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走るのが好きなのでAGIに全振りしました  作者: 藍色黄色


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第45話


 一筋の光が地面を走った。反射的に左足が地面を蹴って視界がぶれる。


 一拍遅れて稲妻が駆け抜けた。


「きゃっ」


 左腕で突風から目元を守る。


 稲光いなびかりを視線で追った先にはエネミーの姿。すれ違った稲妻はエネミーが移動した軌跡だったらしい。


 すごいスピードだ。今まで戦ってきたエネミーのどれよりも速い。


 再び光が地面をなぞった。


 認識して右方に避ける。


「痛っ!」


 軽くつねられたような痛みが走って顔をしかめる。


 ゲームの設定には干渉レベルの欄がある。感度を抑えることで不快感なくゲームをプレイできる代物だ。


 私は走る感覚が欲しくて干渉レベルを高めに設定している。痛みは攻撃をかわし切れなかった証拠だ。


 痛みに違わず私のHPゲージが二割ほど削れている。


 かすっただけでこのダメージ。直撃したらHPを全部持っていかれそうだ。


「光ってから動いても間に合わないか」


 だったら足は止めない。エネミーの突進に垂直を意識して走る。


 来ると分かっているのにかわし切れない。突進のたびに左上のバーがゴリッと削られる。


 矢を射かけるミザリにヘイトが向いた。


 私はすかさずポーションを実体化させた。エネミーを視界内に捉えながら中身を飲み干す。

 

 エネミーの周りで稲妻がバヂィッ! とほとばしった。エネミーが苦し気にうめいて地面の上でのたうち回る。


 状態異常が掛かったわけじゃない。電気が一際強く光を発したし、制御し損ねた力が暴発したのかもしれない。


 普通の生物でそんなことは起こり得ない。おそらくは身体を改造された影響だ。


 かわいそう。アーケンなる人間はひどいことをする。


 ともあれ今が好機。距離を詰めてダガーの刃で赤い光を散らす。


 エネミーが体勢を立て直して一鳴きした。呼応するように青白い電撃が周囲の地面を焼き焦がす。


 事前に退避済みだ。クナイを飛ばしてわずかな隙も無駄にしない。


 エネミーがまた激しく動き出した。今度は恵まれた体格を活かして前足で叩き潰そうと迫る。


 飛びのいた地面が陥没した。電気もバヂィッ! と散って迫力満点だ。脳天に降り落ちた時のことを想像すると背筋が凍る。

 

 でもそれは常軌を逸した力だ。本来生き物が発揮していい力じゃない。

 

 頑強な体を維持するには多くのエサが必要だ。多く食べて体を維持する必要性に駆られる。

 

 目の前のトラは大きいけどゾウほどじゃない。前足の一撃なんかで地面がへこむわけないんだ。


 身の丈を超えた暴力の代償は二度目のダウンという形で現れた。


「ヒナタさん」

「うん」


 もう、終わらせよう。


 そう告げてダガーの柄を握りしめた。スキルも使って攻勢に転じる。


 改造生物の体から光が散った。


 今までとは違ったダウンだ。体内で暴れまわっていた力が抜け去ったような、ある種の解放感ある光景を前にして足を止める。


 トラが天を仰ぐように背筋を伸ばして、そのまま地面に倒れ込む。


 めずらしくポリゴンにはならなかった。弱々しく腕を伸ばす仕草が哀愁を漂わせる。


 エネミーと目が合った。真っ赤に充血していた目が白と黒を取り戻している。


 乞うような鳴き声を経て、あれだけ暴れくるっていた猛獣が儚い光となって空気に溶ける。


 ミザリが駆け寄る。


「やりましたねヒナタさん」

「そうだね。一緒に戦ってくれてありがとう」


 ダガーを鞘に納めて口元を引き結ぶ。


 今までと違って達成感はない。ドロップアイテムの羅列にも心惹かれない。


 ゲームに感情移入しても仕方ない。それは分かってる。

 

 でもあのトラが安らかに眠れますようにと、ただそれだけを祈る。


一見あっさり討伐された『ME01 Lightning』ですが、本来はタンクのHPが盾の上から削り切られるくらいの難敵です。


描写はないですが戦闘中のLightningには常にスリップダメージが入っています。ひときしり暴れまわった後で確定ダウンする、まさに勝っても負けても短期決戦になる超攻撃的エネミーです。


一撃必殺の攻撃力も当たらなければダメージはゼロ。素早さ特化のビルドがうまくメタになったわけですね。

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