第9話
「できた!」
バーバラさんが完成品を見せびらかすように掲げる。
『バシュ・ネ・モフィラ*』
AGI +10
まず武器の見た目が全然違う。木から削り出したような不出来さはどこにも見られない。
武器なのに芸術品みたいだ。黒い本体もあいまって白いゴム部分が光って見える。花を模した紫の装飾が何ともかわいらしい。
「我ながらいいできよ。どうぞ」
「ありがとうございます」
生まれ変わった武器を受け取る。
「この武器には片手保持用補助装具がついてるんですね」
「そうみたいね。ハムシュターの投実器を強化したのは初めてだったから私も驚いたわ」
左腕に試着する。
腕を振ってもくるりと回転しない。
腕を伸ばしてみると照準器のような突起がある。伸ばした糸を引っかける箇所も見て取れる。
「こんな機能今まではなかったのに」
「一部の武器は強化すると使い勝手が変わるらしいわよ。ところでヒナタさんはイベントに参加するの?」
「イベント?」
「あれ、知らない? 土曜日あるイベントのことよ。一時的にプレイヤーのレベルがリセットされて、ポイント集めで一位を競うの」
「知りませんでした。そんなものがあるんですね」
レベルがリセットされるなら初心者の私でもチャンスがある。
挑戦するだけならタダだし、出場してみようかな。
「武器強化ありがとうございました。早速試し撃ちしてきます」
「初期装備に見えるけど防具はいいの?」
「はい。今はいいです」
倉庫にお金を預けていたのか、プレイヤーキラーから取り上げたお金は大した金額じゃなかった。
高価な装備を整える余裕はない。イベントまでに店売り防具でも購入しよう。
バーバラさんがニヤッと笑んだ。
「自信家なのねぇ。さすがメタルこんこん」
思わず目をぱちくりさせる。
「メタルこんこん?」
「銀色のキツネ面をかぶって、スリングショットでプレイヤーキラーを返り討ちにする謎の女子プレイヤー。ゲーム内の掲示板でうわさになってるわよ?」
「そうなんですか⁉」
知らなかった。ゲーム内にそんな物があったなんて。
でも何でメタル? あの仮面は鉄製じゃないのに。
「その驚きよう、本当にあなたがメタルこんこんなの?」
「え、確信があって聞いたんじゃないんですか?」
「確信まではしてなかったわ。女の子がスリングショット持ってきて、すごくAGIに特化したビルディングしてるからカマをかけてみただけ」
やっちゃった。そう思って額に手を当てる。
まだごまかしようがあったのに、これじゃ自白したようなものだ。
「そんな深刻そうな顔しないでよ。別にメタルこんこんの正体を明かそうってわけじゃないんだから」
「内緒にしておいてくれるんですか?」
「ええ。もちろん条件はあるけどね」
バーバラさんがいたずらっぽくウインクする。
私は何を要求されるんだろう。
あんまり無茶なことじゃないといいなぁ。