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走るのが好きなのでAGIに全振りしました  作者: 藍色黄色


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第37話

「日向、今日こそ一緒にアイセやろう」


 揚羽からモーニングコールを受けたのは土曜日の早朝だった。


 私はベッドの上で背伸びをした。ん~~と自分の声を聞いてからスリッパに足を差し入れる。


「ねえ揚羽、それ今する話?」

「そりゃ今でしょ。早い内に予約しないと日向一人でどっか行っちゃうし」

「そんな人を野良ネコみたいに」


 カーテンを開けて室内に朝日を迎え入れる。部屋に差し込むまばゆさで反射的に目を細める。


 今日もいい天気だ。以前なら外を走れないことに気分を落ち込ませていたけど、今の私にはアイセがある。


 口角を上げて胸元のボタンを外す。


「ネコみたいなものじゃない? 気がつくとどこかに走って行っちゃうし」

「ひどいなぁ。私はちゃんとした人間なのに」

「知ってるよ。それで何時にログインする?」

「そんなの決めてないよ。朝ごはん食べて、歯みがきして、その後かな」

「よし分かった。じゃあログインする前にはチャットで連絡を入れること。

「いいよそんなの。ログインしたら合流でいいじゃん」

「よくない、やりなさい」

「無理してない? 揚羽のキャラレベルって私より断然上でしょ」

「上だけど無理してない。ともに行こう」


 私服にそでを通し終えて勉強机にもたれかかる。


「今日の揚羽は強引だね」

「一緒にやる約束して今日までズルズルきちゃったからね。今日は絶対一緒にやるつもりで起きた」

「何それ」


 思わず小さく笑う。


 揚羽ってこんな冗談言うタイプだったっけ。新たな一面発見だ。


「分かった。揚羽が面白いからログイン前にチャットしてあげる」

「またそんなこと言って。日向だって私と遊びたくてたまらないくせにー」

「ばれたか」


 スマートフォン越しに笑い合って通話を終えた。自室を後にして一階に下りる。


 ソファーに寝転がる人影があった。


「おはようなる

「おはようお姉ちゃん」


 細身が上体を起こして目を合わせる。

 

「お姉ちゃん最近元気いいよね。あのゲームそんなに面白いの?」

「面白いよ。あの世界なら私でも全力で走れるし」

「陸上一筋だったお姉ちゃんがはまるくらいだもんね。私も今度やってみようかな」

「いいね。その時は教えてよ、知ってることは教えてあげるからさ」

「うん。その時は頼りにさせてもらうね」


 家族と同じテーブルを囲んで朝食を口にする。


 お腹を満たして自室に戻った。揚羽との約素通りスマートフォン越しにチャットを送る。


 秒とせず返事がきた。私はヘルメット型ハードをかぶってベッドの上に寝転がる。


 揚羽と遊ぶのは久しぶりな気がする。


 中学生になってからは陸上の練習に時間を注ぎ込んでいたし、退部してからはしばらくふさぎ込んでいた。


 下手をすると年単位で一緒に遊んでない。つれない私とよく友人でいてくれたものだ。


 今日は揚羽と何をしよう。


 考えながらゲームにログインした。水と石の調和した街並みが広がる。


 アプリ越しに待ち合わせたカフェに足を運んだ。


「ヒナターっ!」


 おしゃれな景観を背景に細い腕が揺れる。


 笑みを向けるのはローブ姿の少女。リアルのサイドポニーから一転、肩の辺りで切りそろえられた銀色の髪がミステリアスな雰囲気を醸し出す。


 私の名前を呼んだってことは揚羽のアバターかな。チャットで教えてもらった名前と合致するし間違いない。


「お待たせモンシロ。白いね」

「でしょ。実はやってみたかったんだよねー。ブリーチは髪が痛んじゃうからしり込みしちゃうけどゲームなら問題なし。そりゃやるっきゃないっしょ」

「揚羽らしいね」

「そういうヒナタは黒だね。忍び装束に合ってるけど染めようとか思わないの?」

「うん。私リアルだと栗色でしょ? ひそかに黒い髪にあこがれてたと言いますか」


 何となく視線を逸らした。人差し指で毛先をくるくるさせる。


 黒い髪にあこがれてたなんて、相手が揚羽でもちょっと気恥ずかしいな。


「ふーん。そっかぁ、あの陸上マシンかついにおしゃれに目覚めたか」


 モンシロがニーッと意味ありげに口角を上げる。


「何だかすっごく含みを感じるんだけど」

「気のせいだって。せっかくだし何か飲んでいこうよ。今日までヒナタがやってきたこと聞かせて」

「いいよ」


 モンシロと同じテーブルをはさんでメニューブックを開いた。今回はカフェオレを注文して談笑に興じる。


 アップデート直後にモグちゃんと遭遇したこと。


 水の都の秘宝をめぐって悪事に加担させられたこと。

 

 それらを告げた頃合いになってカフェオレが到着した。


「ヒナタ、今回受けたクエストについて誰かに話した?」

「ううん、今のところはモンシロにしか話してないよ」

「それならよかった。これからはうかつにクエストの情報をもらさない方がいいよ。たぶん後者のやつはシークレットクエストだから」

「シークレットクエストって?」

「プレイヤーに見つけさせる気のなさそうなクエストのことだよ。こういうのって報酬が特殊なタイプが多いから情報が高値で取引されるの。リアルマネートレードもあるくらいなんだから」

「そうなんだ。それは知らなかったよ」


 ゲームハードやお米が投資対象になる世の中だけど、まさかクエストの情報までもが投資になるなんて。


 人って面白いなぁ。


「ちなみにさ、ラティカの秘宝ってどんなのだったの?」

「んー? ひみつ」

「いじわるー」

「冗談だって。きれいな宝玉だったよ。色んなショップに立ち寄ったけどまだ使い道は分からないんだよね」

「そうなんだ。アップデート待ちってことかな」

「さあ。何にしても使い道を知る日が待ち遠しいよ」


 行き先を決めてストローに口をつける。


 ドリンクを飲み干してチェアを立った。その足でゴンドラを借りて水上を移動する。

 

 


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