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走るのが好きなのでAGIに全振りしました  作者: 藍色黄色


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第61話


 アイセのプレイはひとまず休み。空いた時間を期末試験の勉強に費やした。


 無事期末試験最後の科目を終えて背伸びをした。教員がドアを開けて廊下に消える。


「ねー日向。今日アイセやる?」

「うん。やるつもりだよ」

「だったら桐島さんと宮嵜さんにも声かけようよ。精霊王が言ってたでしょ? また精霊界に来いって」

「あらためてお礼するって言ってたね。じゃあ二人の予定も聞いてみよっか」


 スマートフォンのアプリを介して桐島さんにチャットを送る。


 すぐに返事が来た。了承をもらって椅子から腰を浮かせる。


「宮嵜さん、今夜何か予定ある? 二十時ごろに精霊界でクエストを進めようと思うんだけど」

「いいですね。分かりました、予定を空けておきます」

「ありがとう」

「いえいえ。むしろそれは私たちのセリフですよ。風早さんが見つけたクエストに乗っかる形になってますし」

「私がみんなを誘ったんだから気にしなくていいよ。精霊王のお礼ってどんなのだろうね」

「何でも願いを叶えてくれるとか」

「いいね。もしそうだったら何を願おうかな」

「冗談ですよ? さすがに何でも叶えることはないと思います」

「でも叶えてくれた方がロマンあるじゃない? 私は脚を治してもらおうかなー」

「つっこみにくいですよそれ」


 宮嵜さんが苦々しく笑う。


 私も小さく笑っているとドアが開いた。自分の席に着いてロングホームルームに臨む。

 

 



 放課後を迎えて帰途についた。


 お風呂に入って夕食をお腹に収めてからゲームハードをかぶった。ベッドに横たわってアイセの世界にログインする。


 転移機能を使ってアスチック山に移動した。一度行った場所に一瞬で移動できるシステムだ。


 アスレチックを体験できないのは寂しいけど、今日はお友だちと待ち合わせている。一人ゆったりと遊ぶわけにはいかない。


 モンシロたちと合流して精霊界への入り口をくぐる。


 緑豊かな空間を突っ切るとエーファさんが飛んできた。


 精霊王が私たちを精霊都市に招待したらしい。都市って言うくらいだし、建築技術の結晶が群生地のごとく伸びているんだろうか。


 楽しみだなぁ。


 思いを馳せて進んだ先に大きな猛禽類が待っていた。


 獣性の薄い幻想的な薄紫の巨鳥。自然と自滅したゼルニーオを思い出す。


 都市があるんだからこの森は地方なのだろう。きっとゼルニーオはこの場所を管理する状況に不満を抱いていた。


 だとしたら精霊王は慧眼けいがんかも。むしろ誰かの上に立たせるべきじゃなかった。


 欲望を理由に仲間を売るろくでなしなんて誰の敬意も得られない。ゼルニーオは王の器じゃなかったんだ。


 案内に従って巨鳥の背中に乗った。大きな翼が大気を叩いて巨体を浮かせる。


 数秒とせず青空に包まれた。


「わあ……っ」


 感動が言葉となって口を突く。

 

 体をなでる風が気持ちいい。


 ちょっと肌寒いけど、障害物なき視界がもたらす解放感はすさまじい。両腕を広げて全身で風を浴びたくなる。吹き飛ばされそうだからしないけど。


 視線を下方に向けると、視界内を飾っていた樹木が米粒のように小さい。タワーマンションのエレベーターから見下ろした景観を思い出す絶景だ。


 新鮮な体験にわいわいしていると島が見えてきた。


 浮いている。


 重さを支える物は何もない。強烈な上昇気流に噴き上げられているわけでもない。


 百パーセントファンタジーの浮き島。童心に帰ったみたいで心が弾む。奥に巨大な建造物があるけどあれがお城かな?


 巨鳥が下降を始めた。島との距離が近づいて地表の詳細が露わになる。


 建物があっちこっちで伸びている。


 全て木造だ。天然の植物と人工的な色が奇跡的に調和している。街に樹木や花を植えたというよりは、森を削って住まいを構えたように違和感がない。


 巨鳥が地面に降り立った。私たちも地面に靴裏をつける。


 濃厚な樹木とお花の香りが風に乗って漂う。マイナスイオンをたっぷりと浴びれそうな場所だ。


 先導するエーファさんに続いて足を進める。


 正面に上空で見下ろしたお城が映った。


 近くで見るととにかく大きい。


 桐島さんのタワーマンションほど天を衝いてはいないけど、代わりに横幅は数倍に及ぶ。現代の建物を見慣れていてもなお威厳はそこにある。


 重々しい扉がギィ……と鳴いて奥行きのある空間をのぞかせる。


 絢爛けんらんに飾りつけられたエントランスを突っ切る。


 これまた豪華な扉が待ち構えていた。両隅に位置した精霊が仰々しい呼び声を発しておもむろに扉を開ける。


 扉の向こうにあったのは想像を裏切らない玉座の間。両脇にはいくたもの精霊がひかえている。


 赤いカーペットが伸びる先には格式の高い椅子。


 やたら大きなその上にはふさわしい巨体が乗っかっていた。金色のヒゲをたくわえた獅子頭には王冠が載っている。


「よく来てくれたヒナタ、モンシロ、ミザリ、サムライ。我は精霊王ディカーン。この精霊界を治める者だ」

「私たちの名前知ってるんデスか?」

「何を言う。この前名乗ったではないか」

「この前? もしかして、頭に響いたあの声の主って」

「左様。私が呼びかけた」


 やはりあの人型ライオンが精霊王。ゼルニーオが倒したがっていた相手か。


「このたびはゼルニーオの野望を阻止してくれたこと、そして呼びかけに応じてくれたことに礼を言う。望みがあれば一人一つ叶えたいと思っているが、何か望みはあるか?」


 となりで元気のいい声とともに腕が上がる。


「ハーイ! 願いを一つから三つにしたいデス!」

「それはなしだ。一日に行使できる霊力には限りがあるからな」

「それは残念デス」


 サムライさんがしゅんとする。


 表情に明るさが戻った。


「だったら精霊界の刀欲しいデス。とびきり強いやつをお願いしマス」

「了解した。他の三人はどうする」

「じゃあ私もダガーにしようかな」

「お、同じく弓でお願いします」

「私もロッドにしよっと」

「心得た。しばし待たれよ」


 ディカーンが側近に指示を出した。側近が頭を下げて扉から通路に消える。


 側近がぞろぞろと数を連れて戻ってきた。手にはそれぞれ得物が大切に握られている。


「我が王家に伝わる宝の品々だ。所有者の成長に比例して性能を高める優れ物よ」

「いいんですか? そんな大切な物をいただいちゃって」

「よい。それらの品々は民を救ってくれた諸君への感謝の気持ち。その一端が伝わるならば幸いに思う」


 器の大きな物言いに、一瞬大海を前にしたような威圧感を覚える。


 私たちは誰が示し合わせたわけでもなくお辞儀をして宝を受け取った。


 受け取ったアイテムをポーチに収容する。

 

「あの宝の数々がそんな小さい袋に収まるとは、いつ見ても奇怪な術よ。ところでヒナタとやら。ポーチの中に何やら邪気を感じるのだが、一体何を入れておるのだ」

「邪気?」


 もしかして変化の妖玉のことかな?


「これでしょうか?」


 ポーチに腕を突っ込んで玉を取り出した。青い炎みたいなものを宿すそれをかざす。


 太い首がかぶりを振った。


「違う、その玉は清浄なエネルギーに満ちておる」

「清浄?」


 手元に視線を落とす。


 確かこの妖玉には微かながらも悪いものが宿っていたはず。精霊王の一撃でゼルニーオとともに浄化されたってことなんだろうか。


 私は玉をポーチに戻して該当しそうなアイテムを探す。


「あれ」


 見慣れないアイテムが入っている。


『簒奪者の枝角』。簒奪者のワードでゼルニーオの威容が脳裏に浮かぶ。


 角が勝手に実体化した。


「きゃっ!」


 視界が濃い藍色に埋め尽くされて反射的に手を離した。重力に引かれた角が床を大きく鳴らす。


 大きな角から藍色が抜け出た。


「アハハハハハハハハハハ――ッ!」


 不気味な笑い声が王座の間に響き渡る。


 煙じみたものが窓を突き破って外に出て行った。


「な、何なのあれは」

「あの波長、おそらくはゼルニーオだな」

「ゼルニーオ? あの精霊は死んだはずです」

「あれは分霊だ。角に隠れて我の攻撃をやり過ごしたのだろう」

 

 ディカーンがくやしげに顔をしかめる。


 私は深く頭を下げた。


「ごめんなさい! あんな物がポーチに入ってるなんて知らなくて。割れた窓は弁償します」

「よい。意図して持ち込んだわけじゃないのは見ていれば分かる。しかし今から追いつくのは無理だな。ろくな力は残ってないと思うが、今度は何を画策することやら」

「一応警戒態勢を敷きますか?」

「ああ。迅速に頼む」


 側近が一礼して王座の間を後にした。


 ディカーンが私たちに向き直る。


「我々はこれからやるべきことがある。呼びかけたこちらの都合で申し訳ないが、諸君らにはお引き取り願いたい。もし人間界でゼルニーオを見つけたら我々に教えてくれると助かる」

「分かりました。その時は協力させていただきます」


 私たちは一礼して玉座の間を後にした。

 

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