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走るのが好きなのでAGIに全振りしました  作者: 藍色黄色


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第68話


 NPCに怪鳥の討伐を報告して目的のアイテムを入手した。


 早速シメアさんのお店におもむいて必要なアイテムを合成してもらった。


 早速インディーシリーズに防具を更新。重ね着で黒霞シリーズの見た目に上書きし、素材とマニーをつぎ込んで最大強化してからログアウトした。


 そして迎えたレイドボス実装当日。


 もどかしい時間を経てログインした先には大勢のアバターが群れていた。


 視界内が埋めつくされるほどの人数。文字通りお祭り騒ぎだ。全員がレイドボス目当てでログインしたのかな。

 

 今日はモンシロたちとレイドボスに挑む約束をしている。


 合流場所はカフェ。静けさを求めて石だたみの地面を歩く。


 進んだ先でもやっぱり人があふれていた。いつになく満席でにぎわっていて合流するどころじゃない。


 私は考えた末にチャットを送った。


 ハウジングスペースで合流しようという提案に賛同が返ってきた。フレンドに招待を送ってハウジングスペースに転移する。


 前来た時よりも走路がぐーっと伸びていた。ずいぶん作業が進んでいるみたいだ。

 

 モグちゃんを見つけて声をかけた。


「あ、ヒナタ。久しぶり」

「久しぶり。この前オヤビンを招待したけど来てないの?」

 

 スペース内を見渡してもあの巨体は見当たらない。


 あんな大きな体、どこにいても隠れて見えないことはないはずだ。


「オヤビンさんは今いそがしいみたいだよ。何でも監視対象に動きがあったとか」

 

 監視対象ってあの木造彫刻のことかな。近い内に戦うことになるのかも。


「そうそう、走路試しに作ってみたんだけど走ってみてくれる?」

「え、あるの走路!」

「うん。ほらあれ」

 

 モグちゃんが丸っこい指を伸ばす。


 指の先では短いながらもオレンジの道が伸びている。白い線も引かれて走路を想起させる様相だ。


「作ったはいいんだけど物足りなくてさ。ちょっと走ってみてくれる?」

「分かった。試しに走ってみるね」

 

 走路に駆け寄ってスタートラインの前に立つ。


 自然と口角が浮き上がった。


 ついにこの日が来た。アイセに来て初めての短距離走だ。


 軽くストレッチをして筋肉をほぐす。道具がないし、クラウチングスタートはまた今度でいいかな。


 腰を落としてゴールラインを見すえる。


 3,2,1。


 スタート!


 全力で地面を蹴った。風の抵抗を突っ切ってひたすら手足を振る。


 すぐに走り終わった。


…………。


 何だろう、この空虚感。


 何か違う。


「どう? ヒナタ」

「うーん、何か物足りないね」


 ブーツの裏を押し返される感触はある。押し返さんと吹く風を突っ切るのもリアルに似通っていた。


 他に何があるかっていうと。


「距離短すぎた?」

「そんなこと」


 ある、かもしれない。


 よくよく考えるとヒナタと日向じゃ身体能力が違う。


 この世界じゃ体力だって無尽蔵。わざとスピードを抑えて体力を温存するとか、陸上にあった駆け引きは一切存在しない。百メートル走っただけじゃ物足りなくて当然だ。


 考えがあまかった。


 現実準拠じゃ駄目だ。アイセに適した形に最適化しないと面白みのない走路になっちゃう。


「おーここがヒナタのハウジングスペースかぁ」


 振り返るとモンシロたちの姿がつけ足されていた。

 

 私は思考を中断して歩み寄る。


「いらっしゃいみんな。どう? 私のハウジングスペース」

「うん、何から何まで想像通り」

「ヒナタは本当に走るの大好きなんデスねー」

「さすがヒナタさんです」


 照れるなぁ。


「せっかくだから走っていく? みんなで」

「AGIに振ったヒナタが有利すぎるでしょ」

「そうなんだよね。何かいいアイデアないかな」

「制限を設ければいいんじゃない。ハウジングレベルを上げると色々いじれるみたいだし」

「そうなの?」


 いいこと聞いちゃった。走路を作ったら終わりだと思ってたけど、思ったより長く楽しめそうだ。


「ところでヒナタ、あのモグラ何?」

「モグちゃん。走路作りを手伝ってくれてるの」

「ってことはあれが例のお助けキャラか。デフォルメされててかわいいね」

「触ったらぷにぷにしてそうデス」

「いいなぁ」


 宮嵜さんのつぶやきが空気に溶ける。


 ふと気づいた。


「ミザリ、アバターいじったんだね」


 目元を隠していた前髪が短くなっている。プールで見た宮嵜さんの顔そっくりだ。


「リアルで前髪を切ったので、こっちで慣れておこうと思いまして」

「VR医療か、確かに効果あるかも。アイセの中ならだて眼鏡がなくても大丈夫なんだね」

「はい。少し抵抗はありますけれど、周りはアバターと思ってくれるので気持ちが楽なんです」

「そっか。じゃあたくさんの人にミザリの顔を見てもらわないとね」

「えっ、そ、それはちょっと」


 モンシロとサムライさんも交えて小さく笑う。


 和やかな雰囲気になったところでハウジングスペースを後にする。

 

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