第91話
【アイセ】Ideal self online part2189【アイディアルセルフオンライン】
218名前:理想の自分
妖華結構雰囲気いいな。妖の文字がついてるからちょっと身構えてたわ
219名前:理想の自分
お前らペットテイムできた?
220名前:理想の自分
できん
221名前:理想の自分
そこら辺のたぬきテイムした。もふもふしててめっちゃかわいい
222名前:理想の自分
俺はクエスト進めたらテイムできたなぁ
223名前:理想の自分
まずテイムに必要なアイテム持ってないんだが
ゴンドラレースで負けたやつはどうやって入手すればいいんだ
224名前:理想の自分
>>223
アイテムもらえるクエストあるぞ。探してみ
225名前:理想の自分
>>224
探してみじゃなくて教えろ
226名前:理想の自分
>>225
知りたいか? 教えてやるマニー払え
227名前:理想の自分
>>226
4ね
228名前:理想の自分
鬼すげーな。変身すると全ステータスがバカみたいに上がる
229名前:理想の自分
確かに変身すると強いけど見た目がなぁ。ちょっとグロいわ
230名前:理想の自分
>>229
クエスト進めるとある程度変身後の容姿をいじれるようになるぞ
231名前:理想の自分
鬼化中に受けるスリップダメージエグくね? あれのせいで無敵感がない
232名前:理想の自分
デメリットがないと面白くないだろ。人間側に勝ち目なくなるじゃん
233名前:理想の自分
お前ら次のイベントどっちにつく?
俺は鬼。やっぱ超ステータスでなぐれるの爽快感あるわ
234名前:理想の自分
報酬勝った側にしか配られないって聞くしなぁ
過激派と鬼が屈託してるみたいだし人間側につく意味ねーわ
235名前:理想の自分
例のくノ一発見した
001.jpg
236名前:理想の自分
スレの流れ折るなよ
てか隠し撮りとか趣味わりーな
237名前:理想の自分
ここ妖華の茶屋だよな。くノ一何食ってんだ?
238名前:理想の自分
焼き魚に見えるな
239名前:理想の自分
ナユの塩焼きだよこれ
しっかしおいしそうに食べるなこの子
240名前:理想の自分
こんないい笑顔で食べられたらナユもうれしいだろうな
ナユになりたい人生だった
241名前:理想の自分
この子にナユの塩焼きおごってあげたい。そんでずっと俺のとなりで食べててほしい
243名前:理想の自分
>>242
俺が食べてやるからID教えろ
244名前:理想の自分
ナユの塩焼きってそんなにうまいのかなぁ。今度俺も食べてみるか
今日もアイセにログインした。
妖華の街に転移すると茶屋の前がにぎわっていた。何か特別メニューでも解禁されたのかもしれない。
新メニューは気になるけど今は優先すべきことがある。
小夜さんからの呼び出しだ。何でも鬼の頭領が隠れ潜む場所を突き止めたらしい。
それにしても私のペットはどこにいるんだろう。
フレンド三人はクエストを進めてテイムした。ペット候補はクエストのイベントに出ているはずだ。
候補って言うとにゃん丸かな。
あるいは斎さん。小夜さんなんてことも。
ないか。
よくよく考えると人をペットって何? 思考が変な方向にねじれている。
冷静になって小夜さんと合流した。
小夜さんに案内されたのは森深くにある洞窟。地下に広々とした空間を掘って潜んでいたようだ。
「ヒナタはここで待っていてくれ」
「一人じゃ危険ですよ」
「ここから先は鬼がひしめいている。さすがにつれてはいけない」
「大丈夫です。私が本当の意味で命を落とすことはありませんから」
アイテムはドロップしちゃうけど小夜さんが消えるよりはましだ。何度か具合悪そうにしていたし一人で行かせたくない。
「確かに冒険者は復活すると聞くが、ヒナタは忍術を会得していないのだろう?」
「それでも囮にはなれます。何かあったら私が鬼を引きつけますから小夜さんは先に脱出してください」
「とんでもないことを言うなヒナタは。とはいえ、そこまでの覚悟があるなら話は別だ。サポートを頼めるか?」
「はい。任せてください」
二人での潜入が決まって早速化粧を施す。
鬼は恐怖や嫌悪を駆り立てる様相をしている。
中には人間よりの容姿を持つ鬼もいるらしい。そういった個体は強く賢しい。小夜さんでも一対一では分が悪いのだとか。
よって今回の潜入では戦闘を極力避ける。化粧で鬼になり切って敵の頭領を探し、可能なら暗殺するのが目的だ。
「よし、行くぞ」
「はい」
小夜さんの背中に続いて洞窟内に踏み入った。進んだ先で小夜さんが地面を剥がす。
よくよく見るとそれは地面を模した板だった。私は板と地面の隙間をのぞき込んで、目を見張る。
あった。
広場なんてものじゃない。立派な街が地下空間に広がっていた。ところどころに配置された火やカラフルな人魂が薄暗い空間を彩っている。
岩から掘り出したような建物の間を鬼が闊歩している。
一体や二体じゃない。ざっと見ても百はいる。
意図せず足がすくむ。
「やっぱり外で待っているか?」
「いえ、行きます」
意を決して岩の階段を下る。
何かの作業音が響き渡る。
音のする方向に視線を下ろすと、鬼がハンマーで紅い物体を打ち鳴らす。
鍛冶だ。
熱した金属に圧力をかけて形を整える技術。知識や技能のない化け物じゃ実行できない叡智の結晶。彼らが元人間なんだと否応なしに理解させられる。
「武器を作ってるな。我らとの戦争に備えてのことか」
「怖いですね」
「ああ。クマが装備を整えるようなものだからな」
遠くに天守閣じみた大きな建築物がある。鬼の頭領がいるとすればあの建物かな。
平らな地面にブーツの裏をつける。
視線にまとわりつかれて、左胸の奧がバクバクと鳴り響く。
ばれたらどうしよう。
化粧で見た目は鬼にしたけど、人間だと知られたら周りの鬼がいっせいに襲いかかってくる。無事に小夜さんを逃がせるかな。
「大丈夫だ。私がついている」
そうじゃない。
でも心配してくれたのはうれしいから「はい」と返した。
本丸門の前まで来た。
門の右隅に待機していた鬼が一歩踏み出す。
「おいなんだお前ら。ここから先には許可がないと入れねえぞ」
許可がいるの⁉
どうしよう。小夜さんだって謁見の許可を得てるわけない。
もう一人の門番があわてた様子で駆け寄る。
「ば、ばかお前! 二人の姿を見ろ!」
「見たけど何だよ」
「鬼になっても容姿がくずれないのは強い力を持ってる証拠だ。お前なんか八つ裂きにされるぞ!」
あわてた方が片方の頭をわしづかんで下げさせた。
抗議する相方をよそにもう片方も頭を下げる。
「すみませんこいつ新入りなんです! 処刑は勘弁してくだせえ!」
よく分からないけど門番を許して事なきを得た。
開かれた門の向こう側に足を踏み入れて本丸を目指す。
「鬼も組織化されてるんですね」
「腐っても元人間ということだな。獣でも上下関係がある。おかしなことではないよ」
あの門番のおびえようを見るに、階級の高い鬼は斬り捨て御免に似た特権を有しているに違いない。人間だった名残が感じられてちょっと複雑だ。
本丸に踏み入って階段を探す。
建物内にも鬼がはびこっている。中には武器や防具を身に着けた個体も見られる。
階段をのぼって上の階層を目指す。
「小夜さん、この数相手に逃げ切るのは難しいと思います。今回は偵察にとどめた方がいいんじゃないでしょうか」
「だめだ。ここで頭を討つ」
「頭領を暗殺できても階段をふさがれたら逃げられません」
「私には時間がないんだ」
「それってどういう」
正面から迫る人影を見つけて口を閉じる。
迫る人型の顔を見て目を見張る。
ほっそりとした長身、どこか人を小ばかにしたような表情。
アーケンだ。
顔を目の当たりにするのはゼルニーオと戦った時以来だけど、あのにくたらしい顔は見間違いようがない。まさかこんなところに潜んでいたなんて。
目が合いそうになってとっさに視線を外す。
こんな状況で動いたら小夜さんの身を危険にさらす。捕縛したいけど今は見送るしかない。
そっと視線をアーケンのとなりに振る。
ニヤついたアーケンとは対照的な無表情。凍てついた鋼を思わせる雰囲気の男性に三角アイコンはない。おそらくはプレイヤーだ。
どうしてアーケンと行動をともにしているんだろう。全体のストーリーはプレイヤー共通じゃないのかな。
男性と視線が交差する。
双眸が見開かれた。口の端がつり上がってとがった牙をのぞかせる。
「見つけた」
獰猛な笑みが空気を一変させる。
そのつぶやきは喜悦と憎悪にぬれていた。




