第57話
気がつくとラティカの街中にいた。
この場はリスポーン地点。ログインした他のプレイヤーが現れてはどこかに走っていく。
「負け、ちゃったんだ」
この世界はゲーム。HPバーが尽きたところで死にはしない。
でもショックだ。
今まで色んなエネミーと戦ってきた。苦戦したことはある一方で、打開策を見つけて困難を突破してきた。
周りの人よりとがったビルドだけど私の戦闘スタイルは通じる。今回もそうなると思っていた。
でも駄目だった。今まで積み重ねてきたものを否定された気分だ。
「どうすればいいんだろ」
武器の性能は申し分ない。
防具も最新の物と比べれば劣る一方で強化は進めている。そもそも防具を少し良くしたところでどうこうなる相手とは思えない。
他に何かできることはないかな。
考えて、フレンドの欄に視線を落とす。
今は夜中。明日は期末試験初日だ。ゲームのことで連絡しても迷惑だろう。
でもこの瞬間にも精霊たちは戦っているはず。もたもたして手遅れになったらどうしよう。
呼びかけるだけなら、いいよね。
焦燥感に駆られてメッセージを送った。微かな罪悪感で胸の奥がチクッとする。
じっとしていられずショップに立ち寄った。使えそうなアイテムを購入して出発の準備を整える。
返信があった。
アイセは連携すると他のコミュニケーションアプリと連動できる。ゲームにログインしてなくても私のチャットを確認できる。
それにしても反応が早い。私は戸惑いながらも集合場所を指定した。
いつものカフェで待っていると、見知った三つの人影が現れた。
金髪侍が元気よく腕を上げる。
「こんばんはーデスよヒナタ!」
「熱中してるねぇ。試験前なのに」
「自信があるんですね。さすがヒナタさんです」
ミザリはモンシロとサムライさんを前にしておどおどしている。でも上がった口角からは親愛の情が感じ取れて自然と口元が緩む。
私はチェアから腰を浮かせてお友だちを迎える。
「こんばんは三人とも。来てくれてありがとう。まずは座って」
モンシロたちと同じテーブルを囲んだ。呼び出した手前、お茶は私のおごりで注文した。
三人の間で軽く自己紹介が行われた。
「それで、私たちをこんな時間に呼び出した理由は何?」
ごまかしても仕方ない。私はさっき精霊界であったことを手短に伝えた。
「なるほどねー。その悪いやつをやっつけられなくて困ってるわけか」
「そうなんだよ。こっちの攻撃が通らないのにエネミーの攻撃は高威力でさ。無数の流星を降らせてくるの」
「それはすごいですね。流星かぁ、見てみたいなぁ」
ミザリの純粋な反応になごむ。彼女の脳裏にはきれいな空模様が浮かんでいることだろう。
でもプラネタリウムのように観賞するひまはないと思う。
「足を攻撃してダウンしなかったの?」
「うん。精霊たちも加勢してくれたけどだめだった」
「部位破壊するタイプかもしれないね。もしくは頭部が弱点になってるとか。今回は侍ジョブがいるから足狙いでもいいだろうけど」
「任せてくだサイ。どんなにつまらない物でも斬ってみせるデスよ」
思わずきょとんとした。
「協力してくれるの?」
「もちろん。むしろ呼びつけたあげく面白そうなエネミーの話を聞かせといてハイさよならは通らないでしょ」
「試験前ですからやれて一回ですけれど、事前情報はあるので分は悪くないと思います」
三人から微笑を向けられる。
心強い。
みんなの実力は一緒に遊んだから知っている。
侍さんは紅一文字で弱点を作れる。モンシロとミザリは高所にある部位を狙える。
ゼルニーオとの相性は悪くない。
何より誰かと臨む討伐がいかに楽かは身をもって知っている。
「みんなありがとう」
私は全員と視線を交差させて口角を上げる。




