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13話 出発

「おかえりなさい、準備はもう良い?」

「はい。大丈夫です」

「それじゃあ連絡しちゃうわね」

 先生は再度マジックレターを飛ばす。

「はいこれ、招待状。一緒に校門まで行きましょうか」

 先生から招待状を受け取り、ポケットに学生証がある事をしっかりと確認する。


 イレーネ先生と一緒に外へ出る。

 校門前には既に馬車が停められていて、そこにはあの星祭りの時と同じく、かっちりとした鎧に身を包んだ王国騎士隊の数名の姿があった。

 彼等は姿勢正しく立ち、私達の姿を認めると、一人の騎士が恭しく前に進み出た。


「ヴィルトゥス魔法学院よりお預かりいたします、キリエ・オランジュ殿でいらっしゃいますか?」

 そう問いかけてきたのは、隊長らしき風格を備えた、引き締まった顔立ちの男性騎士だった。彼の声には一切の感情が読み取れず、ただ任務を遂行する固い意思だけが感じられる。

 イレーネ先生が前に出て、軽く頭を下げる。

「はい。この子がキリエ・オランジュです。皆様、遠路はるばるお越しいただき、恐縮です」

「いえ。王命ですので。キリエ殿、この度はお迎えに参上いたしました。我らが隊長、ゼルビスが面談の場所までご案内申し上げます」

 ゼルビスと名乗った隊長さんは、私に真っ直ぐな視線を向ける。その瞳に敵意は感じられないけれど、同時に親愛の情もない。ただ、私を「対象」として見定めているのが分かった。

 私は静かに一歩進み出た。

「お迎えいただき、ありがとうございます」

 出来る限り礼儀正しく答える。

 私の様子を見て、ゼルビスさんは微かに頷いた。

「面談の時刻は厳守せねばなりません。早速ですが、馬車へご案内してもよろしいでしょうか」

「はい、問題ございません」

 私が答えると、イレーネ先生が心配そうに私に視線を向けた。

「キリエさん、気をつけてね。何か困った事があれば、すぐに学院に連絡をしてね。私や学院長先生が、すぐに駆けつけますからね」

 先生の言葉には、偽りのない温かい気遣いが滲んでいた。

 「はい。ありがとうございます、先生」

 私は小さく微笑み、先生に頷きで返した。

 ゼルビスさんが馬車の扉を開く。中には簡素ながらも清潔な座席が見えた。

「では、キリエ殿。ご搭乗を」

「はい。失礼します」

 私は一礼し、馬車の中へと足を踏み入れた。

 教室の方からオルカの視線がこちらへ向けられているのを感じる。少しだけそちらを見て、私は座席に座った。

 ゼルビスさんが私に続いて乗り込み、もう一名の騎士が御者席に座った。他の騎士の人達は馬車の周りに配置につき、馬車はゆっくりと学院の校門を後にする。


 馬車の中は、微かな香木の匂いがした。揺れは少なくて、乗り心地は悪くない。

 窓の外では見慣れた学院の景色が遠ざかり、やがて緑豊かな森へと変わっていく。

 しばらくの沈黙の後、ゼルビスさんは口を開いた。

「キリエ殿。突然のご案内となり、さぞ驚かれたことと存じます」

 その言葉は、配慮を装ってはいるものの、どこか形式的な響きがあった。

「いえ。お気遣いいただきありがとうございます」

 私は、ごく一般的な学院生としての礼儀をもって返答する。

「学院での生活には、もう慣れられましたかな。我々が常駐しております王都の魔導院は、王国における魔法の要にございます」

 ゼルビスさんの言葉に、聞きなれない単語が含まれる。

 魔導院。初めて聞く言葉だわ。学院とは別の、魔法に関する重要な場所があるということなのか。

「魔導院、ですか?」

 素直に疑問を口にする。ゼルビスさんは、その問いに表情一つ変えず答えた。

「さようでございます。王国の全ての魔法に関する研究、教育、そして軍における魔導師の統括を行う機関でございます。キリエ殿の面談も、その魔導院にて行われます」

「そうなのですね。存じ上げませんでした」

 なるほど。そういえば教科書として使っている魔導書の表紙に王国魔導院が作ってるみたいな事が書かれていたような……。

「あ。学院での生活にはもう慣れました」

 私がそう言うと、ゼルビスさんは僅かに顎を引いた。

「ほう。それは結構なことです」

 そして続けて、

「キリエ殿の魔法の才は、すでに学院でも噂に上るほどと伺っております。特に、その尋常ならざる魔力……いかがでございますか、制御は」

 核心に触れてきた。この質問が来ることは予想していた。

「時折、少しだけ制御に難しさを感じる事はありますけれど、先生方のご指導のおかげで、以前よりはだいぶ……」

 曖昧に濁しながら、不安げな表情を装う。多分これが、彼らにとって最も好都合な私の「弱点」であり、引き込む口実となるだろう。

 けれど実際、制御問題についてはそうでもない。最初の世界で中間試験でのファイアーボルトと、星祭りでのライトは私の思う限り完璧に制御した上での魔法の行使だった。

「さようでございますか。しかし、ご安心ください。王国軍魔導師部隊には、貴殿のような稀有な才を最大限に引き出し、かつ安全に制御するための高度な理論と実践がございます。我々は、貴殿の力を王国のため、そして貴殿自身の更なる高みのため、必ずや役立ててみせる所存にございます」

 ゼルビスさんの言葉には、確固たる自信と、有無を言わせぬ響きがあった。彼等は、私の力が制御困難であると見ており、それを「導いてやる」という上からの視線を持っている。それは、星祭りの時に彼等が私とオルカを捕獲しようとした時と同じ傲慢な気配だった。

 彼等は私を自分達の道具に出来るとでも思っているのだろう。

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