表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
走るのが好きなのでAGIに全振りしました  作者: 藍色黄色


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/114

第42話


 湿地帯の森を駆け回ってウータレンの樹皮を集めた。


 ハウジングスペースに戻り次第、現地で得られたアイテムを使って採取ポイントを設置した。


 これでリポップのたびにモグちゃんたちが素材を採集してくれる。陸上トラックの資材作りがはかどるに違いない。


 この日はここまででログアウトした。


 迎えた翌日の日曜日。わくわくしながらハウジングスペースに足を運んだ。


 ウータレンの苗木ができていた。樹皮を取るにはまだ早いけど一歩前進だ。


 この日は素材採集に努めた。モンシロと一緒に遊んだエリアを駆けめぐって鉱脈を打ち砕き、山に植生する植物アイテムを拾って回った。


 回数をこなすたびに新たなルートが脳裏に浮かぶ。自分の足で効率的なルートを開拓して試す。

 

 気がつくとアイテムの数が三桁におよんでいた。

 

 オヤビンがいるエリアにも行きたいところだけど、ひとまずハウジングスペースに採取ポイントを設置してこようかな。


「あのくノ一、この前のイベントで三位になった子じゃね?」


 話し声が聞こえて振り向くと三つの人影があった。


 知らないプレイヤーだ。何やらこそこそと話している。


 嫌な予感。


 内心身構えていると一人がロッドを向けてきた。


「やっぱり!」

 

 右方に走って火球をやり過ごす。


 間違いない。彼らはプレイヤーキラーだ。


 本当に来たよ。揚羽がそれっぽいこと言ってたから覚悟はしてたけど、かき集めたアイテムを奪われるなんて冗談じゃない。


 浅橋の上を突っ走ってひたすら距離を稼ぐ。


 魔法使いの射程はモンシロを観察して把握している。AGIの高い私なら逃げ切れるはずだ。

 

「くっそ速え!」

「AGIにいくつ振ってやがんだあの女!」


 後方からの声を耳にしながらコンソールを開いた。所持しているアイテムを倉庫に転送しようと試みる。


 駄目だった。街の外にいるとアイテムを倉庫に収められないようだ。


 戦闘中はコンソールからの転移も使えない。アイテムを倉庫に転送してから迎え撃ちたかったのに、これじゃリスクを抱えて戦わなくちゃいけない。

 

 このまま走って千切ってから街に戻る?


 でもあの人たち、明日以降もまた来るだろうなぁ。


 二度とプレイヤーキルをする気が起きないように、ここで痛い目を見せてあげないと。


 私は意気込んで足を進ませた。





「あの子どこ行ったんだ」


 草根をかき分ける音に遅れて男性が舌打ちする。


「せっかくイベント報酬のアイテム奪えると思ったのによ」

「今さらだけどイベント報酬って奪えるんだっけ? 特殊なレア度になってて奪えないって聞いたことあるんだけど」

「え、そうなの?」

「お前ら知らずにプレイヤーキラーやってたのかよ。呆れたぜ」


 先頭を歩く男性が足を止めて目を見開いた。


「おお、すげえ!」

「何だこりゃ」


 後ろを歩く二人も口角を上げる。


 彼らの前にあるのはアイテムの山。鉱石や植物が重なって小さな山を形作っている。


「分かったぞ、さてはこれで見逃せってことだな」

「もっとかわいい感じじゃね? これで見逃してくださいって感じで」

「かわいかったもんな。今度会ったらフレンド申請しよ」

「バカ、承認してもらえるわけねえだろ。それよりもハイエナがわく前にアイテムかき集めんぞ」


 男性がアイテムの山に歩み寄る。


「ん?」

「どうした?」

「いや、何か聞こえねえか?」


 三人が耳をすませる。


 規則的な物音が連続する。


「これは、足音か?」


 音の源は盛り上がったアイテムの向こう側。


 何かが近づいてくる。


 彼らがそれを悟った瞬間、黒い風がアイテムの山を突き破って現れた。





「はあああああっ!」


 サイクロンエッジ。斜面を駆け下りて味方につけた慣性とともに突っ込んだ。


 隠れみのにしていたアイテムの山が黒い風刃に散らされる。


 あらわになったプレイヤーキラーに風刃と技がヒットした。二つの人影がもろに受けてきらめく光と化す。


 武器を『バシュ・ネ・モフィラ』に切り替えて麻痺クナイを射出する。


 残る一人の体がピクッと硬直した。


「お、前」

「人の物を取ったら駄目なんだよ?」


 パワーショットを二連射。

 

 最後の一人もポリゴンと化して砕け散った。リザルト画面ならぬポップアップがドロップアイテムを羅列する。


 一息ついて武器を納めた。仮面を外して、斜面に散らばったアイテムをそそくさとかき集める。


 彼らがこれに懲りてプレイヤーキルをやめるならよし。


 そうじゃなくても装備を失った。私にやり返すにも装備を整える時間がいる。しばらくは手出ししてこないだろう。


「ん」


 視界の隅に小さな影が映って振り向く。


「ホー」


 白いフクロウがいた。ほのかに光るそれが翼をはためかせる。


 見覚えのある鳥がレア鉱石をわしづかみにする。


「あ、それ私の!」


 フクロウが飛び立つ。


 私は追いかけようとして足を止めた。焦りを抑えて、地面に散らばったアイテムの回収に努める。


 盗まれたのは、他のアイテムが三桁におよぶ中でまだ一桁の鉱石だ。相手がかわいいフクロウでもあげるわけにはいかない。


 アイテム回収を終えてすぐに追いかける。


 樹木で視界は悪いけどフクロウはきれいだから目立つ。見失うことなく草木あふれる場所から抜け出せた。


 前方に足場の悪い岩場が広がる。


 あっちこっちから岩の突起が伸びていて、何だか愉快なことになっている。ちょっとしたアスレチックみたいだ。


 助走をつけて地面を蹴った。跳んだ先にある岩面を蹴って、川に落ちないように反対側の岩をまた蹴飛ばす。


 五回ほど連続跳躍して平らな地面に着地する。


 今度は三本の太いつるがたらんと伸びていた。その内一本を握って上を目指す。


 腕の力だけじゃ限界がある。両足で蔓をはさんで腕を休めつつ確実に蔓を上る。


 ゴロゴロと音が迫る。


 空をあおぐと、はるか頭上で大きな岩が傾いていた。


「うそっ⁉」


 岩が落ちて来るまで猶予はない。


 こうなったらいちかばちか。体全体を使って蔓を揺らす。


「えーいっ!}


 となりの蔓目がけて跳んだ。飛び移った蔦に揺られる中、重力に引かれた岩がすれ違う。


 危なかった。危うく脳天に強烈な一撃をもらうところだった。


 ほっとして上る作業を再開する。


 その後二回ほど飛び移った末に蔓を上り切った。


「やったあああっ!」


 歓喜に身をゆだねて飛び跳ねる。


 すごい充実感と達成感。


 楽しかった。陸上の走路のことばかり考えてたけど、ハウジングスペースにアスレチックを設置するのも悪くないかも。


「そうだフクロウは?」


 あっちこっちに視線を振ると、フクロウが岩にとまって私を見ていた。


 視線が交差するなり白いもふもふが背中を向けて飛翔する。


「もしかして、ついてきてってことかな」


 わざわざ私のことを待ってた辺り、そうとしか思えない。


 白い背中を追いかけつつ岩場のアスレチックに挑む。


 アスレチックを踏破した先には、幻想的に光る入り口があった。


「何あれ」


 つぶやく私をよそに、フクロウが光る入り口に消える。


 目の前にポップアップ。


【『ようこそ精霊の国へ』を受注しますか?】


『はい』『いいえ』





 これはクエストだ。


 すぐに『はい』を選択した。眼前の光が強まって視界内から白以外の色が失われる。


 世界が色を取り戻すと、殺風景だった景色が緑あふれる景観に様変わりしていた。立ち並ぶ樹木や花が視界内を色鮮やかに染め上げている。


 湿地帯と違ってじめじめしていない。居心地のよさに口元がゆるむ。


「気持ちいい場所だなぁ」


 すーっと深呼吸。空気を出し入れするだけで体が新しくなっていくみたいだ。


 靴裏を浮かせて橋を渡る。


 透明感のある水が川のせせらぎを奏でている。泳いでいる魚も活き活きとして映る。


 小動物からの視線を受けながら歩いていると、フクロウがぱたぱたと翼をはためかせて寄ってきた。


 橋の手すりにとまったフクロウに向けて、私は腕を差し出す。


「鉱石返して」

「第一声がそれですか」


 しゃべった!

 

 なんてね。こんな程度じゃもう驚かないよ私は。


「私ヒナタ。あなたは?」

「私は風の精霊エーファ。あなたに協力を要請したくてここに招きました」

「手伝ってほしいことがあるならそう言ってよ。わざわざ鉱石を盗まなくたって話くらい聞くのに」

「私はこの空間の中でしかしゃべれないのです。意思疎通を行うには、あなたをここに誘導する必要がありました」

「なるほどね。それで、風の精霊さんが私に頼みたいことって何?」

「水の都ラティカに脅威が迫りつつあります。あなたには迫りつつある厄災をはらっていただきたい」


 厄災とはまた、一気に話が大きくなってきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ