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走るのが好きなのでAGIに全振りしました  作者: 藍色黄色


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第81話


 たぬきに避けられた。


 その事実が心にずしっとのしかかる。


 ミザリが言葉を尽くしてフォローしてくれたものの、それがまた申しわけなさを助長した。


 ずっと沈んでいるのも私らしくない。


 気を取り直してフィールド探索に努めた。夜道を歩いて採取ポイントやエネミーの種類を確認する。


 あらかた歩き回ってミザリがログアウトした。


 引き続き一人で月光浴をたしなむ。


 ミザリと立ち寄らなかった高所を目指して坂を上った。段差をよじのぼって手を土で汚す。


 道なき道を進んで丘の上に立った。障害物なき景色を視線で薙ぐ。


 下方に広がるのは青々しい草原。点在する暗さを帯びた桜のピンクが目を引く。 


 水にあふれるラティカに目が慣れたせいか、緑広がる景観が目新しく映る。


「日が昇ったらどんなふうに見えるのかな」


 おもむきのある景色を眺めているとここが戦闘エリアなのを忘れそうになる。


 夜の壮観を楽しみ終えた頃だった。視界内に微かな薄紫が付加されてハッとする。


 霧だ。何でこんな急に。


 ぐるっと見渡して、それはあった。


「月?」


 そう見紛う球体が浮いている。


 直径は私より大きいくらい。浮いている分見下ろされて威圧感がある。


 べろんとピンク色の帯が伸びる。


 それは舌だ。


 目や耳、鼻はない。口だけが不気味に開閉を繰り返す。


「何、この化け物」

 

 妖怪。そんなワードが脳裏をよぎる。


 もしかしてこれが?


「アーン」

「ひゃっ⁉」

 

 舌が伸びて反射的に飛びのいた。マシンガンスリンガーの射出口を向けてトリガーに指をかける。


 クナイがすり抜けて目を見開いた。


「何で⁉」


 弾が当たらなかった。


 だったらスキルは? そう思ってパワーショットを放つ。


 これも駄目。当たることなく偽月の向こう側に消えた。


 ダガーに持ち替えても当たらない。


 このエネミーどうやって倒せばいいの?


「霊力を込めろ」


 どこからともなく凛とした声がした。頭上から人影が降り落ちて地面を踏み鳴らす。


 偽物の月がぱっくりと割れた。エネミーが奇声を上げて夜闇に溶ける。


 空間を飾りつける妖しい霧が薄れて消えた。


「えっと、あなたは?」


 人影が短剣を鞘に納めて向き直った。


「私は小夜さや。わけあって単独で任務にあたっている。そなたはどこの里の者だ?」


 さ、里?


 小夜さんが小首をかしげる。


「所属があるだろう。その装いを見るに、そなたもくノ一なのだから」


 くノ一! 


 すごい。妖華にはくノ一がいるんだ!


 サムライさんじゃないけど、ジャパニーズニンジャって叫ぶ気持ちが分かった気がする。


「うっ」


 小夜さんが頭を押さえた。ひざが脱力したように地面に突き立つ。

 

「小夜さん!」


 あわてて駆け寄る。


 さっきの戦闘で怪我を負ったようには見えなかった。着地した時に足でもくじいたんだろうか。


 小夜さんが手をかざした。


「大丈夫だ」


 華奢な体が何事もなく腰を上げた。


「悪いが今日はこれで失礼させてもらう。そなたには話したいことがあるから、明日日が沈んだ後でまたここに来てくれないか?」

「分かりました」

「ではさらばだ」


 小夜さんが地面を蹴った。私より高い背丈がまたたく間に夜闇にまぎれる。


「かっこいい」


 意図せず感嘆の言葉が口をついた。


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