第40話
「何であの鳥が」
私に仕返しをしに来たの? カラスはやり返すって聞いたことあるけど猛禽類もそうなのかな。あるいは大きなカエルを食べに来たのか。
ふと思った。
エネミーがエネミーにとどめを刺したらどうなるんだろう。
せっかくの機会、試してみるっきゃない。
ポーチから木の実を取り出してかじった。視界の左上に表示された剣のアイコンがステータス上昇を教えてくれる。
円を描くように走って体に慣性を乗せる。
走る私を追尾するようにくちばしの向きが変わる。怪鳥の狙いは私にあるようだ。
それは好都合。一気にカエルとの距離を詰める。
カエルの大きな口が開く。
戦いの間ずっと考えていた。どうやったら武器のアビリティを有効活用できるんだろうって。
すでに答えは得た。
風の刃が全方位に散るなら、エネミーの口内でサイクロンエッジを使えばいいじゃない。
「はあああああっ!」
伸ばされた舌を交わして体をひねった。口内目がけてサイクロンエッジを繰り出す。
一泊遅れて背後で激突音が鳴り響いた。カエルの口内がきらめく破片となって原型を失う。
突風に髪をなでられる。
怪鳥が頭上を越して空に戻っていく。その背中がポップアップにおおい隠された。
「何今の! ずるっ!」
抗議するモンシロに満面の笑みを向けてあげた。
「私の勝ちだね」
「むぐ、でもイーブンだし」
「そうだね。でも私の勝ちー」
「あーはいはいもう分かりました認めますよ。それよりさっきの、自分から口に突っ込んで行ったけどダメージなかったの?」
「ないよ。たぶん判定が出る前にとどめを刺したからじゃないかな。エネミーがとどめを刺してもアイテムもらえるとは思わなかったけど」
「エネミーがラストヒットを取った時は、直前に攻撃を当てたプレイヤーにドロップするみたいだよ」
「そういう仕様なんだ、知らなかった」
ってことはエネミーにドロップアイテムを奪われることはないわけか。いざという時はエネミー同士を戦わせるのも面白そうだ。
「じゃあそろそろ決着をつけよっか。最後は何で勝負する?」
「ごめん。私そろそろ落ちなきゃいけないんだよね」
「読モの仕事?」
「そ。実はあんまり余裕ない」
「そっか。ありがとね、いそがしいのに時間取ってくれて。またいつか遊ぼ」
「もちろん。じゃあまたねヒナタ」
手を振るモンシロが光に包まれて消える。
ここに一人いても仕方ない。ハウジングピースの使い道も知りたいし、一度ハウジングスペースに顔を出してみよう。
コンソールを操作して転移する。
違和感を覚えた。
この前来た時と何かが違う。言語化が難しいけど差異を肌で感じる。
モグちゃんに声をかけて話を聞いた。
違和感の正体は採取ポイントだった。ハウジングスペース内は空気中の魔素濃度が高いらしく、適度な刺激を与え続けると植物や鉱石が変質するらしい。
採取ポイントの見た目が変わるだけじゃない。一度の採取で今までよりも多く採集できたり、場合によっては新しいアイテムを得られるそうだ。
「リポップするたびにぼくたちが採集してたからね。効率よく開発できたと思うよ」
「ありがとうモグちゃん。助かるよ」
走路を作るには資材ことハウジングマテリアルが必要だ。
ハウジングマテリアルと交換するのに必要なアイテムの数は、物によっては三桁に迫る。
リポップのたびに採取を繰り返すのは面倒だ。モグちゃんたちがいないプレイヤーはどうしているんだろう。
「作業に必要な道具があれば言ってね」
「いいの? それならぼくスコップが欲しいな」
「俺も俺も」
「ぼ、ぼくちんも」
プッツって一人称ぼくちんなんだ。
デフォルメのかわいい見た目でよかった。リアルに近い様相だったら吹き出していたかもしれない。
「分かった。今作るね」
建物前にあるコンソールを操作する。
コンソールに新たな欄ができていた。ハウジングピースを一定数使うことで特殊なアイテムと交換できるらしい。
交換に必要なピースは集まってないし、今すぐ必要な物でもない。
今回は鉄鉱石や木材を消費して三本のスコップを作り出した。
「どうぞ」
「ありがとう」
モグちゃんがスコップを受け取ってスコとプッツのもとへ走る。
鉱石や植物は数が集まってきた。そろそろ足りない素材を狙って集めに行く頃合いだ。
モグちゃんたちはがんばってくれてる。私も負けていられない。




