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走るのが好きなのでAGIに全振りしました  作者: 藍色黄色


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第74話


「よし、まずは前の連中を蹴散らすぞ」

 

 男性の指示にしたがってゴンドラが加速する。


 このイベントにおいてMPは自動で回復する。


 ゴンドラの加速と乱戦で枯渇した今が好機。後ろから接近して前の集団にスリングショットを放つ。


 相手はMPを使い切っている。相手を無力化するのは簡単だった。


 でも楽しくない。私がやりたいレースはこういうのじゃない。


 レースっていうのはもっとこう、熱くて胸が高鳴るもののはずなのに。


 いくつかの船が減速して視界の端に迫る。


 MPが切れて加速はできない。減速してMPを回復する算段だろう。


 態勢が整ったら後方から攻撃してくるのが目に見えている。


「行ってくるね」


 私はダガーに持ち替えて上体をひねる。


 次の瞬間には他のゴンドラに乗っていた。響き渡る雷鳴の音がゴンドラの走行音をかき消す。


「な、なに今の」

「ヒナタすごーい」


 仲間の賛辞を受けて振り向くとゴンドラに乗っていた男性四人が消えていた。


 参加者の多くは魔法職。魔法職は物理耐久が低く設定されている。


 ゴンドラに乗っていた四人組は私の攻撃に耐えられなかったのだろう。

 

「そうだ操縦」


 私は操縦席に腰を下ろしてハンドルを握る。


 サイクロンエッジの発動でMPを使い果たした。しばらくは最後尾を走ることになりそうだ。


 前方からゴンドラが寄ってきた。


「ヒナター迎えにきたよー」

「私はこっちを操縦するよ。もしもの時に備えて予備はあった方がいいと思うから」

「もしもの時って?」

「談合が破棄された時だよ。終盤になったら上位争いが始まる。いざという時に退避先はあった方が便利でしょ?」

「なるほど。ヒナタ頭いいー」


 照れくささを笑ってごまかした。


 ルイナたちと少し距離を空けて並走する。

 

 ライバルもだいぶ減った。


 ゴンドラ同士のぶつかり合いや交戦での脱落が大半。ゴンドラの操作を誤って転覆したのが一部。


 残っている私たちにも起こり得ることだ。慎重に事を進めないと。


「ところで今回のイベント人少なくない?」

「プレイヤー全員が参加するわけじゃないからね。それにいくつかブロックを分けてるみたいだし」

「何千何万もゴンドラ集めたら走るどころじゃないもんね。飛び乗って前のゴンドラ奪った方が速そう」

「それねー」


 冗談を介して笑みを交わす。


 私も笑っていると、視界の隅に杖の先端が映った。


「加速して!」


 告げながら加速の文字をタップした。イルカがゴンドラを引く速度を速める。


 火球が私たちの後方を通り過ぎた。


「うわほんとに来た裏切り!」

「ここからは一位争いだよ。準備はいい?」


 もちろん! 


 元気のいいハモりを耳にしてスリングショットを構える。


 遠距離攻撃の手段はスリングショットを使った射撃のみ。魔法による攻撃と比べると威力に欠ける。


 間にルイナたちのゴンドラが挟まってるから狙いにくい。ここは弾幕を張って牽制に徹するべきか。


 銃と違って弾数はそう多くない。三点バーストに留めて幻惑クナイを連射する。


 当たらない。


 自分も相手も移動している。偏差射撃なんて練習してないし、弾節約のために弾幕も張れない。


 近づいて強襲した方がいいかな。


 距離を詰めるためにMPは必須。ここは後ろでチャンスを待つのみだ。


「沈めアメンボ!」

「撃沈しろカス!」


 私たちをよそに魔法戦が繰り広げられる。


 脱落者が続出する中、二つのゴンドラがルイナたちに迫る。


 一人の男性が身を乗り出した。


「なあ、お前らの仲間にヒナタってくノ一衣装のプレイヤーがいるよな?」

「いるけどそれが何?」

「うちのクランリーダーがあいつに懸賞金をかけてんだ。俺らと組んであいつヤらねえか?」


 何言ってるのあの人たち。というか私に聞こえてるんですけど!


 左胸の奧でバクバクと鼓動が鳴り響く。


 私とルイナたちは今日のイベントが初対面だ。お友達や仲間というほど親しくない。多額のマニーに目がくらむことは十分に考えられる。


 息をのんで成り行きを見守る。


 ルイナたちに裏切られたら私は一人で十一人を相手しなきゃいけない。勝ち目は絶望的だ。


「お断りします。どうせあなたたち裏切るでしょうから」


 どうしよう。


 そう思った時に毅然きぜんと告げたのはルイナだった。他の二人も武器を構える。


 まだ出会って間もない私のために武器を構えてくれた。胸の奥がじんわりと温かみを帯びる。


「そうか、なら交渉決裂だな」


 複数人の詠唱がゴンドラの進行音にまぎれる。


 ルイナたちが障壁を展開した。魔法の連弾が左右から障壁を殴りつける。


 障壁にも耐久力がある。破られたらルイナたちが危ない。


 援護しなきゃ。


「おおーっとくノ一ちゃんはっけーん」

「めっちゃかわいいじゃん。いじめるの心痛むわー」


 バッと振り向くとゴンドラが寄ってきた。四人が杖の先端を向けて呪文を口ずさむ。


 スリングショットで迎撃する時間はない。


 意を決してゴンドラを左旋回させた。ダガーに持ち替えてゴンドラの床を蹴る。


 視界内が魔法で華やかさを増す。


 私はすぐに上体をひねった。


 背後でカランカランと何かが床を打ち鳴らす。

 

「へ?」


 すぐ近くで二人の男性が目をぱちくりさせる。


 MPの量が不足して二人キルし損ねたみたいだ。


「お、おわああああっ⁉」

 

 男性が悲鳴を上げて杖を振り上げた。もう一人がポーチから結晶を砕いて宙をきらめきで飾る。


 それは魔水晶。アーケンが潜んでいた海底洞窟に生えていたものだ。


 イベント中は直接MPを回復するアイテムの使用が禁じられている。


 その一方で自動回復量を上げる魔水晶の持ち込みは許可されている。MPの回復速度を上げて魔法で迎撃する腹積もりに違いない。


「させない!」


 すぐに距離を詰めてダガーで斬りつける。


 杖は刃のない長物。何かを殴りつけるような作りはしていない。


 一方的な攻防で勝利した。


「みんなは⁉」

 

 振り向いた先には一列に並ぶ三艇のゴンドラ。


 ルイナたちが乗っていたゴンドラが紅蓮の揺らめきで埋めつくされていた。


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