「いいか?ハナから証拠クソもねぇんだよ!俺がこの目で、お前が机ぶっ壊して、掃除ロッカーにぶち込んだの見てんだからなぁ!」
(お前見てたんかぃぃぃぃ!!!!!)
リンネは思わず、心の中で声を張り上げた。まさかの事実に、驚愕の一言である。
「はぁ?!なんで知って……!いや、っつうかテメェ、その時教室にいなかっただろうが!!どこで見てやがったんだ!」
太田は動揺しながら言うが、リンネからすると、それ以上に気になることがあった。
(えー?待って、じゃあさ、コイツ最初から分かってて、僕に早く座れとか言ってたってことだよな!白々しい奴!!何でそんなめんどくせぇ事した!?)
僕の中で教師への警戒度が少し上がった。
「いや〜、いたぞ?ふつ〜に教卓座ってたぞ?お前らが気づけるかテストとして気配消してがな?チャイムと同時に現れてやろうとか考えていたがな?」
当然の事のように言うが、誰にも気付かれないほど気配を消すことなど、常人にはとても無理だ。
「入学式当日に、いきなり机壊すか普通?
うん、さてはお前イカれてんな??どこのヤンキー高校?俺萎えて職員室に漫画取りに帰っちまったぞ?」
脇に抱えてた漫画雑誌を教卓に置き
「ハァ〜、実力主義の弊害がハッキ分かるな」
そう言いながら、教師は懐から出したタバコに火をつけ、ストレスを吐き出すように、
深く深くニコチンを吸い込んだ。
「スハァ〜」教室内で、白煙が静かに立ち昇る。
(突っ込んでいいのかわかんねぇよ!何平然と一服かましてんだよ!!つーかまだなんもわかってねぇよ!!!)
リンネは再び心の中で叫んだ。
――こうして波乱の学園生活が幕を開けた。
そもそも何故リンネは生徒達から嫌われているのだろうか?「落ちこぼれ」「魔力無し」の意味とは?
誤字脱字報告や感想、仮題に関するご意見、お待ちしてます。どれも私の処女作を読んで頂けた事が励みになります。 今後ともよろしくお願いします。




