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走るのが好きなのでAGIに全振りしました  作者: 藍色黄色


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第64話


 桐島さんからアプリ越しに予定の連絡が入った。


 プールの日程を確認して了承の返事を出した。


 プールと言えば水着。


 最後に水着を着用したのはいつだっけ。小学生が最後かな?


 足を故障する前は休日を陸上に捧げていた。海やプールなんて長らく足を運んでいない。


 色々大きくなったし水着の新調は必須だ。私は当日ショッピングモールに集まることを提案した。


 全員の了承を得られて迎えた約束の日。私はパンツルックで日光の下に出た。


 日焼け止めを塗っても日光がじりっと熱い。


 首掛け扇風機をつけていてもお構いなし。歩くだけでじわっと汗が浮き出てくる。


 今思うと、よくこんな熱い中で全力疾走してたなぁ私。炎天下の中どんな顔をして走ってたか思い出せない。 


 あー熱い。早くモールに入って涼みたいなぁ。


 足早に自動ドアをくぐった。ひんやりとした空気が漂って安堵の吐息がもれる。


 気持ちいい。全身の細胞が生き返るみたいだ。


 待ち合わせ場所のカフェに踏み入った。


 店内を見渡して艶のある黒髪が映る。


「風早さーん!」

 

 宮嵜さんが口角を上げて腕を振る。


 私は軽く腕を上げて応じた。足を前に出してテーブルとの距離を詰める。


 宮嵜さんの手元に視線を下ろすと紙の本。グラスの水は半分近くまで減っている。


「おはよう宮嵜さん。いつからここで待ってるの?」

「三十分ほど前ですね。待ち遠しくて早めに来ちゃいました」

「あのタワーマンションすごかったもんね。プールもきっときれいだろうし」

「プールも楽しみですけれど、お友だちとモールを歩くのは初めてなのでこの日が待ち遠しかったんです」

「そっか。じゃあ今日は存分に楽しもうね」

「はい」


 私もチェアに腰を下ろした。

 

 談笑しながら待つこと数分。揚羽と桐島さんの立ち姿が店内の光景につけ足された。


 日本人離れした顔立ちに弾けるような笑みが浮かぶ。


「二人ともーおはようございマース!」


 白い腕がぶんぶんと左右に往復する。


 犬のしっぽみたいだ。会えてうれしいと声なき声が伝わってほっこりする。


「桐島さん、ここ店内だから静かにね」


 揚羽に指摘されて桐島さんがハッとした。他の利用客に片言で謝罪の言葉を口にする。


 利用客は生温かい笑みで桐島さんを許してくれた。


 二人が私と宮嵜さんに合流する。


「えへへ、やっちゃいまシタ」

「みんな優しくてよかったね。怒鳴られたりしたら幸先悪くなるところだったよ」

「そうならなくてよかったデスほんとに」


 客に謝って回ったことも大きい。


 何より特有の空気感とでも言うんだろうか。桐島さんを前にすると、時々小さな子供を相手しているような錯覚を受ける。他のお客さんも無邪気な振舞いでなごまされたに違いない。


 全員そろったのを機に各々ドリンクを注文した。


「こんなに早くプールで遊べるとは思ってなかったよ。他の住人は予約してなかったの?」

「してると思いマスよ。今回は事前に予約してただけデス」

「元から使う予定だったんだね」

「はいデス。当初はクラスメイトと遊ぶつもりだったんデスが、福引で海外旅行が当たってそっちに行きマシた」

「桐島さんがあふれたってこと?」

「ハイ。じゃんけんで負けちゃいマシて」


 苦笑いがテーブル上の空気を震わせる。


 気まずさを吹き散らすには少しパワーが足りなかった。場の空気がぎこちなさを帯びる。


 私は意図して口角を上げた。


「そっか。じゃあそのクラスメイトに感謝しないとだね。おかげで桐島さんと遊べるんだもん」


 私は揚羽に横目を振る。


 きょとんとした顔立ちに微笑が浮かんだ。


「そうだね。貸し切りなんてある意味海外旅行よりレアなんだし、私たちでパーッと楽しんじゃおうよ」

「次はいつ借りられるか分からないですもんね。このメンバーならアイセの話題でも盛り上がれますし、きっと楽しいですよ」

 

 桐島さんは目をぱちくりさせていたものの、やがて表情をくしゃっとさせた。


「そうデスね。今日一日ぱーっと遊んでみんなに自慢してやるデス!」


 テーブルにドリンクが到着した。私たちは言葉を交わしつつ遊び歩くためのエネルギーを補給する。


 朗らかな空気をまとってお友達とカフェを後にした。


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