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走るのが好きなのでAGIに全振りしました  作者: 藍色黄色


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第58話


 みんなと山を登って精霊界に踏み入った。


 精霊界の景色を目の当たりにしてモンシロたちは感嘆の吐息をもらした。


 私も初めて目にした時は感動したっけ。


 今は結界におおわれているせいで色合いが落ちている。これが終わったら精霊界本来の景観を見せてあげたいな。


 遠くの方で大きな音が鳴り響いた。戦闘はまだ続いているみたいだ。


 駆け足で音がした方角を目指す。


 走った先で神秘的な体が映った。


「でっかぁ! シカ? それともキリンデスか?」

「シカじゃないでしょうか。頭の上に立派な角がありますし」

「ヒナタ、あのエネミーが敵でいいんだよね?」

「うん」

「よおし、じゃあバフかけるよー」


 モンシロがロッドをかかげた。


 視界内に剣と盾のアイコンが表示されるのと同時に、巨大なシカがこっちを見た。


「姿が見えないからもしやと思ったが、やはり生きていたか小娘。不遜ふそんにも我に挑んだその罪、今度こそ命をもってあがなわせてやろう」


 ゼルニーオの咆哮が空間を駆けめぐる。


 周りを飾る精霊の数は減っている。私たちが戻ってくるまで耐えしのいだってことだろうか。


 安堵して気を引きしめる。


 友人には予定がある。一人で勝つビジョンが浮かばない以上、実質これが今日最後の挑戦だ。

 

 まずはサイクロンエッジで根っこのバリケードに風穴を開けた。モンシロやミザリが頭部を狙って攻撃する。

 

「行きマスよでっかいシカーッ!」

 

 サムライさんが直線状に駆け抜けた。細長い藍色の脚に紅色の光が刻まれる。


 弱点があればスリングショットで頭部を狙う必要もない。ダガーを握って足元に貼りつく。

 

 ゼルニーオが足踏みを始めた。雑草が足を絡めとろうと伸びる。


 巨体を回り込むように走って拘束の手をかわした。風の刃を飛ばしてMPを回収し、サイクロンエッジで赤い軌跡ごと雑草を削り飛ばす。

 

 ゼルニーオが天を仰いだ。 


 周囲が微かに明度を失った。辺り一帯が荘厳な金色を帯びる。


「例の攻撃くるよ!」


 私はスリングショットに持ち変える。


 モンシロいわく、この手の攻撃には何かしらのギミックが隠れているらしい。


 私が見たところあの流星群に安置はない。モンシロは発動を阻止するのがマストなギミックと推測した。

 

 狙うは一回り成長した角。スリングショットの突起で狙いをつけてパワーショットを連射する。


「ぐうッ⁉」


 矢や魔法の雨を受けてゼルニーオが初めてのけぞった。金色の光が霧散して景観が元の色を取り戻す。


 大きくなった角の重さでバランスをくずしたのか、巨体がドシンと横たわった。

 

「今だよ! たたみかけて!」

 

 モンシロの号令を受けて地面を蹴った。


「サムライさん、角に紅一文字をお願い!」

「了解デース!」


 侍姿が腰を落として加速する。


 紅一文字のショートカットアクションを見届けながらMPポーションを飲み干した。大きな角に付加された弱点部位目がけて上半身をひねる。


 雷鳴とともに瞬間移動する。


 何かを砕いた感触が手から伝わる。


 振り向くと立派な角がポッキリと折れていた。


「何今の電光石火、すご」

「すごいデスよねーあれ」

「さすがヒナタさんです!」

「照れくさいよみんな」

 

 小さく笑って二個目のMPポーションで喉を鳴らす。


 追撃をかける内にゼルニーオが起き上がった。


 根っこのバリケードを展開するかと思いきや藍色の体が色あせ始めた。銀河を思わせる体表が獣特有の様相を帯びていく。


 ゼルニーオが動揺したように自身の体を見下ろす。


「な、何だ、何が起きている!?」

「あー、これは術式の副作用だね」


 声の源は、今までずっと展開されていた魔法的ウィンドウだ。


 ゼルニーオがキッと横目を振る。


「術式の副作用だと? 貴様、隠していたな⁉」

「隠すも何も言う必要がなかっただけさ。ボクは術式を完成させてから使うつもりでいたからね。未完成のまま用いたのは君じゃないか」


 ゼルニーオが言葉に詰まる。


 変化は体の左半分で止まった。元の人面とシカの目が見開かれる。


「ぐあああああああああああああっ⁉ 痛いッ、何だこれはッ!」

「んーたぶん体の半分が戻ったからじゃないかなぁ。老いた体じゃ君の全盛期の力に耐えられないんだ」

「何とかしろアーケン!」

「だから、副作用なんか想定してなかったと言ったろう?」

「アアアアアアケエエエエエエンッ!」


 怒号を響かせるゼルニーオの体から赤い光が噴き出た。精霊の血のようなものだろうか。うめきをBGMにして結界が解除される。


 若く美しい体を求めて同胞を差し出したゼルニーオが、今度は改造生物よりも醜い姿に堕ちていく。


 何と言うか、皮肉な末路だ。敵ながらあわれみを禁じ得ない。


 視界の上隅が急激に明るみを帯びる。


「ん、何だ」


 ゼルニーオに続いて私もあおぐ。


 空が荘厳な金色を発していた。


「ま、まさかこの光、精霊王の――!」


 視界内が金色に染め上げられた。ゼルニーオの言葉が爆音に呑み込まれて消える。


 私は両腕を交差させて目元を守る。


 圧力が消えて腕を下ろすと、ゼルニーオの巨体がきれいさっぱり無くなっていた。代わりに青い揺らめきを宿す宝玉がポツンと地面に落ちている。


 遅れてリザルト画面が表示された。変化の妖玉奪還に成功したことを知ってほっと胸をなで下ろす。


 いつの間にかアーケンの顔を映していたウィンドウも消えていた。精霊たちがいっせいに頭を低くする。


 頭の中に声が響いた。


――私は精霊王ディカーン。ありがとう人間の少女たち。諸君のおかげでゼルニーオの企みを阻止することができた。


 サムライさんが頭を抱える。


「頭の中に文字を入力されてるみたいデス。これどこからしゃべってるデスか?」

「しーっ、静かにしてくださいサムライさん、イベント中ですよ」


 いさめるミザリをよそに言葉が続く。


――何かお礼をしなければな。望むことがあれば言ってほしい。


「何でも叶うデス? すごいデス!」

「しーっ! しーっ!」

「願いはヒナタが言っちゃっていいよ。これヒナタが受注してるクエストだし」

「ありがとう」


 といっても思い浮かぶ願いはない。


 何にしようかと見渡して、一つの願いが思い浮かんだ。


「この荒れ果てた景観を、元のきれいな景色に戻すことはできませんか?」


――そんな願いでよいのか?


「はい」


――そうか。自分の欲望ではなく精霊たちのために願うとは、うわさには聞いていたが心優しき人間だな。了解した。


 荒れ果てた景色がほのかに金色を帯びた。光が伸びて欠損していた地形が元の形に復元される。


 光がぽわっと散ると見覚えのある緑が戻った。


 本当に元に戻るんだ。精霊王すごい。


「ありがとうございます。私この景観大好きなんです」


――お礼を言われるようなことではない。この場の修復は本来我らの方でやることだからな。君たちの名前を聞かせてくれないか?


 私たちは順に自身の名前を口にした。


「ヒナタ、モンシロ、サムライ、ミザリだな。後日ここを訪れるがよい。その時あらためてお礼をさせてもらいたい」


 金色の光が薄くなって消失する。


 空が元の清々しい青を取り戻した。

 

流星群は即死級のダメージを誇りますが即死技ではありません。現状あの卑怯者だけは耐え抜くことが可能です。


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