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12話 選択

 キリエ達が学院長室で眠りについた頃、レイラは『元の場所』で目を覚ました。

 何もなく真っ暗な空間、傍らには配偶神であるシンの姿。

「お前、もしもの可能性を考えてただろ」

「星祭りの時のこと……?」

 抑揚のない声でレイラは確認の問いかけをする。

 シンは何も言わない。

「……そうね……もしも……軍の人がこなくて……無事に星祭りを終えられていたらと考えていたわ……」

 キリエになったレイラが学院長室で考えていたこと。

「なら、そうなるようにすれば良い。今までキリエとオルカとして暮らした世界はそのまま残してある。お前が試したい選択をして流れを変えてみせろ」

 選択をする場面……例えば、軍の招待を受けていたらあの強引な勧誘は無かった筈。

「そうね……軍の招待状を受け取ったところかしら……」

「なるほどな。試すか?」

「そうしてみるわ……」

 レイラの意思を確認すると、シンはレイラの体を抱き寄せ、唇を重ねた。

 再びレイラの意識は夢の中へ、世界の中へと深く深く落ちていく。

 …………。


--------


 少しぼんやりとした意識から回復して、職員室のイレーネ先生の前で私は手元の招待状をじっと見つめた。

 王国軍魔導士部隊からの招待状。

 

拝啓

ヴィルトゥス魔法学院 生徒 キリエ・オランジュ殿

謹啓

時下益々ご清栄のこととお慶び申し上げます。

さて、この度、貴殿が卓越した魔法の才能を秘めておられるとの情報に接し、厳正な審査の結果、我が王国軍魔導師部隊へのご招待を決定いたしましたことを、謹んでお知らせ申し上げます。

貴殿の特筆すべきは、その内包する計り知れない魔力とその奔放な発現にございます。これは、時に制御の難しさを伴うかと存じますが、我々はこの稀有な才が、王国に計り知れない貢献をもたらす可能性を秘めていると確信しております。

我が魔導師部隊は、王国の平和と秩序を守るため、日夜研鑽を重ねております。貴殿のような可能性を秘めた若き才能を迎え入れることは、部隊の強化はもとより、貴殿自身の更なる高みへの成長にも繋がると確信しております。我々の持つ高度な魔法理論、実践的な訓練、そして多様な魔導師との交流は、貴殿の魔力制御の課題克服にも大いに役立つことと存じます。

つきましては、下記日程にて面談の機会を設けたく、ご多忙の折とは存じますが、ご返信賜りますようお願い申し上げます。

王国の未来のため、貴殿の英断を心よりお待ち申し上げております。

敬具


 文面はあの時と変わらない。

 先程の、イレーネ先生の言葉を思い返す。学院の優秀な生徒の話はどうしても軍の耳に入ってしまう。いずれにしろ、私とオルカが軍から目を付けられるのは変わらないということ。

「先生、私……。この招待お受けしてみようと思います」

「本当?よく考えてね。軍の魔導師部隊に入ったらなかなか学院には戻ってこられないと思うわ。でもそうね、キリエさんなら専門の魔導師さんからより高度な魔法を学んだ方が将来役に立つかもしれないものね」

「はい。この面談の日程って明後日ですよね。王都まではどれくらいかかりますか?」

「キリエさん一人で行かせるのは危ないから先生が連絡しておくわ。ここからだと馬車を使えば半日程よ。……本当に良いのね?」

 先生からの念押しの確認に、私は静かに頷いた。

「わかりました。ちょっと待っていてね」

 先生は招待状を受け取った生徒が面談を受けに行くという内容のマジックレターを王国軍宛に飛ばす。

 程なくして、返答のマジックレターがイレーネ先生の前に現れる。光る紙の内容に目を通したイレーネ先生は、私の方を見て微笑んだ。

「王国騎士隊の方が迎えに来てくださるそうよ。馬車と一緒に転移魔法でこちらに来るからすぐにでも出られるそうだけれど、どうしますか?」

 招待状にもう一度目を通す。持ち物として持って来るものは学生証とこの招待状だけあれば良いらしい。

「ちょっとクラスの子に挨拶してきて良いですか?もしかしたら、面談を受けてそのままあちらに……って事もありそうなので」

「そうね。キリエさんも仲の良い子と離れるのは不安だものね」

「はい。そうしたら準備をしてまた職員室に戻ってきます」

「わかったわ。待ってるいるわね」

 私は一度招待状をイレーネ先生に渡すと、一礼をして職員室から出た。


 教室へ向かうと、ライとオルカが心配そうに私を出迎えた。

「先生、何だって?」

 オルカが先に声をかけてくる。

「王国軍の魔導師部隊から招待状が来たの。それで……面談を受けてみようかと思って」

「えっ。キリエ行っちゃうの?」

 寂しそうな顔をするライ。

「面談の結果がどうなるか分からないけれどね」

 私が言うと、オルカは私の目をじっと見た。

「そう、か……寂しくなるな」

 シンはテレパシーを送ってくるかと思ったけれど今回はまだ何も言ってこない。

 私がどう動くかを見守っているのだと思う。

「まあまだずっと向こうにいるって決まったわけではないから」

 そう言いながらも、面談の結果は魔導師隊への加入に決まってしまうだろうという予想は出来る。

「面談は明後日なんだけど、この後王都に向かう事になってるわ。だから出発前に二人に伝えておこうと思って」

「もう行くんだね。気を付けて行ってきてね」

「ああ。相手がどんな人達か分からないけど、しっかりな」

「うん。ありがとう」

 二人共に見送られ、私は念のために鞄に授業で使う魔導書とノートを入れて教室を出、職員室に戻った。

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