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婚約者と思ってた人に「誰かわからない子を産んでくれ!」と言われた聖女ですが眠り粉で無理やり純潔を奪われ、冤罪にされました──そして彼女は立ち上がる

作者: すじお

聖女アストリッドは、朝の光が差し込む神殿の聖堂で目を覚ましたとき、胸の奥にひりつくような違和感と、断片的な記憶の欠落を抱えていた。彼女は長らく国中の祈りを集める役目を果たしてきた。人々はその澄んだ声と、穏やかな微笑みに慰められた。だが、それは外の世界の事情と切り離されているわけではなかった。



婚約者だと信じていた侯爵フローレンからの言葉は、アストリッドの世界の地盤を揺るがした。


「君には、誰かがわからない子を産んでほしい。結婚はしたくない。だが子を残すために……」


そう囁かれた時の冷たさを、アストリッドは忘れられない。誰にも言えない孤独と、信頼していた人間の計算高さ。彼の言葉は、金と評価、体裁だけを計算する冷たい算盤の音のようだった。



ほどなくして、神殿での出来事が露見する。


アストリッドはある晩、何者かに「眠り粉」をかがされたらしく、意識を失っていた。

目覚めてからわかったのは、神殿の近くで噂された“放蕩な貴族たちが出入りしていた形跡”と、彼女が意図せぬ状況に置かれていたという事実だけだった。だが当人の記憶は断片的で、証言できるものはほとんどなかった。



フローレンは、自分とアストリッドの間に合意があったと主張し、アストリッドにはまるで覚えのない魔道記録装置からアストリッドを辱める映像をわざと貴族たちの集まる場所で公開した。だが当のアストリッドには当然その記憶はない。



アストリッドの目は半開きで、フローレンが

「気持ちがいいと言え」と言うと、アストリッドは

「きもちいーきもちいーきもちいー」と譫言のように口走っているが、目に正気はない。



眠り粉に加えてなんらかの違法な催眠薬が混ぜ込まれたものらしい。思わず顔を背ける婦人もいた。

明らかに異常な光景なのに、誰一人としてその映像を「真実の愛」だと信じるものはいなかった。



映像の中のアストリッドはまるで娼婦のようで、「これは真実の愛が為せることだ」フローレンは恥ずかしがもなく主張した。



その噂はすぐに尾ひれをつけられ、フローレンの元カノ、イザベラが告発に加わった。

「あの女はふしだらだ。国王様に告げ口する」と豪語した。


イザベラはフローレンと自分の関係を守るため、あるいは自分の地位を高めるために、憶測と利害を混ぜ合わせて噂を拡散した。

やがて「聖女が自らの意思で身を堕とした」という声が広がり、王都の一部は沸騰した。

神殿内でも疑念が芽生え、静かだった祈りの場に暗い影が落ちる。

アストリッドは自分が被害に遭ったことを、そして真実を知らないまま怒りと蔑視に晒される現実を、深い恥と屈辱で受け止めた。彼女の中で、静かに燃える決意が生まれる──真実を立てること、同じような理不尽に苦しむ者を守ること。



神殿を去る決意は、静かだが確かなものだった。


「ここで祈り続けることはもうできない。聖女として人のためにあるのは変わらないが、私の方法は変える」


と彼女は宣言した。聖なる力を盾にするだけでなく、それを用いて社会の制度を変え、人を守る組織を作る──それが彼女の新しい道だった。



離れた町で出会ったのは、同じように不正に傷つけられた者たち、そして正義に燃える仲間たちだった。四人の若き士官――カイ、エル、レオン、ミハイル。彼らはそれぞれ異なる理由でアストリッドに共鳴した。


カイは貧民街の子供たちを守るため、エルは法律の不備に怒り、レオンは傷者の治療に心を砕く医師の息子、ミハイルは王城の腐敗を遠目に見てきた元役人だった。

噂の“神殿の夜”に関して、彼らはアストリッドの無垢さを信じ、事実関係の調査に協力を申し出た。


アストリッドは彼らに許しを請う必要はなかった。彼女は自分の弱さを恥じるのではなく、そこから力を取り戻すことを選んだ。仲間は彼女の決意に応え、表向きは「聖女の護衛団」として、裏では「女性と弱者を守るための市民治安隊」を編成した。人々はそれを俗に「女神護衛団」と呼んだ。


彼女たちの初めての仕事は調査だった。夜の神殿に出入りしていた者たちの足取り、眠り粉の入手経路、フローレンとイザベラの関係――地味で忍耐のいる作業を重ねるうちに、驚くべき真相が浮かび上がってきた。


フローレンは表向き侯爵の体裁を保つが、私的には責任を回避する術を探していた。彼は血統や財産にばかり目を向け、不要になった“やっかいな女性”を切り捨てることに躊躇がなかった。一方、イザベラは内心で自分の居場所を脅かすものに対して過敏に反応し、噂を利用して自分の立場を固めようとしていた。



証拠――眠り粉を渡したとされる商人の帳簿、神殿周辺で見つかった第三者の足跡、秘密裏にやりとりされた手紙――が少しずつ揃っていく。だがそれは単純な告発のための材料ではない。



アストリッドは証拠集めのために高度な魔導画像記録装置をセットしていたが、それは明け方になると装置の電源が切られていた。

だがその代わりに、アストリッドは音声がよく記録できる媒体といくつかの画像記録を用意していた。


音声記録は、アストリッドをひとしきり弄ぶ音といくつかの台詞が記録されていた。



音声の終わりーー


フローレンはアストリッドに言った。



「お前はよく聖女をやめたら子が欲しいと言っていたなーーそして俺はそれに応えてやる、と言った。

だがそんなの嘘だ。お前に子種をくれてやるなんて100年早いわ」


中絶薬と思われる丸薬を口に放り込む音がする。飲み込ませる水音。

アストリッドには不思議と子供ができなかった。



法廷で音声を聞かせると、その場にいた誰もが凍りついた。


「聖女に子供を授けるのではなかったのかね?」

神殿の監督者だった。


「そのために夜間鍵を開放して、聖女をたちの管理から外せと言ったのは君だったろう…」


フローレンはもはや自由を勝ち取っていたものと確信していたため、額に汗が滲んでいる。




アストリッドと仲間たちは、法廷で勝つための法的整備と、被害者の名誉を回復する世論工作が必要だと悟る。

彼らは慎重に動いた。まずは被害者や目撃者の保護。そのために「女神護衛団」は、夜間の巡回、被害届の代行、医療と支援を行う小さな拠点を立ち上げた。次に、王都の弁護士や良心的な貴族に接触し、証拠を整理して法的手続きに持ち込む。

さらには文書を匿名で流し、真相が隠蔽される危険を減らすためのメディア戦略も行った。アストリッドは聖女としての影響力を、名誉回復のための光に変えた。



一連の動きは、王城の一部に緊張を走らせた。フローレンは最初、力ずくで押し切ろうとした。だが、隠し通せない事実が次々と表面化し、彼の与党筋や交友関係にも不審が生じる。人々の目が変わり始め、かつての擁護者たちが一人、また一人と距離をとった。イザベラもまた、自己保身のために嘘の重ね書きを続ける羽目になり、ついには自分のしたことの重みを真摯に問われる日が来る。



法廷の日、アストリッドは壇上で静かに立った。声は震えなかった。

彼女は自分の経験を物語るのではなく、事実と証拠を示し、誰が何をしたのかを一つずつ明らかにしていった。彼女の話は被害の体験談に終始するのではなく、制度の欠陥と、それを利用して弱者を追いやる者たちのあり方を糾す演説となった。


「被害者を辱め、沈黙させることこそが加害を続ける最良の道具です」


と彼女は言った。


「これからは、私たちがその道具を奪い返します」と。



裁判は混迷を極めたが、決定的な証拠の前にフローレンの立場は崩れ始めた。

眠り粉の出所を示す取引記録、密会を示す手紙、複数の独立した目撃者の証言──それらが一連の虚構を突き崩した。


イザベラもまた、流言を作り広げたことへの責任を問われる場に立たされる。裁きは瞬時のものではなかったが、やがて法は事実を受け入れ、アストリッドの名誉は待遇の一部として回復された。


しかしアストリッドの望みは、個人の勝利だけではなかった。彼女は神殿に戻ることを選ばず、代わりに制度を変える道を選ぶ。


女神護衛団は「フェミニスト・ポリス」として正式な地位を得るための活動を開始した。彼女たちは単に罰を与えることを目標にしなかった。根本的には「被害を未然に防ぐ環境」と「被害者が声を上げやすい手続き」、そして「被害者の尊厳を保つ文化」を作ることを目指した。



この運動はすべての者の支持を得たわけではない。既得権益を守りたい者たち、伝統を盾に現状を続けたい勢力は反発した。

だが、アストリッドは恐れなかった。彼女の周りには、かつて彼女を信じて戦ってくれた四人の士官を筆頭に、多くの支援者が集まっていた。かつての「聖女」としての柔和な微笑みは残るが、その眼差しは変わっていた。

傷ついた者を二度と孤立させないための冷徹な覚悟があった。



年月が流れ、法と文化はじわじわと変わっていく。眠り粉の密売ルートは壊滅し、被害報告のハードルは下がり、神殿の一部は自浄努力を始めた。


フローレンは公の場で責任を取らされ、彼の振る舞いは社会的に裁かれた。イザベラは自らの行いを反省し、告発の傷を癒すためにアストリッドの支援団体での労働を志願することで、少しずつ贖罪への道を歩み始めた。



だが最も重要なのは、アストリッド自身の変化だった。かつて彼女が受けていた「聖女という名の消費」は、彼女が自分の力を取り戻すことで逆に人々を守る盾へと変わった。フェミニスト・ポリスは、ただの復讐集団ではない。厳格な倫理と法のもと、被害の声を聞き、予防と教育に力を入れる公共的な組織になった。



最後の場面で、アストリッドは小さな子供たちの前で話す。かつての自分と同じように、世界の理不尽さに怯えている子たちだ。彼女は優しく、だがはっきりと言葉を届ける。


「あなたの体も尊厳も、誰かの都合で奪われるものではありません。もし誰かがあなたを傷つけようとしたら、私たちはあなたを守ります。私たちは共に、声を上げる術を学び、互いに支え合う術を学びます」


と。



彼女のそばにはカイ、エル、レオン、ミハイルが控え、その表情は安らかだ。彼らの友情は血肉のように強く、共同体の中で新たな規範を作る役割を担っていた。アストリッドの目には、かつての無垢な少女の光と、現実を見据えた強さが同時に宿っていた。

元コスプレーヤーと思われるなろう作家さんにこの事件に関与した人がいたのを見つけて、「眠り粉事件のことを知らずに私のことをあばずれ」のように描いたモデル小説があって「気持ち悪いなあ」と女性陣なら誰でも思ったことを率直に出力しました。

自分の救済のためにも上梓します。


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