第5話
「揚羽! あのゲームすごく面白いね!」
「どうしたの日向、今日はすごくテンション高いじゃん。昨日はあれだけしぶってたのに」
「だって本当に面白かったんだよ! 走ったら景色がビューンって後方に流れて、ある物全部置き去りにしちゃうの!」
「初期キャラってそんなに速かったっけ?」
「ボーナスポイントを全部AGIに振っちゃったからね。周りよりは多少速いかも」
「え、ちょっと待って。全部って百ポイント全部ってこと⁉」
スマートフォン越しに大声が上がって耳元から離す。
揚羽が興奮した口調で語り始めた。
最初にもらえるボーナスポイントはバランスよく振るか、他者と組んで効率よくエネミーを狩るためSTRやINTに全振りするのが一般的らしい。タンクとしてパーティを組む人はVITに振るケースもあるんだとか。
AGIにボーナスポイントを注ぎ込んだところで戦力にはならない。これが今の結論なのだとか。
「いいよ。誰かとパーティを組む予定ないし」
「あれ、私と一緒にやるって話じゃなかったっけ?」
「その予定だったけど、聞いた話じゃ足手まといになりそうだし。採取楽しいから当分は一人でいいかなって」
「水くさいなぁ。と言っても、実は先約あったの思い出して今週は無理なんだけど。来週時間取れるからその時一緒にやろうよ」
「別に無理しなくてもいいよ? 調べずにポイントを振った私が悪いんだし」
「効率のためだけにプレイしてるわけじゃないからいいの!」
口調が強めになって、思わず小さく笑う。
「ありがとう。じゃあその時までに役立てるようにしておくよ」
通話を切ってヘルメット型ハードをかぶる。
Ideal self onlineにログインした。視界内に石だたみの地面が伸びる。
街の外に出て銀色のキツネ面をかぶる。これでプレイヤーキラーに顔を覚えられるリスクを抑えられるはずだ。
まずはアイテムの採集から始めた。
思った通りプレイヤーキラーがニヤついて現れた。
プレイヤーキラーにはいくつか種類がある。中でもアイテム集めを目的としたプレイヤーキラーは弱い人が多いみたいだ。
薬草や鉱石はマーケットなる場所で取引される。
プレイヤーを狙って効率よく集めたがるのは、彼らに購入資金がないからだ。弱い人たちばかりなのもうなずける。
先日のようにプレイヤーキラーを返り討ちにした。
地面を突っ走って、時には高所から飛び降りてかく乱。隙を見つけては石を投げて横暴なプレイヤーたちに罰を与えた。
楽しい。
私の体格じゃ大柄の男性に立ち向かうのは無理だ。
ゲームの中でならそれができる。脚の故障を無視して思う存分に走れる。もうやみつきになった。
欠点は武器防具が弱いことか。
ショップやマーケットを見た限りでは、強い武器や防具には装備制限がある。品の中にはステータスの制約もある。
そういった制約の大半はSTRとVITの値を参照する。
私のアバターはどちらも低い。AGIを参照する装備じゃないとろくな強化にならない。
私が装備できるのは、ゲーム開始時に配布される初心者武器のみ。言うまでもなく攻撃力は低い。
どうしたものか。
考えをめぐらせていると泣き声が聞こえた。茂みからガサッと小動物が飛び出す。
ハムスターだ。
正確にはそれらしいナニカだ。たくましい後ろ脚のおかげか二足で立っている。
左前足には奇妙な形の武器が握られている。取っ手の上に、何かを引っかけるような箇所がある。
「チュチュッ!」
右前足が口の中に消える。
引き抜かれた手には大きな種。それが引っかける箇所に添えられる。
「わわっ⁉」
反射的に右へ跳んだ。
一拍遅れて、立っていた場所を大きな種が通り過ぎた。
ハムスターもどきが握っているのはスリングショット。攻撃されたことを理解してすぐさま木陰に隠れる。
幹の向こう側で樹皮の弾け飛ぶ音が鳴る。
音が三回連続して静かになった。
木陰から様子をうかがうと、リスが近くの樹木から木の実を取ろうとしていた。
スリングショットの弾は木の実。ほお袋にためた分を使い切ったら現地調達するらしい。
だったら邪魔するのみ。
「させないっ!」
疾走して距離を詰めた。慣性スキルを活かして石を投げる。
弱い魔物だったらしい。ハムスターが煌めく光と化して空気に溶ける。
シャリン! と高い音が鳴り響いた。
宙に長方形が浮かび上がる。
【ハムシュターの投実器を入手しました】
もしやこれがレアドロップってやつかな?
今日はあと二話投稿します!