第32話
見たことのある色合いのモグラだ。水の都で遭遇した個体と同じ種族だろうか。
十におよぶ黒いモグラがまとまって駆け寄る。
身構える私の前で、モグラがいっせいに頭を下げた。
「頼む、親分を許してやってくれ!」
「この通りだ!」
不覚にもきょとんとした。
徒党を組んで襲われると思っていたから意表を突かれた。
「痛てててて」
大きなモグラがのっそりと起き上がる。
小さなモグラが大きな図体に集まった。
「親分! 大丈夫ですか⁉」
「情けないことしてんじゃねえよお前ら」
「だって親分、このままじゃ死んじゃいますし」
何だこれ、まるで私が悪いことしたみたい。
ばかばかしくなってきた。小さくため息を突いてダガーを鞘に納める。
「分かったよ。今日のことは許してあげる」
「ありがとうございます!」
モグラがいっせいに頭を下げる。
大きなモグラがむすっとしながら地面の上に腰を下ろした。
「ほら、親分」
「せっかく許してもらったんですから言うこと言わないと」
「分かってるっての! お前らがうながしたせいで、俺がちょっと恥ずかしい感じになっちまったじゃねえか!」
分かる。
私も子供の頃に謝ろうとしたら、先生に謝ってと言われてくやしい思いをした。モグラに妙な親近感を覚える。
「急に襲いかかって悪かった。ピッケルの音が聞こえたから、つい喧嘩腰になっちまった」
「ついで襲われたらたまったものじゃないよ。湿地帯のルールは知らないけどさ」
大きな顔がバツ悪そうに視線を逸らす。
悪いとは思ってるみたいだし、これ以上は責めないでおこう。
「そういえば聞きたいことがあるの。スコとプッツっていう黒いモグラがいるんだけどあなたたちの知り合い?」
モグラたちの視線が殺到した。
「スコとプッツだと? あいつら元気でやってるのか」
「うん。元気にラティカの地面を掘ってるよ」
「そうか。あいつらはおいらのところから独立してな。長い間会ってなかったからどうしてるかと思ってたが、そうかぁ」
大きなモグラが感慨深そうに腕を組む。
感動エピソードみたいな雰囲気出してるけど、街の地面に穴を掘るって相当迷惑な行為なんだよなぁ。
まあいいや。話はついたし、早くクエスト進めよう。
「それじゃ私もう行くね。スコとプッツに鉱石を届けなきゃいけないから」
「ここに来たのはあいつらのためだったのか? だったら早く言ってくれよ。そうすれば鉱石の一つや二つくれてやったのに」
「言うひまなかったでしょ」
「違いねえな」
よし! 大きなモグラがそう告げて立ち上がる。
「せめてもの罪滅ぼしだ、スコたちのもとに案内しな。おいらたちも協力してやる」
「協力って穴掘りを?」
「そうだ。ああ心配すんな、別に報酬はいらねえよ。おいらがやりてえからやるだけだ」
「それは助かるけど、そんな巨体でどうやって街中を移動するの?」
「ん、ん~~」
大きなモグラが腕を組む。
「親分はここで待っててくださいよ」
「オレらがばっちしがんばってきますから」
「そ、そうか? なら頼んだぞ」
等身大のモグラもだいぶ目立つと思う。
でもスコとプッツは街中で穴掘りしていたし、まぎれこむのは意外と簡単なのかもしれない。




