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走るのが好きなのでAGIに全振りしました  作者: 藍色黄色


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第87話


 にゃん丸につれて行かれた先にはほこらがあった。


 苔だらけで長らく人の手が入っていないことがうかがえる。


 にゃん丸が短い手で祠のとびらを開け放った。左右に分かれたとびらがうごめく紫をのぞかせる。


 小さな体が不吉な雰囲気ただよう空間に消える。


「この中に飛び込むの……」


 行かなきゃ始まらない。私は意を決して紫の渦に飛び込んだ。


 視界内が紫に染まったのは一瞬。他の色が戻って和の様相をかもし出す。


 そこに美はない。やなぎを思わせる枝葉が深く垂れて、おどろおどろしい雰囲気をかもし出している。

 

 薄暗い林の中を抜けると村があった。


 宙は赤や青の人魂で彩られている。妖怪らしい異形がのんびりと怠惰をむさぼっている。


 飾り気がないのに絢爛けんらん。これぞ妖怪の生きざまと言わんばかりだ。


 にゃん丸が深く空気を吸い込む。


「おーい人間をつれてきたぞーっ!」


 え、何で?


 どうして?


 戸惑いの声があっちこっちで連続する。


「歓迎されてないなぁ私」


 つぶやいて顔に微笑を貼りつけた。声を張り上げて妖怪にあいさつの声を響かせる。


 妖怪がぞろぞろと腰を浮かせる。


「かわいい人間だなぁ」

「驚かせたら極上の感情が吸えそうだぁ」


 自然と左足が後ろにずれる。


 え、もしかしてこれまずい?


 にゃん丸が前に出た。


「こらこらおどかしてどうすんだ! この人間はオラっちたちに友好的なんだぞ!」


 かばってくれるのは嬉しいけど、にゃん丸も私を驚かしたよね?

 

 わいたつっこみは心の内に秘めた。

 

「友好的? それは本当か」

「本当だよ。現にオラっちは殺されてないだろ」

「確かに」

「にゃん丸が生きのびたって相当だな」

「くそざこなにゃん丸だもんなぁ」

「こら! 誰がくそざこだ!」


 丸っこいねこがぴょんぴょん跳ねて抗議する。


 空間が笑い声でにぎわった。


 どこか人間的な振る舞いを前に内心ほっとする。


「んじゃこっちの派閥として戦ってくれんだな」

「派閥?」


 一瞬空気が凍りついた。


 にゃん丸に妖怪の視線が殺到する。


「にゃん丸! お前何も知らない子つれてきてどうすんだ!」

「うひぃ!? ごめんよぉ!」


 妖怪が非難の声を上げる中、二足歩行の犬がとてとてと迫る。


「今過激派と穏便派に分かれて抗争してるんだ。にゃん丸は君に戦ってほしくてここに招いたんだよ」

「どうして抗争してるの?」

「妖怪のこれからを決めるためさ。ヒナタは鬼を知ってる?」

「知ってる。一度襲われたよ」

「それなら話は早い。鬼は人間より暴力の面で優れてる。だから手を組んで人間を支配しようって話が出たんだ。早い話が人間家畜化計画だね」

「家畜化!?」


 とんでもない話が出てきた。


 鬼は人間が、妖怪は人間の負の感情が大好物と言っていた。人間を家畜にして効率よくご馳走にありつこうってことなんだろうか。


 ひどい。


 鬼が悪辣あくらつなのは知ってたけど、まさかそんなことを企んでいたなんて。


「ぼくたちが負けると人間もひどい目に遭う。共闘は悪い話じゃないと思うんだけどな」

「そうだね。そういうことなら私も戦うよ」


 おおっと声が上がった。


「ありがとうヒナタ! んじゃオラっちたちの頭領を紹介するからついてきて!」


 にゃん丸が返事を聞かずに駆け出した。


「待って」


 小さな背中を追いかける。


 走った先には大きな木造の屋敷。にゃん丸がとびらの両隅に立つ妖怪と言葉を交わす。


 妖怪の一体がとびらを開けて中に消える。


 戻ってきた妖怪が謁見えっけんの許可を出した。警備兵の手によって玄関のとびらが開かれる。


 にゃん丸と並んで廊下を歩く。


 通された部屋の奧にはたたみの壇。


 その上にはあぐらをかく巨体があった。


 大きく突き出た口、キレ長の目、そして真っ白な体毛に覆われた体を飾る着物と赤い羽織。

 

 ある意味オヤビンよりも親分している妖怪がいた。


「よく来てくれたな人間の娘。オレ様はさい、穏便派の頭領をやってるもんだ。くノ一のお嬢ちゃん、穏便派に力を貸してくれるっていうのは本当かい?」

「はい」

「激しい戦闘が予想される。お前さんの抱えてる大事なもん、全部ぶちまけられるかもしれねえぜ?」


 それってリスポーン時のドロップのことを言ってるのかな。


 だったら答えは一つだ。


「その覚悟はできてます」

「いい返事だ。しかし戦局は予断を許さねえ。はっきり言って弱いやつに用はねえんだ」

「私の力を試したいってことですね」

「理解が早くて助かるぜ。祠を出てずっと右に行くとでかいイノシシがいる。そいつを討伐して立派な角を取ってきてくれや。そうしたらそうだな、お前さんが隠し持ってる精霊について知ってることを教えてやる」


 思わず目を見張る。


 どうして知ってるの? 小夜さん以外にゼルニーオのことを話してないのに。


 斎さんが人差し指で自身の頭をつつく。


「オレ様格の高い妖怪でな、少しだけなら神通力が使えんのよ」

「それはすごいですね」


 お釈迦様や仏様が持つといわれる超人的な能力。少なくとも小夜さんより強いのは間違いない。


 逆を言えば、そのレベルの妖怪がいても押されるくらい戦力差があるってことだ。


 穏便派と過激派に分かたれて、その上鬼陣営が敵に回っている。考えてみれば戦力差があって当たり前か。


 人と鬼の戦い。私が思っている以上に有利不利がはっきりしているのかもしれない。


「分かりました。イノシシを討って角を取ってきます」

「おう、頼んだぜ」


 私は頭領の屋敷を後にして元来た道を戻る。


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