第33話
小さなモグラたちを引き連れてラティカに戻った。
モグラたちは独自のルートで目的地に向かうらしい。水によって地面は分かたれているのにどうやって現地におもむくんだろう。
私が考えても仕方ない。一人街に入って集合場所へと足を運んだ。
何故か現地にはモグラたちの姿があった。どうやってこの場所に来たのか問いかけたものの、企業秘密ならぬ組秘密で聞き出すことはできなかった。
目的の品をスコとプッツに手渡すと、何やら道具を取り出して作業を始めた。慣れた手つきで道具を完成させる。
でき上がったそれはらせん状をしていた。
「それ、ドリル?」
「うむ」
「うむじゃなくて、そんなの使ったら騒音でばれない?」
「大丈夫だ。そのために必要な物を持ってきてもらったんだからな」
あれって消音のために必要だったんだ。
そう思ったつかの間だった。ウィィィィィンと騒音が坑道内に響き渡る。
とがった先端が壁に押しつけられた。削られた壁が瓦礫となって地面の上を転がる。
穴を掘ること数秒後。元々深く掘っていたのか、壁が形を失って穴が空いた。
「よっしゃあ!」
モグラたちが活気づいて壁の崩落を祝い合う。
すごい背徳感だ。ゲームの中とはいえ本当に街の破壊工作に手を染めることになるとは。
「どうした人間、早く行くぞ」
モグラたちが穴へと駆け出す。
薄暗い坑道でたたずんでいても仕方ない。私もモグラの背中を追いかける。
意図せず足が止まった。
「これは」
眺める先には通路があった。
地面は平ら。障害物は何一つとしてない。
明らかに人の手が入っている。
「もしかしてこれが秘密の地下通路?」
口にして口角が浮き上がる。
すごい。ミザリが言ってた都市伝説って本当にあったんだ!
この奧には一体どんな宝物があるんだろう。胸を高鳴らせながら足を前に進める。
よく見ると地面には車輪の跡がある。資材を荷車に載せて運んだことがうかがえる。
私は小走りしてスコとプッツに駆け寄る。
「ねえ、ラティカの秘宝ってどんな物なの?」
「さあ?」
思わず脱力しそうになった。
「さあって、分からないのに必死に坑道を掘ってたの?」
「分からないからいいんだろ。秘宝がどんな物か分かってたら興ざめじゃないか」
「じゃあ何で秘宝があるって分かるの?」
「そう言い伝えられてるからだ。うわさがあるなら元になったネタがあんだろ」
「それが存在の証拠になるってことね」
ちょっと強引な気もするけど理屈は分かる。
伝承のたぐいには大体意味がある。子供が近づかせないようにお化けを使って怖がらせるとか意味はそれぞれだけど、無駄な言い伝えは基本的にない。
ラティカの秘宝も、闇取引に手を染めた商人が子孫に宝を見つけさせるべく言い残した可能性もある。
何よりこんなイベントが起こってるんだ。奥に何もありませんでしたなんて言わせないんだから。
「待て、何か聞こえるぞ」
警戒の声に遅れて規則的な物音が迫る。
前方にうごめく物が映った。
宝箱だ。ガッタガッタと左右にせわしなく揺れて近づいてくる。
ふたの縁とその接触面で鋭利な刃物がギラリと光る。ふたをパクパクさせるさまは飢えた獣のようだ。
迫る宝箱の後ろには十におよぶ同形の物質が続いている。
「ミミックだ!」
「やっぱ近くに宝があるんだ!」
それどういう理屈?
問うよりも前にスリングショットの照準で狙いを定める。
狙うは先頭を走るミミック――の後ろにいる個体だ。
このまま接触したら乱戦になる。モグラたちは爪を出してやる気満々だけど、被害が出ることを考えるとそれは避けたい。
私がやるべきは有利な状況を作ること。先頭に続くミミックにクナイをぶつけて麻痺や幻覚をかける。
ミミックたちの距離が少しずつ、されど確かに開く。
一気に十体を相手するよりは、一体を全員で袋だたきにした方がはるかに楽だ。
私はダガーを鞘から抜き放って前に出る。
一体の討伐にかかった時間は数秒。それを何度もくり返すだけで戦闘は終わった。
勝利を祝ってまた歩みを進める。
「さっきミミックを見てよろこんでたよね。何でミミックがいると宝がある証明になるの?」
「ミミックは宝物がある場所で擬態する魔物だからな。連中がいるってことは、そう遠くない場所に擬態先の宝があるってことさ」
「なるほど、ハナカマキリみたいなものね」
見た目が花テイストなカマキリ。葉っぱの上にいたらその華やかさで存在がばれる。狩りをするにも鳥類から逃げるにも、自然と花のある場所が活動地域になる。
ミミックもそれと同じで、宝物がある場所でしか活動しないってことなんだろう。
そう考えて、ふと疑問が頭をもたげる。
擬態には攻撃擬態と隠ぺい擬態がある。ミミックがどちらをしていたにせよ、宝物から離れて突撃したら擬態する意味がない。
擬態を解いてまで私たちに向かってきたのはどうしてだろう。




