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走るのが好きなのでAGIに全振りしました  作者: 藍色黄色


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第39話

「やめなさい!」


 ダガーを振って風の刃で牽制する。


 怪鳥が私に気づいて高度を上げた。黒い風刃が何も切ることなく霧散する。


 見上げると本当に大きい。体長は五メートルをゆうに超えている。


 フクロウが近くの木陰に隠れる。

 

 猛禽類もうきんるいがうっとうしそうに一鳴きする。


「生きるための捕食なのは分かってる。でもごめんね。あの子が食べられると思うと私の気分が悪くなっちゃうの。運が悪かったと思ってあきらめて」


 怪鳥がおたけびを上げて急降下する。


 身を投げ出してわしづかみをやり過ごした。振り返りざまに幻惑クナイを放つ。

 

 さすがに背後からの攻撃は当たったけど飛翔を妨げるには至らない。


 ダメージはちゃんと蓄積するはず。一回一回を大切にしていかないと。


 まずは幻惑。落下ダメージを期待して急降下中にクナイを射出する。


 怪鳥が体勢をくずして派手に地面を揺らした。スキルを総動員して私の最大火力を叩き込む。


 空を取り戻した怪鳥に今度は麻痺クナイを射出する。


 怪鳥が麻痺状態になってまた墜落した。再び私に出せる最大火力を叩き込む。


 体勢を立て直した怪鳥が一鳴きして飛び上がる。


 今度は様子が違う。大きな背中が見る見るうちに小さくなる。やがて小さな背中すら見えなくなった。


 野生動物はリスクのある狩りをしない。私のことを少なからず脅威と思ってくれたようだ。大きな怪我を負わせる前でよかった。


 ほっと一息ついて樹木の幹に向き直る。


「もう大丈夫だよ」


 木陰からフクロウが顔を出す。


 かわいい。もこもこしてて綿あめみたい。


 白い翼がはためいた。ホーと鳴いてどこへともなく飛び去る。


 すっと気分が沈む。


  助けてくれてありがとーって寄ってくる未来が見るも無残に砕け散った。


「ま、まあ野鳥は人になつかないって聞くし」


 言いわけじゃない。私が怖がられた可能性なんてこれっぽっちもないんだもんね。


 元来た道をたどって桟橋の上を走る。

 

 山の頂上に着いとモンシロがほおをふくらませた。


「ヒナタおそーい」

「ごめんごめん、ちょっと寄り道しちゃって」

「寄り道って?」

「実はフクロウが大きな鳥に襲われててさ。見捨てられなくてつい助けちゃった」

「あーエネミーの特殊行動ね」

「特殊行動?」

「世界観を作るって言うのかな。生きてる感じを出すために生態にのっとった行動をするんだよね」

「だから捕食してたんだ。細かいね」

「まあね。でもフクロウって夜行性だし、そういう意味じゃどうなのとは思うけど。それよりも」


 小さな顔が意地悪気に口角を上げる。


「な、何かなその顔は」

「私の、勝ちだね」


 胸の奧がチリッとする。


 めらっとしたものにふたをして顔に微笑を貼りつける。


「そうだね。寄り道しなかったらどうなったかは分からないけど」

「どうかなぁ? きっと私の勝ちだったと思うなぁー」

「そんなことないって。私のキャラ足速いもん」

「じゃあさ、もう一勝負してみる?」


 モンシロがにぃーっと口の端をつり上げる。


 く や し い。


 くやしいけど首が勝手に縦に揺れた。


「いいよ。そこまで言うならやってあげる」

「チョロいぜ」


 つぶやきは聞かなかったことにする。


 モンシロに乗せられた自覚はある。


 でも負けっぱなしは性に合わない。ここは恥に耐えてでも勝ちをもぎ取りにいかないと。

 

「それで、次は何で勝負するの?」

「この先にいるボスエネミーのラストヒットを取るってのはどう?」

「ラストヒットってとどめのことだよね。どうやって判別するの?」

「今回のアップデートから、ボスエネミーにとどめ刺した人にはハウジングピースがドロップするようになってるの」

「それを得た人が勝者ってことか。シンプルで分かりやすいね」

「でしょ。じゃ早速行こう」


 二人で山を下りつつ目についた植物を採取する。


 この辺りには一時的にステータスをアップさせる木の実がなっているようだ。汎用性の高いアイテムだし、日課のランニングコースはここで決まりかな。


 モンシロに案内された先では緑のじゅうたんが広がっていた。


 よく見るとそれは水面から伸びる水草だった。沈むほど深くはなさそうだけど足を取られそうになる。

 

 その救済措置なのか、あっちこっちに巨大なキノコが伸びている。


 広がるカサは大きい一方で景観を損なわせてはいない。じめっとした空間なのに草原で見渡すような清涼感がある。


 上から行こうと誘われて私はモンシロの背中に続く。


「よっ!」


 モンシロが高台から跳んだ。陸上選手よりも大きな放物線を描いて着地する。


 乗った先からカサがへし折れることはなさそうだ。私も助走をつけてキノコの足場にブーツの裏をつける。


 少し弾む感覚がある。跳び箱のジャンプ台みたいだ。


 キノコ床の地面を蹴って次のカサに飛び移った。弾む感触にヒントを得て大きめに跳び上がる。


 ぽよーんと押し返されて体が浮遊感に包まれる。重力に引かれる感覚がくせになりそうだ。


 これちょっと楽しいかも。


「ボスエネミーってキノコを渡って行った先にあるの?」

「ううん、ちょうどこの辺りだよ」

「え?」


 下の方でバシャッと音が鳴った。キノコのカサにぬっと大きな影が落ちる。


 一泊遅れて足場が大きく揺れた。


 カエルだ。さっき交戦した怪鳥よりは小さいものの、そこにいるだけで足場の四分の一を占める。人一人丸飲みにできそうなサイズだ。


 大きな口が開く。


 とっさに地面を蹴った。立っていた場所を桃色の舌が通り過ぎる。


 危なかった。舌に巻かれていたら丸飲みにされていたかもしれない。


 体がほのかな光に包まれた。


 視界の隅にアイコンが並ぶ。


「バフかけてあげたよー」

「バフ?」

「キャラのステータスを一時的に上げたの」

「いいの? ありがとう」


 ラストヒットを奪い合う仲なのに優しいなぁ。とどめを譲らなきゃいけない気分になる。


 でも譲って上げない。負けるのは嫌いだから。


 カエルが身を屈める。


 跳躍と読んで走った。巨体が視界の上方に消えて私が元いた場所に影を落とす。


 エネミーが着地する前にダガーを振った。風刃に次いで体をひねる。


 ショートカットアクションに指定した仕草。システムがサイクロンエッジを起動して視界が一回転する。


 黒い風刃が落ち行く巨体にヒットエフェクトを散らした。


「今の黒い風かっこいいね」

「ありがとう」

 

 武器を褒められたのはうれしいけどカエルとは相性がよくない。

 

 サイクロンエッジで発動する風刃は四方八方に散る。総数の半分当たっていればいい方だ。


 現状私のラストヒットはサイクロンエッジ頼り。どうにかして全ての風刃が当たる位置を突き止めないと。


 でもどこに?


 腕と腹の間に差し込むのは難易度が高い。


 スリングショットに頼ろうにも単発威力が低い。ラストヒットは強い魔法を使えるモンシロが有利だ。


 カエルの動きに新しい行動パターンが増えた。


 ウィンドメイジと同格ならそろそろカエルのHPが尽きるはず。モンシロの攻撃力はミザリよりも高いだろうし、いつポリゴンとなって砕け散るか分からない。


 どうしたものかな。


「ん」


 聞き覚えのある鳴き声を耳にしてバッとあおぐ。

 

 青空を背景に例の怪鳥が翼を広げていた。


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