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走るのが好きなのでAGIに全振りしました  作者: 藍色黄色


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第50話

 

 エーファさんと合流して、次の改造生物討伐に向けて出発した。


 移動中に、各地で姿が確認されている改造生物について聞いた。


 エーファさんいわく、それらは改造生物の失敗作らしい。


 アーケンに傑作とみなされた個体には、ライガさんのようにMEと数字が割り振られる。エーファさんたちはそれらをナンバーズと呼んでいるらしい。


 これから向かう先には02を冠するナンバーズが待ち構えているのだろう。


 私の準備は万端だ。どんな改造生物だろうと討伐してみせる。そして悪の研究者をふんづかまえるんだ。


 意気込んで向かった先はラティカ潟。ここでも改造生物が現れているだろうに、湖を泳ぐ生物はのんびりとしている。

 

 湿気のある空間を歩き回る。


 一通り歩いても改造生物の姿は見られない。手頃なエネミーを見つけては討伐を繰り返す。


 討伐ついでに採取も行った。湿地帯から洞窟に入って鉱石も集める。そのままロックイーターと遭遇した場所を抜けて外に出た。


 樹木に囲まれながらウータレンの樹皮を採取していると視界が悪くなった。


「また霧だ。改造生物が出る場所には霧が出るのかな」


 肩にとまるエーファさんはホーと鳴くばかり。精霊界に戻らないと言葉を聞けなさそうだ。


 物音がした。


 音がどんどん近づいてくる。


 ダガーを鞘から抜き放って構えると、霧で白く濁った空間にシルエットが浮かび上がった。


 縦長のそれが姿を現す。


「木?」


 それはどう見ても樹木だった。頭部を飾る大量の葉はが毒々しく紫を帯びている。


 枝葉をせわしなく揺らす幹には顔を想像させるくり抜き。ジャック・オ・ランタンを樹木で作ったような様相だ。


 一応改造生物、なのかな。


 樹木も一応生き物ではあるけど、さすがに植物の方向で来るとは思ってなかった。


 腕を想起させる枝がグッと伸びる。


「わっと」


 後方に跳躍して刺突を避けた。追撃を警戒して回り込むように走る。


 樹木の根っこが地面を突いて方向転換する。


 いくら走っても背後を取れない。頭上に頂く『ME02 Silent(サイレント)』の名はだてじゃないみたいだ。

 

 マシンガンスリンガーの射出口を向けてトリガーを引いた。連続射出されたクナイがバラバラな箇所に着弾する。


 全然狙った箇所に集まらない。走りながらの射撃は練習しないと駄目か。


 腕を模した枝が振りかぶられた。即席のムチがしなってパンッ! と空気を破裂させる。

 

 なぎ払いのスピードが音速を超えたところで、振りかぶる動作があれば相手の狙いは丸分かりだ。


 私は頭を下げて、または縄跳びのごとく足払いを飛び越してSilentとの距離を詰める。


 満を持してダガーを振り上げた。電気を帯びた風の刃が宙を駆ける。


 ここに至るまでの道筋で『風爪雷牙』の仕様は把握した。

 

 基本的な仕様は『疾風の黒旋刃』と変わらない。違うのは、両の刃がそれぞれ異なる属性を帯びている点だ。


 左だけ振れば風の刃が。


 右だけ振れば電気の刃が。


 両方同時に振れば両属性を帯びた刃が飛ぶ。属性を合わせた斬撃を命中させるとMPが1回復する。アイテムを使わなくてもMPを回復できる便利なアビリティだ。


 試し斬りをした限りだとそこそこ威力が高い。下手に近づくよりはこれで牽制した方が安全だ。


 エネミーの口を模した空洞がガバッと開いた。壊れたブリキ人形のごとくバクバクさせたかと思うと頭部をブンブン振り回す。


 枝を飾っていた大量の葉が殺到する。


 空間を満たさんとする勢いはもはや吹雪だ。ホワイトアウトならぬパープルアウトが視界内を染め上げる。


「このっ!」


 相手が見えなくても正面にいるはず。ダガーを振り上げて遠距離攻撃を試みる。


 当たっているのか外れているのか分からない。位置を特定されないように走りながら牽制を続ける。


 葉っぱの流れが止まった。二つの属性を帯びた刃が紫一色の視界に切れ込みを入れる。

 

 エネミーが地面の上から消えていた。


「あれ」


 足を止めて周りを見渡す。


 舞い散る紫の葉っぱがひらひらと重力に引かれるだけ。暴れていた樹木はどこにも見られない。


「一体どこに」


 つぶやいた瞬間、肩にとまっているエーファさんがホー! と鳴いた。


 エーファさんの視線を追って振り向くと足首に感触。


 不覚を悟った瞬間ブーツの裏が地面を離れた。


「きゃっ⁉」


 背中が地面に打ちつけられた。


 足首に巻きついているのは枝。引きずられる方向を見ると、そこには例のエネミーがいた。


「いつの間に!」


 あわてて枝を切ろうとするものの、引っ張る勢いが強すぎてうまくひざを曲げられない。


 なすすべもなく宙に放られた。


「わああああああっ⁉」

 

 体勢がくずれているから受け身も取れない。体を丸めて衝撃に備える。


 何度か地面に打ちつけられて方向感覚を取り戻した。すぐに立ち上がって残りのHPを確認する。

 

 ぱたぱたと音が迫る。


「無事だったんだねエーファさん」


 白いフクロウが肩にとまってホーと鳴く。


 私はエネミーとの距離を視認してポーチを開いた。回復アイテムのビンを開けて中の液体を口に含む。


 後方でうなり声を耳にしてバッと振り向く。


 カバを二回り大きくしたようなエネミーがいた。そこらのエネミーと比べて明らかに大きい。


 聞いたことがある。探索フィールドの特定箇所にはボスエネミーが配置されていると。


 まさか二対一の状況を作り出すために私を投げたの?


 どうしよう。


 私はHPが尽きても復活するけど、肩にはエーファさんがとまっている。


 エーファさんってHPあるの? もしそうなら尽きたらどうなる?


 下手に戦うよりは、一度街に戻って仕切り直した方が――。


「えいやあああああっ!」


 おたけびが上がった。みやびな人影が視界内を横切る。

 

 カバの胴体に赤い直線が刻まれた。


「これって」

 

 口角を上げて人影に視線を送る。


「ふっ、またつまらぬものを斬ってしまった」

 

 得意げに笑む横顔は、私がよく知る侍のそれだった。


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