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走るのが好きなのでAGIに全振りしました  作者: 藍色黄色


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第53話


 サムライさんと分かれて一度ログアウトした。


 シャワーを浴びて寝巻に身を包み、夕食をお腹に収めて再度ログイン。精霊界に足を運んでエーファさんと合流した。


 アーケンの研究施設が見つかったらしい。てっきりME03と戦うことになると思っていたから意表を突かれた。


 生き物を改造している張本人を捕えれば新たな改造生物の出現を止められる。ライガさんのような悲劇も生まれない。


 すぐに行こう。


 そう提案した次に足音が聞こえた。


 振り向いた先に四足歩行の獣が映る。


「久しぶりじゃな人間さん」

「長老。おはようございます」


 姿勢を正して一礼する。


 精霊界にそういう礼儀があるかは知らないけど、とりあえず礼は尽くすことにしている。

 

「どうじゃ? 改造生物討伐の調子は」

「順調です。今のところはナンバーズ二体の討伐に成功しています」

「そうか。アーケンの居場所についてはどうだ? 何か情報はつかめたかな」

「それは私から説明いたします」


 エーファさんが、私に教えてくれたことを長老に告げた。


「そうか。研究所は海底洞窟ブルーブロットにあったか」

「はい。これからおもむく予定です」

「おそらくはアーケンの本拠地だ。万全の準備を整えてからおもむくのだぞ。そうじゃ、私からお前たちに餞別せんべつをやろう」

「本当ですか?」

「無論だ。同胞のためにがんばるお前たちには褒美をやらねばなるまいて。ついてきなさい」

「はい」


 エーファさんに続いて長老の背中を追いかける。


 ゆったりとした歩みの末に小屋が映った。


「あれは倉庫?」

「左様。あの中にはかつて大戦で用いられたという魔導具が納められておる。中にある物を一つ持っていくがよい」

「ありがとうございます。大切に使わせてもらいますね」

「ああ。それじゃ私には用がある。二人でじっくり相談して選ぶがよい」


 四本足がタッタッタッと軽快に地面を踏み鳴らす。


 さっきよりも足取りが軽い。そんなに急いでいる用事があったなんて、何だか悪いことをしちゃったな。


 倉庫のドアを開け放つ。


 露わになった内部には木製の箱があった。五つの箱を一つ一つ開けて中身をあらためる。


 腕輪にチョーカーなどの装身具がていねいに収められている。


 手に取ってみる。


 アイテムの詳細が分からない。どれも古びていてまともに効力を発揮しそうにない。どこかで治す必要があるのかも。


 困った。


 まさか外れがあるとは思えないけど、どれがどんな能力を持つか分からないと選びようがない。


 だったら別の理由で選択するだけだ。


 腕輪は籠手とかぶる。防具と重複する装身具も選択肢から取り除く。


 残る選択肢は一つ。私はチョーカーをポーチに入れて倉庫を後にした。





 精霊界を出て目的地への道のりを歩む。


 モンシロと遊んだ場所から波打ち際に沿って歩くと道が途切れた。


 数秒してイルカが海面から顔を出した。エーファさんの協力者がキューと鳴いてヒレをわちゃわちゃさせる。


 大きなシャボン玉ができ上がった。ふわふわと漂うそれに触れると、体がエーファさんごとシャボン玉におおわれる。


 イルカが背中を向けてまた鳴く。


 背中にまたがるとイルカが潜った。巻き込まれた空気が気泡となって海中を飾る。


 水族館にいるみたいだ。戦地に向かう途中なのも忘れて見慣れない光景に見入る。


 息苦しさとは無縁な時間を送っていると前方に穴が見えた。イルカが迷いなく潜入して浮上する。


 海面から顔が出た。視界内にがらんとした空間が広がる。


「ここが目的地かな」

「はい」


 思わず肩にとまるエーファさんを凝視する。


 言葉を発した白いフクロウも目をぱちくりさせる。


「精霊界でしか言葉を話せないんじゃなかったの?」

「そのはずですが、どうやらこの空間には精霊界に負けず劣らず魔素が満ちあふれているようです。私がしゃべれるのはそのおかげかと」

「じゃあここでなら簡単に意思疎通できるってことか」

「うれしいことばかりではありませんよ。魔素濃度が高いということは、それだけ危ない場所ということです。気を引きしめていきましょう」

「うん」


 口元を引き結んでブーツの裏を浮かせる。


 歩を進めるにつれて人工物が目につく。


 ところどころにきらめくかたまりができている。魔素濃度が濃いから結晶化しているんだろうか。

 

 採取ポイントのマークがある。ピッケルを実体化させて力いっぱい振り下ろす。


 魔力結晶しかこぼれ落ちない。


 でも初めて入手するアイテムだ。発掘できるだけ発掘を試みる。


 足音が近づいて作業を中断する。


 振り返った先でパンダと目が合った。


 もふもふしててかわいい。


 そう思ったのもつかの間。口がガバッと開いて砲口をのぞかせた。


「えっ」


 反射的に地面を蹴る。


 轟音が鳴り響いた。後方でパラパラと何かが転がる音を耳にする。


「何あれ、口の中から大砲出てきたよ」

「改造生物です。散々見てきたでしょう」

「あれもなの⁉」


 改造の方向性違くない? あれじゃただのサイボーグだよ。


 走る先で新たなエネミーと遭遇する。


 やっぱりどこかおかしい様相をしている。機械の腕やアゴなど、次もその次も異形ばかりだ。


徘徊はいかいしてる数多くない?」

「研究施設ですからね。警備も厳重にしているのでしょう。それより大勢ついてきますが戦わないんですか?」

「あんな数戦っていられないよ。ひとまずどこかに隠れよう」


 全力疾走してエネミーとの距離を稼ぐ。何度か通路を曲がってから物陰に隠れた。


 エネミーをやり過ごしてから靴音を忍ばせて調査を再開する。

 

 遅々として進めない。エネミーがあっちこっちに散らばっているせいで安全なルートを確保するのに時間がかかる。


 でもこれ、くノ一の潜伏任務みたいで何かいいかも。忍び装束と合致した状況に心がおどる。


 靴音を忍ばせて物陰から物陰へと移動する。


 進む正面に扉が映った。周囲を見渡してから扉に駆け寄る。


 取っ手を引くとつっかえた感覚。内側から鍵が掛かっているみたいだ。


 扉を開けるには解錠しなきゃだけど、ここにたどり着くまでの道筋に鍵のようなものは見られなかった。


 どこかに解錠する仕掛けでもあるんだろうか。


 ガコンと聞き覚えのある音が鳴る。


 振り向くとパンダが口内の砲口を向けていた。


「危なっ!」


 とっさに身を投げ出す。


 爆風で髪がなびいた。背後で爆音が鳴り響く。


 背後に横目を振ると扉が微かにへこんでいた。


「もしかしてこの扉壊せるの?」


 だとしたら話は早い。扉を背後にしてエネミーの砲撃を誘う。


 砲撃音に引かれて別の個体もやってきた。数が増えた分回避の難易度は上がるものの、比例して扉の損壊速度が増す。


「そろそろいいかな」


 身をひるがえして腕を振りかぶる。


 ショートカットアクションでサイクロンエッジを発動した。微かに向こう側をのぞかせる隙間に攻撃をねじ込む。

 

 視界内に新しい景観が広がった。自然に人工物を突っ込んだような光景から一転、天然要素を取り除いたような人工設備が点在する。ここがアーケンの研究施設なのは間違いないみたいだ。


 まずは寄ってきたエネミーをどうにかしよう。


 原理は分からないけど、今のサイクロンエッジは物体に激突することなく瞬間移動する。


 エネミーがまとまっていれば最後尾まで駆け抜けられる。包囲されることなく殲滅できるはずだ。


 そう考えて腰をひねる。


「……あれ」


 スキルが発動しない。


 視界の左上を視認するとMPバーが空になっていた。


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