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17話 星祭り

 村に着いてからの両親との会話の流れも同じで、私達は記憶をなぞるように星祭りまでの日々を過ごした。

 そして、星祭りの当日。

 会場に私が設置したライトの魔法は、あの時と同じく柔らかな星屑の光を時折きらきらと漂わせていた。

 その幻想的な光景に、誰もが見惚れている。

 この後だったかしら……と私は思いを巡らせる。

「警戒の必要は無さそうだな」

 傍らに立つオルカが口を開く。

 村の入口の方を確認してみるけれど、祭りに訪れる客はちらほら居れど、王国軍の姿はどこにも無かった。

「そうね。良かったわ」

 答える私の手をオルカが取る。彼の温かい手から優しさが伝わってくる。

「祭り、見て回ろうか」

 優しく微笑む彼に、私も微笑み返す。

「ええ。行きましょう」

 私達は並んで手を繋ぎながら、広場で行われている出し物や屋台を見て回った。

『ねえシン……やっぱりライさんが捻れのきっかけだったのね』

『そうかもな。お前が積極的に動いた事で世界の流れが変わった。そのうちまた王国軍からの接触はあるだろうがこの村が巻き込まれる事は無いだろう』

 彼の言葉を聞きながら、私はふと、前に降りた別の世界の事を思い出す。

 ゲームの中で本気でぶつかり合った、あの記憶を。

 もしかしてシンはそれを現実世界でやろうとしているのではないかと。

 横で氷菓子を口へ運ぶオルカを見ながら、私は恐る恐る尋ねた。

「……ねえオルカ。もしかして私、これからもこの世界に介入していった方が良いの?」

「ん?気付いたか」

 いたずらっぽく笑うオルカ。

 点と点が線で繋がってしまった。

「何か問題が起きたら対処すればいい、それだけだよ」

 そう言いながら、彼は私の頭を優しく撫でる。

「穏やかに暮らしたいし、暴れたいんだろ?ならそうすればいい。その為に用意した世界だ」

 ちなみに、とオルカは私の耳元に顔を寄せる。

「お前が王都を滅ぼした記憶は奴等の中に何か分からないけど恐ろしいものとして残ってる」

 小声でとんでもない事を知らされる。

 あの流れも無駄ではなかったのね……。その辺りは多分、オルカの遊び心なのだろう。

「だから今後俺達への接触の仕方は変えてくるだろうな」

 再び氷菓子を口に運ぶオルカ。

 私もその横で果実飴を齧る。

 きらきらと幻想的な光が降り注ぐ中、穏やかな星祭りの時間はあっという間に過ぎていった。


 翌日、祭りの後片付けを私達は手伝う。会場の飾りつけの布を綺麗に折り畳み、係の人に渡した。

 オルカも私の隣で同じ作業をしている。

 会場を幻想的な光で彩ったライトの魔法は祭りの終わりと共に少しずつ消えていくという演出もした。

「キリエちゃん、助かったよ。君の魔法のおかげでとても良い祭りになった」

 実行代表さんから直々に労いの言葉をいただく。

「いえ、こちらこそ、お手伝いさせていただけて光栄です」

 星祭りはこの村では一番力を入れているお祭り。だからこそ、少し誇らしさもあった。

 けれど、この先毎年は帰れないだろう。このまま、今年だけの盛り上がりで彼等は満足できるだろうかと私は考える。

「来年もまたお願いしたいところだけど、君達も学校の勉強で忙しいだろう。こちらはこちらでまた例年通りやるから、気にせず、ね」

 私の心配は杞憂だったようだ。代表さんのその言葉を聞いて、安心した。

「ありがとうございます。俺もキリエも多分そう頻繁には帰ってこれないので、そう言っていただけると俺達も気が楽です」

 オルカもにこやかに、代表さんの言葉に答えた。

 そうして祭りの後片付けも終わり、学院に戻るまでの残り数日も、何事もなく過ぎ去った。


「キリエ、これお弁当」

 出発前、母は私にサンドイッチを詰めたお弁当箱を包んで渡してくれた。

「ありがとう、お母さん」

「オルカ君も居るから心配ないと思うが気を付けて行くんだよ」

 父も、別れを惜しむように私に言葉をかける。

「うん。お父さんもありがとう。気を付けて行ってくるね」

 家の扉の前でのやり取りをしていると、向かいのオルカの家から彼も出てきた。

 オルカのご両親と、私の両親と、他村の数名の人達に見送られながら、私達は学院に戻る道を歩き始めた。

「あっという間だったね」

 村から少し離れたところで、オルカに声をかける。

「そうだな」

 オルカの声は今日も優しい。

 しばらく歩いていると、道の脇の林からガサッという音が聞こえる。あのモンスターがいた林だ。

 そちらを見ると、予想通りあのモンスターが顔を覗かせている。

『どうした?』

 オルカがまたモンスターに語り掛ける。

『腹ガ減ッテイル。何カ食ウモノクレ』

『ちょっと待ってな……』

 オルカは鞄の中からお弁当の包みを取り出し、中のたまごサンドを差し出す。

 モンスターは近寄ってくると、差し出されたサンドイッチの匂いを嗅ぎ、食べ始めた。

『ウマイ。アリガト』

 私も、自分のお弁当の包みを開けて、ハムサンドを差し出してみる。

 オルカのを食べ終えたモンスターは、私の差し出したものも匂いを嗅いで食べ始める。

『ウマイ。アリガト』

 私達がもう一つずつモンスターに食べさせると、彼は満足したように口の周りを舐めた。

『アリガト。ウマカッタ。コレヤル』

 そう言って首元の毛を探ると、赤と青の宝石の原石を差し出してきた。

『ありがとう、綺麗ね』

 日の光を受けてきらきらと輝くそれは掌の上に乗るくらいの大きさで、かすかに魔力を放つものだった。

 私は赤の宝石を受け取り、オルカは青の宝石を受け取る。

『アリガト』

 そう言い残すと、モンスターは林の中へと去っていった。

 私達は宝石を少し眺めた後に鞄にしまうと、また学院への道を歩き始めた。

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