Epilogue
あと数日でキアナの誕生日。
キアナの家に来て、初めての。
お祝いに一体何をあげたらいいのか、考えながら外を歩いていたら、若いお姉さん達が話している声が聞こえたきた。
「…じゃあ、来月?」
「うん、そう……」
「おめでとう! 良かったじゃないの。…幸せにね」
どうやらお姉さんの一人が来月結婚するらしい。
そういや、キアナは普段は女の子らしくなくて、危ない事ばっかりしてるけど、花嫁さんを見るのは好きだと言っていた事を思い出す。
数月前にもやっぱり結婚式があって、集落のみんなでお祝いした。
その時言っていたのだ。
『ほら、あの腕飾り。あれは集落の女の人達が一つずつ持っているのを出し合ったものなんだ。「困難があっても負けずに乗り越えられるように」って祈りが込められているんだって』
色とりどりで、柄も様々な腕飾りをつけて、その時の花嫁さんはとても幸せそうに見えた。
それを遠目にうっとりと眺めながら、キアナが小さく呟いた。
『…あたしも、あんな風にお祝いしたいなあ』
お祝いされたい、じゃなくて、お祝いしたいと言う辺りがキアナらしかった。
キアナは自分が喜ぶ事も好きだけれど、むしろ周りが喜んでくれる事の方が好きだった。…ただし、当時は悪戯が過ぎて、喜ばれるばかりか怒られてばかりいたけれど。
そういう事情はさておき、祝う為にはまず自分がそういう飾りを持っていなくてはならない。
まだ子供のキアナは当然そんな物を持ってはおらず、女性達のお祝いに参加は出来ないのだ。
年頃になれば、自分で作ったり── あるいは贈られたりするのだろうけれど。
そこで思い浮かんだ。
そうだ、キアナに首飾りを作ってあげよう。そうしたら、来月のお祝いにキアナも参加出来るし、きっと喜んでくれる。
キアナのお日様のような笑顔が思い浮かんで、これは何としてでも作らなければという気持ちになった。
── が。
すぐに気付く。材料を何処から持ってこればいいのか、という事を。
(どうしよう)
木切れなんて簡単に手に入らない。
今これから家を建てる人だっているはずもない。折角いい考えが思い浮かんだのに── と思ったその時だ。
ふと閃いた。
そうだ。ないのなら『作り出せ』ばいい!
一気に心が湧き立った。そのまま村の外れの人気のない場所まで小走りで移動して、手頃な場所を見つける。
地面が露出していて、あまり乾燥していない場所。同時にこれから起こる事を他の誰にも見咎められない場所を。
やがて見つけたその場所に、そっと手を伸ばした。
一度だけ周囲を見回す。…誰もいない。
よし、と一度だけ頷くと呼吸を整えて剥き出しの地面に触れた。
それから長い時間、ずっとそこに手をかざし続け── やがて何もなかったはずの場所に亀裂が入った。その亀裂は徐々に広まり──やがてそこから、薄茶色を帯びた何かが顔を出す。
…それは木の根っこに似ていた。
「…はあ」
思った以上に時間も力も必要になってしまって、思わずため息をつく。
けれどもまだまだ本番はこれからだ。
必要なのはほんの少しの量。顔を出したそれに触れ、その成長速度を高める。するとその薄茶色のものは、たちまちしっかりとした木肌を見せた。
「…出来た」
それは特に力を込めなくても、成長した部分だけぽろりと落ちた。
後はこれを細かく切って削って磨いて色をつけ、穴を開けなくては。やる事は山積みで、それでもそれらの作業一つ一つが楽しい事に思えてならなかった。
…こんな気持ちを抱いたのは生まれて初めてだった。
誰かの為に、誰かに喜んで貰う為に何かしたいという気持ち。これはきっと、キアナの影響に違いない。
キアナの── 初めて得た『家族』の。
それは決して不快ではなくて、むしろ幸福で。何故か泣きたくなる。
「…キアナが探しに来ないうちに、戻らなくちゃ」
手に入れた木の欠片を懐に隠して立ち上がる。
…帰る場所があるという事の幸せをかみ締めながら。
誕生日までに間に合わないかもしれないけれど、完成したら渡そう。
── ありがとう、と大好き、という気持ちを込めて。
+ + +
光。
それから水。
そしてほんの僅かなあなた達からの愛情。
わたしはそれで、生きてゆける。
たとえ君がこの地上からいなくなって、覚えていてくれる人が一人もいなくなってしまっても──。
ずっと見守っている。
君が生きたこの場所を──。
最後まで読んで下さいましてありがとうございました(^‐^)
こちらの作品も若干古く、実質足掛け2年かかって書いたものだったりします。
元々、この物語のプロット自体はさらに古く、わたしが高校時代に考えたものがベースになっています。
テーマは「共生」。
ただし、言葉の意味どおりの生活形態だけではなくて「一緒に生きてゆく」という意味もあります。
宇宙を旅して惑星に根付く植物。
芽吹くにはその星に住む生き物の協力が必須で共生する事でしか生きてゆけない存在……。
そんな設定考えたはいいのですが、当時のわたしの文章力ではとても満足の行くものが書けなかったのです。
過去のわたしと現在(といっても五年以上前ですが)のわたしの合作とも言えます。
まだまだ稚拙ではありますが、この物語がどなたかの心に残れば幸いです。