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第8話


 ログインするなり小走りで移動する。


 調べたところ、アリアネの糸は装備強化に必要となるアイテムらしい。


 ハムシュターの投実器(とうじつき)を強化する際にも消費する。


 攻撃力が上がればエネミーの討伐スピードが速まる。浮いた時間を他の作業に当てられる。武器を強化しない手はない。


「そこのお嬢さん」


 呼びかけられて足を止める。


 振り向くと女性と目が合った。作業着姿がハンマーで鉄を打つ光景を想起させる。


「私バーバラ。間違ってたらごめんだけど、装備を強化しようって思ってない?」

「よく分かりましたね。その通りです」

「やっぱり。私も初めて装備を強化する時はウキウキしてたのよねー。そんなあなたに朗報。ここにいる私は鍛冶屋なのです! 今なら安くしちゃうよ?」


 うわ、営業だ。


 わきかけていた親しみの情がすーっと引くのを感じる。


 かろうじて微笑は維持した。


「NPCに作ってもらうので大丈夫です。それじゃ」

「待って! 生き急いではだめ。踏みとどまってよく考えるの」

「大げさですね。武器を作ったくらいで人は死にませんよ?」

「死にはしなくても損はしたくないでしょ?」

「NPCに作らせると損するんですか?」

「そりゃするわよー。NPCに依頼すれば多少は安いけど、生産職のプレイヤーに頼めばボーナスがつくんだから」

「ボーナス?」


 言葉で説明するよりも見た方が速い。


 どこかで聞いたことのある理論を語られて武器屋の中に誘導された。室内の床を踏みしめてバーバラさんの背中に続く。


 バーバラさんが売り物の剣をかざした。


 剣に視点を当てると小さなウィンドウが浮かび上がる。



『ブロンズソード*』

攻撃力 +20

STR +4



 見慣れない攻撃力表記がある。


 ハムシュターの投実器に攻撃力表記はなかった。弾受けにセットする物によってダメージが変わるからだろうか。


「バーバラさん。武器の名前のとなりにある印って何ですか?」

「それは生産職によって作られた証ね。購入したら他のプレイヤーに売れなくなるけど、普通の武器よりも攻撃力や補正値にボーナスがかかるの。こっちが普通のブロンズソードね」


 バーバラさんがもう一本同じ武器をかざす。


『ブロンズソード』

攻撃力 +18



 さっきのブロンズソードよりも性能が低い。


 確かに、プレイヤーとNPCではでき上がる武器の性能に違いがあるみたいだ。


「面白いですね。同じ武器でもここまで違うなんて」

「でしょ? まあこのブロンズソードは大成功した品なんだけどね。必ず役立つ補正値がつくわけじゃないし、その辺りは了承してくれると助かるわ」

「分かりました。武器の作成を依頼してもいいですか?」

「もちろん。あなたは何の武器を使うの?」

「これです」


 ポーチから『ハムシュターの投実器』を実体化させる。


 バーバラさんの表情に苦々しさが混じった。


「スリングショットとは、またしぶい物をチョイスしたねぇ」

「人気ないんですか?」

「ええ。いちいち弾を用意しなきゃいけないし、遠距離攻撃なら見映えする魔法や弓がある。小さいせいかAGIに補正がつくみたいだけど、今のところはAGIに振る理由もないしね」

「なるほど」


 魔法はともかく弓が気になる。射出される矢にも【慣性】が利きそうだ。


 でも走る時は邪魔になりそうだし、スリングショットのままでいいや。


「それでどうする? この武器を強化でいいの?」

「はい。お願いします」

「素材にレア素材のアリアネの糸を要求するけど持ってる?」

「持ってます」

「おーラッキーガールだね。じゃあ作って来るから待ってて。それとも作るところ見学してく?」

「いいんですか?」

「もちろん。というか、実は見てもらった方がこっちとしてはありがたいんだよね。満足いかない結果だと手を抜いたな! って怒る人もいるから」

「生産職も大変なんですね」


 言葉を交わしながら店舗の奧へと足を進める。


 金床かなとこや鍛冶炉など想像通りの内装が広がった。


 バーバラさんの手が私の武器を金床の上に置く。


「まさかとは思いますけどハンマーで叩きませんよね?」

「叩くわよ」

「砕け散りませんか?」

「え?」


 バーバラさんがきょとんとして、愉快気に吹き出した。


「あははっ、砕け散るわけないじゃない。鍛冶は武器種問わずこういうシステムになってんのよ」

「それはまた、ずいぶんリアリティに欠けますね」

「そうね。でもこの手のゲームにリアルを持ち込んだら大変よ? 鍛冶場は真夏よりも熱いし、作業はミリ単位までこだわらなきゃいけないし、道具も繊細な手入れをしなきゃ駄目になる。仕様として実装したら誰も生産職やらなくなるって」

「それは確かに」


 まあ生産職としてはライバルが減ると助かるけどねー。


 そんな軽口を最後に空気が引きしまった。バーバラさんがスリングショットを炉に入れる。


 引き抜かれた武器はオレンジ一色に染め上げられていた。色が戻らない内にハンマーが振り下ろされる。


 適当に打っているわけじゃないようだ。バーバラさんはじっと武器を見すえて、何かを待ってからハンマーを振り下ろしている。


 バーバラさんには、私には見えない何かが見えているんだろうか。


今日も複数話投稿予定です!

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